上 下
140 / 246
4 死闘

21

しおりを挟む
 そんな寝起きの顔をさっぱりさせるために、乙葉はすっくと立ち上がり、小屋から出て、トイレの洗面台にいくとすぐ、顔を洗った。
 すると気合いが入って、鏡を見た乙葉は自然と、
「よし」と、口から勝手に言葉が出ていた。
 今日は自分にできる最善のことをして、どうにか京一を死なせずに、みんなを助け出して、全員無事に外に出られるようにするんだ。
 乙葉はそう意気込んで、トイレから小屋へともどった。
「ああ、はやいな。乙葉」
 小屋にもどって早々、乙葉に気づいた京一が言った。
「京一、起きてたの」
 おどろきながら乙葉が言った。
「ああ」
 京一はそう答えると、なぜか乙葉の目をいぶかしそうに、じっと見はじめた。
「な、なによ」
 動揺しながら乙葉が尋ねた。
「いや、なんかお前、いつもより目が赤いぞ」
 心配しているのか、京一が乙葉の目をもっとよく見ようと、徐々に乙葉の顔に、自身の顔を近づけさせながら言った。
「もしかして昨日、あまり眠れなかったのか?」
「べ、別にそんなことないわよ。これくらいなんでもないから、本当に気にしないで。あとで目薬でもさしておくから」
 乙葉はとっさに自分の顔を隠しながら、京一から距離をとり、焦ったように言った。
「そうか、それなら別にいいんだが」
 まだに落ちていないようだったが、京一はもうそれ以上、乙葉の目が赤いことについて、なにも言ってこなくなった。
 まさか京一のことで心配して、一晩中眠れなかったのだとは、とてもじゃないけど、言えはしない。
 この時、乙葉はそう心の中で思っていた。
「ところで、ルーカスと内田さんは?」
 ふいに、乙葉があたりを見まわしながら言った。
しおりを挟む

処理中です...