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2 不思議なお城

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 銀司のせいで、どっと疲れが出た久遠が言った。
「これはルーカスさんがなにをしているのか、たしかめにいく必要がありますね」
 そう言うと、久遠はルーカスを探しに部屋から出ていった。
 長い廊下を、扉が開いていないかと確認しながら歩いていると、意外にもすぐに扉が開いている部屋が見つかった。
 その部屋にはなんと、ピアノやバイオリン、トランペットなど、なにやら楽器がたくさんあって、誰もなにも触れていないにもかかわらず、勝手に動いて曲が演奏されていた。
 しかも、楽器が奏でる音色はとても美しく、プロの奏者が演奏しているのではないかと思うほどだった。その様はまるでオーケストラのようで、久遠は自然と目をつむって聴き入ってしまった。
 しばらく音楽を楽しんでいると、久遠は急にハッとなり、我に返った。
「いけない、いけない。どうも二階にきてから、我を失いがちになる」
 ルーカスを探さなければと思い、ふと部屋の奥を見ると、なんとそこには探していた当の本人であるルーカスがいた。ルーカスは演奏を聴きながら、指揮棒を持って、でたらめに指揮をしていた。その様子を見ていると、ルーカスは完全に悦に入っているようで、なんだか話しかけづらかった。
 しかし、久遠は鍵探しのために話しかけないわけにはいかず、
「ルーカスさん、そんなところにいたんですね」と言った。
 久遠に気づいたルーカスは、途端に指揮をやめると、
「あ、久遠!」と、おどろいたように言った。
「僕の演奏会にようこそ」
「ようこそ、じゃないですよ。なにやってるんですか」
 引きつった顔をして久遠が言った。
「なにって、指揮だけど?」
 それがなんだというように、ルーカスが聞いた。
「指揮だけど? じゃないですよ」
 必死になって久遠が言った。
「やっぱりサボってるじゃないですか。銀司さんと言い、ルーカスさんと言い、本当にいい加減にしてくださいよ。僕だけじゃないですか、まじめに鍵を探しているのは」
「だって、この部屋、いつ来てもおもしろいんだもん」
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