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1 小さなリス

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 両手を強く握りしめながら、きっとした顔で乙葉が言った。
「だから、私は柚子を一人で助けにいく」
「乙葉、お前……」
 なにを思ったのか、京一が呟いた。
「反対してもムダだからね? 私、みんながなんて言おうと、絶対にいくから」
 頑固になって乙葉が言った。
 それを聞いた京一は、急に呆れたような顔になると、
「そんなにいうならわかった。もう俺の負けだ。乙葉も一緒に柚子を助けにいこう」と言い出した。
 これまであれだけ乙葉を、城への襲撃しゅうげきに参加させないようにしていたのに、突然、考えが変わった京一を見て、乙葉はおどろいて目を丸くすると、
「え? 本当に?」と言った。
「お前、いったら聞かないし、このままだと、本気で一人で助けにいきかねないからな」
 仕方なさそうに京一が言った。
「そうなったら、またこっちの手間が増えるだけだ」
「おいおい、なに照れてんだよ、兄ちゃん」
 すかさず銀司が冷やかすように言った。
「そこは素直に、『お前一人に助けにいかせるわけにはいかない。なぜならお前は、俺の大切な女だから』とかなんとかカッコいいこといっとけ——うえっ」
 銀司がすべてを言い終わる前に、京一が銀司の腹に向かって、思いきりパンチした。
「うるさい、だまってろ」
 その様子を見て、久遠と内田の二人は、銀司のことをあわれむように苦笑した。
 乙葉はこの時、みんなと一緒になって柚子を助けにいけることがうれしく、一人でそのよろこびを噛みしめていた。
「じゃあ、これからは乙葉も加えて、五人で作戦会議をしよう」
 みんなに向かって京一が言った。
「もうみんなわかってるとは思うけど、僕はみんなが、城に鍵探しと、柚子ちゃんを助けにいっている間、一人で小屋の見張りをしているから、心配しないでね」
 唯一ゆいいつ、城にいかない予定の内田が、おもむろに言った。
「ええ、わかりました」
 京一が返事をした。
「見張りは内田さんにまかせることにして、俺たちで鍵と柚子をなんとかしよう。それじゃ、引き続き作戦会議を進めるか」
 京一がいうと、みんなは声をそろえて、
「おー!」といって、こぶしを天井に向かって突き出した。
(柚子。私たちで柚子のこと、すぐに助けにいくから、すこしの間だけ待っていてね)
 乙葉はこの時、心の中で柚子にそう話しかけた。

                 ♢♢♢
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