ルーカスと呪われた遊園地（下）

１ 小さなリス

２９

「さっきの一瞬の間に、柚子が誰かにさらわれていっちゃいました……」
　信じられない気持ちで、乙葉が言った。
「うそ、それ本当？」
　おどろきながら内田が言った。
「多分、私の見まちがいじゃなければ」
　乙葉が答えた。
「でもたしかに、柚子ちゃん、さっきまでは、こっちに向かって歩いてきてたはずなのに、いつの間にか、本当にいなくなってるね」
　いぶかりながら内田が言った。
「あれだけ短い時間でさらっていくなんて、とてもじゃないけど、普通の人にはできないよ。一体誰がそんなことしたんだろう」
「本当に……」
　もはや放心状態の乙葉が言った。
「どんな人だった？」
　内田が尋ねた。
「黒いマントを着てました」
　柚子をさらった犯人のことを思い出しながら、乙葉が答えた。
「黒いマント——なんにせよ、本当に只者とは思えないよね」
　考えるように内田が言った。
「はい……」
　乙葉はあまりのショックから、それ以上なにも言えないでいた。
　どうして柚子はさらわれてしまったのだろう。しかも、風の吹いている一瞬のすきに。そのあまりのはやさに、乙葉は柚子を追いかけることもできず、ただただ風が止むまで耐えているしかなかった。
　もし、あの時さらわれた柚子を追いかけることができていたら、犯人の居場所をすぐに突き止めることができたかもしれない。それなのに、そんな重要な時になにもできなかった。乙葉はそのことを深く後悔し、頭を悩ませた。
　その乙葉の落ち込んでいる様子を見た内田は、急に焦ったようになると、
「あ、でも、ひょっとしたら、実はさらわれたのは本当に乙葉ちゃんの見まちがいで、小屋にもどってるっていう場合もあるし、ひとまず小屋にいってみようよ、ね？」と、乙葉の機嫌をとるように言った。