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1 小さなリス

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 それを聞いたルーカスは、あいかわらず、ひざに顔をうずめたままで、なにも言わないでいる。
「やっぱり、ダメ……?」
 あきらめがちに乙葉が言った。
「いや、いいよ」
 意外にもあっさりと承知したかと思えば、ルーカスはひざからゆっくりと顔を上げた。
「乙葉にだったら、すこしなら話せるかも」
「本当に? よかった」
 乙葉はほっと胸をなで下ろした。
「それで、どうしてなの?」
「うーん」
 ためらいながらルーカスが言った。
「実は昔、あそこで悲しいことがあって……」
「悲しいこと?」
 乙葉は顔をしかめた。
「うん」
 ルーカスが言った。
「僕、昔の記憶ってほとんどないんだけど、残っているのはママの記憶と、この遊園地の記憶だけなんだ」
 乙葉はようやく自分のことを話しはじめたルーカスを前にして、驚きためらいつつも、だまって真剣に、ルーカスの話を聞くことにした。
「大好きだったママと僕は、ある日この遊園地に訪れて、一日それはもう楽しく過ごしたんだ。一緒に乗り物に乗ったり、写真撮ったり、ゲームしたりね」
 ルーカスは楽しそうに話した。
 そんなルーカスを見て、乙葉もつい笑顔になった。
「僕はこの楽しい思い出のまま、ママと家に帰れると思ってた。だけど、実際はそうじゃなかった」
 これまで楽しそうだったルーカスの顔が、突然、くもり出した。
「僕とママはこの遊園地で、離れ離れになっちゃったんだ」
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