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1 小さなリス

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 どうしても言いたくないのか、ルーカスが誤魔化ごまかした。
「よくないわよ。だってルーカス、今日はなんだか様子が変だったし」
 気になって仕方がない乙葉が、しつこくそう言った。
「じゃあ、なんで外に出ていたのかだけでも、理由を教えてよ」
 ルーカスはすこしだけうつむくと、
「それは、たまには一人になるのもいいかなって思って」と言った。
 一人になりたいだなんて、ルーカスにしてはめずらしい。これまでだったら、必ずみんなと一緒にいたがっていたのに。一体どういう心境の変化だろう、と乙葉は思った。
「はあ、ちょっとつかれたから、この下におりて休憩」
 そう言うと、ルーカスはすぐ下にあった建物の屋上に、乙葉と共に下り立った。そして、すぐに二人はコンクリートの上に座り込んだ。
「なんだかなつかしいわ」
 ふいに乙葉が言った。
「最初にルーカスと出会ったときも、こうして助けてもらったわよね」
「そうだったっけ?」
 ルーカスは首をかしげた。
「そうよ、もう忘れたの?」
 おどろきながら乙葉が言った。
「ルーカスらしいわね」
「そんなこと、いちいち覚えていられないよ」
 そう言うと、ルーカスは上を見上げて、夜空を観賞し出した。
 すると、二人の間に沈黙が流れた。
 そんな時、乙葉もルーカスに見習って、上を見上げると、
「あのさ、ルーカス」と言った。
「どうしてあんなに、ジェットコースターを嫌うの?」
 以前から気になっていたことを、思いきって乙葉が尋ねると、ルーカスはなにも答えず、体育座りをしているひざに、顔をうずめてしまった。
 乙葉は気を悪くさせてしまったのだと思い、動揺しながら、
「ほら、ルーカスって、乗り物大好きじゃない? それなのに、どうしてジェットコースターだけはこばむのかなって……ルーカスが誰かにこのことを話すのが嫌なのはわかるわ。でも、私に話したらすこしは楽になるかもしれないし、よければ理由を話してくれない?」と言った。
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