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5 地獄行きジェットコースター

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「いや、別に褒めてないわよ!」
 柚子がかんちがいしている乙葉に向かって、素早く訂正した。
「あ、京一くんは絶叫系、得意だったっけ?」
「俺は別に、得意とかじゃなくて、普通に乗れる」
 こともなげに、京一が言った。
「さっすが京一くん。そんな京一くんに苦手なものがあるのか自体、不思議だわ」
 すこし大げさなくらいに、柚子が褒めた。
「いや、買いかぶりすぎだ。俺にも苦手なものくらいある」
 顔をそらしながら、ぶっきらぼうに京一が言った。
「え? あのいつでも、完璧に見える京一くんにも、ですか?」
 久遠がおどろいた様子で言った。
「意外だなあ」
 内田も久遠と同様、おどろいて目を見開いている。
「だから、過大評価しすぎだって言ってるだろ」
 困ったように、京一が言った。
「ふふふ……」
 突然、乙葉が不敵に笑った。
 みんなは一斉に、そんな乙葉に注目した。
「みんな知らないだろうから、かわりに私が教えてあげる。実は京一が苦手なものは……」
 話の途中で、京一は乙葉にこれ以上言わせないように、大きく咳払いをした。
「なによ、言わせてよ」
 怒った乙葉が言った。
「うるさい」
 ずばりと、京一が言い放った。
「じゃあ話を戻すけど、それで、留守番したいやつはいないのか?」
 乙葉がまわりを見まわした時、これまで珍しくずっと静かにしていたルーカスが、みんなの前に、ふわふわと浮かびながらやってきた。
「ルーカス、どうしたの?」
 柚子が尋ねた。
 一瞬の沈黙が流れたあと、
「僕、お留守番してるよ」と、元気がないような様子で、ルーカスが言った。
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