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4 財宝強盗

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「でも、これで終わりじゃない。とどめが必要だ」
「や、やめ、やめろ……」
 ずるずると、後ろにいずる音がする。権太が抵抗をしているようだ。
 やつはまるで、権太と遊んでいるように、楽しそうに笑っている。
(あいつ、相当頭が狂ってやがる……)
 銀司は、やつのことを残酷なやつだと思うと同時に、権太になにか、奇跡が起こって、助かればいいとそう願っていた。
 しかし、そんな銀司の願いも虚しく、次の瞬間、ここ一番というほどの、強烈な衝撃音と悲鳴が聞こえ、それからはもう二度と、権太の声を聞くことはなかった。
 その時、銀司は声を出さずに、ただ静かに泣いていた。
「ひと仕事したあとは、気持ちがいいなあ」
 人を殺したあとだというのに、やつは平然としながらそう言った。
「さて、こいつの仲間がまだどこかにいるはずだから、探さないといけないな」
 やつがそう言うと、しばらくして、棚の扉を開けるような、バタン、という、勢いのいい音がした。
「ここか?」
 その声が聞こえたあと、また棚の扉を開ける、大きな音がした。
「それともここか?」
 次もおなじような、棚の扉を開ける音がした。
「いや、こっちか?」
 次の次も、おなじ音だ。
 まずい、このままでは四郎が見つかる。銀司は自然に涙が止まり、四郎のことで、頭が一杯になった。
 頼む。四郎は、四郎だけは助かってくれ。悪事に手を染めはしても、人情に厚い銀司は、四郎が助かることをひたすら願った。
 もうこれ以上、誰かが死んでいく姿は、見たくない。
「おーい、どこだ?」
 棚の扉を開ける音を立てながら、待ちきれないように、やつが言った。
「隠れていないで、はやく出てきたらどうだ?」
(頼む、頼む……どうか)
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