上 下
116 / 244
3 隠し部屋

37

しおりを挟む
 あまる力をすべて出しながら、腕に力を集中させた。ふたりとも力んでいるせいか、顔がまっかになって、もはや原型がないほどに、苦しそうな表情を浮かべていた。
「いっ、けっー!」
 踏ん張りながら、乙葉は声を詰まらせた。
 それから数回ほど扉を引っ張ったあとで、ルーカスの様子が、明らかにおかしくなりはじめた。
「ああ、僕、もう疲れちゃった」
 そう言ったあと、空中から、へなへなと地面に下りていったルーカスは、そのままへたり込んだ。
「あとは乙葉が開けて」
「ええっ⁉︎」
 突然のことで、乙葉は驚きと動揺が混じり合った声を上げた。
「私一人じゃ、開けられないわ」
 しかし、ルーカスは乙葉のいうことなど、まったく聞いていない様子で、その場に寝転び、いつでも眠れる体勢になった。
「でも、剣を見たいって言ったのは乙葉だし」
 そう言うルーカスの瞼はだんだんと下がり、うとうとしているように見えた。
「それは、そうだけど」
 うろたえながら乙葉が言った。
「だからがんばってね……じゃあ……僕は……ちょっとだけ……眠るから……おやすみ」
 ついには、ルーカスの瞼が完全に閉じてしまい、深い眠りについたようだった。
「そんなあ」
 あんまりだと思いながら、乙葉は失望の色を浮かべた顔をして、悲痛な声を出した。
 ふたりしかいない静かな空間に、早速、眠りはじめたルーカスの、気持ち良さそうな寝息がひびいた。
 そんなルーカスのマイペース具合に呆れながらも、
「でも、ここまできたからには、一人でもやるしかないわ」と、あきらめて乙葉が呟いた。
 そのあと、ルーカスが眠ってから、乙葉は一人で、すこしずつ扉を開けた。力を込めて懸命に引っ張っていると、そのうちに、乙葉の手はまっかになって、いくつか豆ができはじめていた。しかし、乙葉はそんなこと気にせずに、何度か取手を引っ張りつづけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

YouTuber犬『みたらし』の日常

雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。 二歳の柴犬だ。 飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。 まぁいい。 オレには関係ない。 エサさえ貰えればそれでいい。 これは、そんなオレの話だ。 本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。 無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で楽しめる短めの意味が分かると怖い話をたくさん作って投稿しているよ。 ヒントや補足的な役割として解説も用意しているけど、自分で想像しながら読むのがおすすめだよ。 中にはホラー寄りのものとクイズ寄りのものがあるから、お好みのお話を探してね。

ハート オール デスゲーム/宇宙から来たロボットに拠る地球侵略

桃月熊
児童書・童話
謎の競技(頭脳戦)に強制参加させられる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ jokerを当てろ。 水平思考推理ゲーム。(うみがめのすーぷ) マシュマロ大食いバトル。 携帯ゲーム機。 サイコロ振り。 ルール不明。 偶数 奇数 ルーレット。 苗字を探せ。 ジャンケン最強の手。 大喜利 回答に投票 能力と道具の設定あり。 利き水 百種類から選択。 赤を集めよう。 算数ドリル。 チェス。 人狼ゲームに参加? 使用後に四割の確率で状態異常になるペン。 使用後に八割の確率で状態異常になるペン。 御褒美を選ぼう。 体育館に集合・説明なし。 神経衰弱 カード百枚 ペアは一組。 passwordを推測しろ。 毒薬を当てろ。 他者と被らずに10迄で最も大きい数字。 白線を進む。 現象の名付け親。 討論 超能力の有無の証明vs論破。 Dr.salt登場。 ドミノ。 正反対の意味を内包する同一単語。 選択式野球。 多数派又は少数派。 トランプ七枚選択数字合わせ。 数字のスタンプ押し。 コインの表が出る確率。 鬼不明の鬼ごっこ。 枯葉に書かれた文字。 早押し・完全なる偽者への対処法。 室温調整。 改良・トランプ七枚選択数字合わせ。 言い換え。 二枚のカード 保持と放出。 連携 追跡者から逃亡せよ。 誰にも解けない問題作成。 参加人数を数えて報告。 勝ち抜け四 脱落一 白紙九十五。 肉食え。 トランプで連番五枚。 辞書に載っている単語を作れ。

まくちゃんとなかまたち

こぐまじゅんこ
児童書・童話
くまのまくちゃんと森の仲間たちのお話です。 短編集です。 よかったら、読んでみてください。 挿し絵もあります。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

処理中です...