上 下
102 / 244
3 隠し部屋

23

しおりを挟む
 なんにせよ、普通に生活していたら、めったに入れなさそうな場所に入ることができて、乙葉はすこしばかり感動していた。
 せっかくだから、思う存分この雰囲気を味わって帰ろう、と乙葉は歩きながら考えていた。
 ルーカスはこの時、すでにビリヤードから離れていて、またもや一人でダーツを楽しんでいた。なぜかルーカスが投げるダーツの矢は、すべて中心に当たっていた。そのたびにダーツボードは機械的な音を立てて、赤やオレンジに色を変え、あざやかに光っていた。
「えへへ、僕上手いでしょ」
 したり顔をしてルーカスが言った。
 乙葉はルーカスの器用さに、面食らいながらも、
「ルーカス、あなた意外とやるわね」と、素直に褒めた。
 そのあと、乙葉は最初の部屋に戻り、ふたたび部屋を観察しはじめた。ゆっくりと部屋を見てまわり、気になるものがあれば、実際に手にとってたしかめてみたりした。
 本棚の前までくると、乙葉はまるでなにかに命令されたように気になって足を止めた。そして上から順番に本を見ていった。何冊か手にとり、読んでみた。しかし、英語で書かれた本ばかりで読めず、残念な気持ちになった。そこで、乙葉はたくさんある本の中でも、たった一冊の赤色の本に、ひどく目を奪われた。
 その赤色の本は、ほかのどの本よりも古く、革が所々めくれている上に、汚れていた。それなのに、バラのように真っ赤な色のダマスク柄をしていて、本棚にある本の中で、もっとも派手で目立っていた。
 乙葉がその本を手にとって見ていると、先ほどまで別の部屋でダーツをしていたはずのルーカスがやってきて、
「あー、その本見てるんだ」と言った。
「僕、もう何回も読んじゃったから、内容覚えちゃったよ」
「でもこれ、英語でしょ?」
 タイトルが英語で書かれた表紙を見ながら、しかめ面で乙葉が言った。
「ちがうよ。その本は表紙こそ英語だけど、本の中身は日本語で書かれてる」
 即座にルーカスが答えた。
「まあ、僕は英語も読めるし、話せるけどね」
 乙葉は一言余計だと思いながら、
「へえ。それでこれ、一体なんの本なの?」と言った。
「まあ読んでみなよ」
 ルーカスにそう言われ、乙葉は早速、本を開けて読むことにした。

しおりを挟む

処理中です...