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3 隠し部屋

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「この辺だったと思うけど……」
 怯えながら柚子が言った。
「犯人かもしれないな」
 考えるように京一が言った。
「柚子、絶対に、俺から離れるなよ」
 柚子はうなずき、京一に近づいて背中に隠れながら、引っついて歩いた。
「おい、誰かそこにいるなら、出てこい」
 京一は大きな声で言った。
 すると、まるで返事をするように、ガラクタが積まれた奥の方で、なにか角ばった硬い物が落ちる、物音が聞こえた。
「ひっ」
 恐怖に駆られた柚子が、思わず悲鳴を上げて足を止めた。
「どうやら、本当にいるようだな」
 おなじく足を止めた京一が、冷静に直言した。
「そこにいるのはわかってるんだ。大人しく出てこい」
「京一くん、そんなこと言って大丈夫なの?」
 不安になりながら柚子が言った。
 京一は柚子のいうことを無視し、そのまま犯人が出てくるのを待った。しかし、誰も出てくる様子はない。痺れを切らした京一は、慎重さをかなぐり捨てて、を進める。
「ちょっと! 待ってよ、京一くん!」
 置いていかれそうになった柚子は、走りながら京一を追いかけた。
 その時、また近くで人影が見えたと思いきや、物の後ろに隠れるように、去っていった。
「そこか!」
 そう言うと、京一はガラクタを掻き分けながら、影の方に向かって、勢いよく走った。
 行く途中、コーヒーカップの形をした大きな乗り物が、京一の行く手をはばんだ。京一はその乗り物を、まるでハードル走のように難なくとびこえ、さきをいそいだ。
 もはや京一の目には、犯人しか見えていないようだ。柚子のことは気にする素振りさえ見せない。柚子はそのことに半分呆れつつも、京一から目を離さないようにするのに、精一杯だった。
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