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3 隠し部屋
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倉庫の中に移動した、京一と柚子は、犯人がいないか、警戒しながら周りを見て歩いていた。
ここはなぜだか電気がつかない。だからあたりは薄暗くて、とても探しづらかった。でも、窓から入ってくるわずかな明かりのお陰で、かろうじて見える。
倉庫に置かれているものは、使われていないガラクタが大半だった。かつて、パレードかなにかに使われていたのであろう、派手な装飾がされている大道具や小物、着ぐるみなどがたくさん放置されている。
柚子はこの倉庫に入ってから、何度か咳を繰り返していた。それは、あちこちで見えないほこりが舞っていたからだ。
とても居心地が悪いと柚子は思った。だからこれ以上は、なるべくほこりを吸い込まないように、手で口元を押さえて、なんとか耐えていた。
「知らなかった。こんな場所があったのね」
コホン、と一度咳をして、流れてくる鼻水を、人さし指で拭いながら、感心して柚子が言った。
「ああ」
なんでもないように、京一が言った。
「ここは前に乙葉が一人で、バーサークに見つからないように隠れていた場所だ」
「へえ、そうだったの」
そう言うと、柚子はズルズルと、鼻水を吸い込んだ。
「それにしても柚子、大丈夫か?」
心配そうな顔をして、京一が言った。
「さっきから咳ばかりしているみたいだが」
「ああ、うん。なんとかね」
顔をしかめながら、柚子が言った。
「ならいいんだが」
まだ心配そうにしながら、京一がそう言った。
本当は大丈夫ではなかった。でも、この倉庫から出さえしたら、咳や鼻水も止まる。きちんと犯人を探し出すまでは、我慢するしかない。柚子は京一のために遠慮して、本音は言わないでいることにした。
「柚子、ここではなるべく、俺から離れない方がいい」
京一が警告した。
「物陰から、いつ犯人が飛び出してくるかわからないからな」
「うん、わかった」
柚子は京一の背中を見ながら、素直にしたがった。
いまのように、柚子にとって京一は、昔からとても頼りになる存在だった。
それとなにかあれば、いつもさりげなく助けてくれた。
京一は覚えているだろうか。
柚子が初めて京一のことを、ただの幼なじみだと思わなくなった、あの時のことを……。
♢♢♢
ここはなぜだか電気がつかない。だからあたりは薄暗くて、とても探しづらかった。でも、窓から入ってくるわずかな明かりのお陰で、かろうじて見える。
倉庫に置かれているものは、使われていないガラクタが大半だった。かつて、パレードかなにかに使われていたのであろう、派手な装飾がされている大道具や小物、着ぐるみなどがたくさん放置されている。
柚子はこの倉庫に入ってから、何度か咳を繰り返していた。それは、あちこちで見えないほこりが舞っていたからだ。
とても居心地が悪いと柚子は思った。だからこれ以上は、なるべくほこりを吸い込まないように、手で口元を押さえて、なんとか耐えていた。
「知らなかった。こんな場所があったのね」
コホン、と一度咳をして、流れてくる鼻水を、人さし指で拭いながら、感心して柚子が言った。
「ああ」
なんでもないように、京一が言った。
「ここは前に乙葉が一人で、バーサークに見つからないように隠れていた場所だ」
「へえ、そうだったの」
そう言うと、柚子はズルズルと、鼻水を吸い込んだ。
「それにしても柚子、大丈夫か?」
心配そうな顔をして、京一が言った。
「さっきから咳ばかりしているみたいだが」
「ああ、うん。なんとかね」
顔をしかめながら、柚子が言った。
「ならいいんだが」
まだ心配そうにしながら、京一がそう言った。
本当は大丈夫ではなかった。でも、この倉庫から出さえしたら、咳や鼻水も止まる。きちんと犯人を探し出すまでは、我慢するしかない。柚子は京一のために遠慮して、本音は言わないでいることにした。
「柚子、ここではなるべく、俺から離れない方がいい」
京一が警告した。
「物陰から、いつ犯人が飛び出してくるかわからないからな」
「うん、わかった」
柚子は京一の背中を見ながら、素直にしたがった。
いまのように、柚子にとって京一は、昔からとても頼りになる存在だった。
それとなにかあれば、いつもさりげなく助けてくれた。
京一は覚えているだろうか。
柚子が初めて京一のことを、ただの幼なじみだと思わなくなった、あの時のことを……。
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