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1 絶対絶命ゴーカート

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 なにをしているのか無性に気になった乙葉は、
「ルーカス。どうしたの? そんなところで一人でいたりして」と言った。
 すると、ルーカスはいきなり話しかけられてびっくりしたのか、ビクッと体を震えさせたあと、
「え? いやー、別に?」と、なにやらあやしげにそう言った。
「なにかそこにあるの?」
 乙葉が覗き込みながら言った。
「だからー、別になにもないって言ってるじゃん」
 苛立った様子でルーカスが言った。
「そう言われると、ますます気になるわね」
 乙葉がそう言った途端、ルーカスは立ち上がって飛び、
「もう、あっちに行っててよ」といい、乙葉の背中を押し、その場から無理やり退散させようとした。
「ちょっとちょっと、ルーカス、押さないでよ」
 乙葉は後ろを見ながらも、ルーカスに背中を押されてしまい、立ち去らずにはいられなかった。
 一体なにがあったのだろう。とても気になった乙葉だったが、そのことは時間が経つにつれて、乙葉の頭の中から徐々に消えていった。
 そのあと、いくらか長い時間をかけて建物の中を探したが、結局見つからず、京一の当初の計画で最終手段であった、カートに乗って鍵を探すことを、実行するにいたった。その結果、案の定、ルーカスはコースの上を飛びまわって、よろこんでいた。
 全員はスタート地点まで移動し、カートからすこし離れた、芝生の上で円になった。
「いまからゴーカートに一緒に乗るペアを決める。一人は運転して、一人は鍵を探す。よし、じゃあ、グッパーしよう」
 片手のこぶしを握りながら、京一が言った。
「グッパー? なにそれ」
 ルーカスが不思議そうに言った。
「じゃんけんと似たようなものだよ。チョキが出せないだけで」
 京一がルーカスに説明した。
「ふーん」
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