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1 絶対絶命ゴーカート

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 柚子はその言葉を聞くと、乙葉の体を揺さぶるのをやめ、
「起きて」と、一言そう言った。
「いやよ」
 即座に乙葉が答えた。
 それでも柚子はあきらめずに、
「起きてよ」と言った。
「いや。まだ寝ていたいの」
 乙葉は相変わらず目をつむりつつも、柚子の声がこれ以上聞こえないように、両手で耳をふさぎながら、寝返りを打った。
「だめ、起きて」
 乙葉の両手を、耳から引きはがそうと、柚子が手で、思いきり引っ張った。
 しかし、乙葉は激しく抵抗した。
 しばらくそんなやり取りをしていると、乙葉の体は、ますます熱くなってきた。そしてとうとう、柚子のしつこさと、あまりの体の熱さに耐えられなくなり、乙葉はついに、パチッと目を開けた。
「やっと起きた」
 待ちくたびれたように、柚子が言った。
 当の乙葉は、勢いよく起き上がって、
「ああ、もう、暑い」と、うなるように言った。
「そりゃ暑いでしょうよ。こんな暑さの中、こりずにまだ寝ようとしていたお姉ちゃんが、私には信じられないわ」
 呆れながら柚子が言った。
「もう、柚子。どうして私を起こしたのよ」
 怒りながら乙葉が言った。
「私はちゃんと、起きる予定の時間に、アラームをセットしてあるんだから、せめてアラームが鳴るまで、寝かせておいてよ」
「でも、京一くんと久遠さん、もうどこかにいっちゃってるわよ」
 柚子が言った。
「どこかってどこに?」
 乙葉が尋ねた。
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