妖精たちと出会った日

大森かおり

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2 マレットの憂鬱

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 マレットはその、何匹かの蝶々を見たとたん、
(この蝶々たちを、キャンバスに描いたら、どんなにきれいかしら。きっと、すごくいい絵になるにちがいないわ)と思った。
 こんなふうに蝶々を見る時も、マレットはまた、絵を描くことを考えていた。
 もし、ほかのひとが、マレットが実は、頭の中でこんなことばかり考えているんだと知ったら、きっとうんざりするにちがいない。だってマレットはもう、絵を描くことに夢中だから。マレットは本当に、絵以外の、別のことになんて、おしゃれと食べることをのぞいて、興味なんてない。すっかり、絵を描くことに恋をしているのだ。
 やがてマレットは、草原についた。
 けれども、寝転んでのんびりしたりだとか、花を摘んで花かんむりを作ったりだとか、シャボン玉を吹いたりだとか、そういった普通の子がする遊びは、やっぱり、いっさいしないのだった。
 マレットは、草原でいい場所を見つけて早々、イーゼルやキャンバス、色とりどりの絵の具にパレット、バケツ、筆やハケなんかを取り出して、草の上に、次々と置いていった。それから、イーゼルを手際よく組み立てて、そこに真っ白なキャンバスを置き、茶色いパレットの上に、今日使う色鮮やかな絵の具をたっぷりたらした。そのあと、マレットは、そのパレットを左手で持ちながら、筆を持った右手を、目の前にあるケヤキの木に向けて伸ばし、片目をつぶって見た。
 さあ、ここで質問だ。マレットがいま、なにをしているのか、君はわかるかな? 少し時間をあげよう。
 ——答えがわかったかな? さて、そろそろ正解を言うとしよう。
 それはね、プロポーションを測っているところなんだ。
 プロポーションっていうのは、縦と横の長さの比、もしくはパーツと別のパーツを比較したときの、大まかなサイズ比のことをいうんだ。
 マレットは、そのプロポーションを測ったあと、うんうんと、一人頷くと、目の前にある、大きなキャンバスに、さっそく筆で、絵を描き始めた。
 それからマレットは、しばらく絵を描くことに没頭した。
 こうなった時のマレットといったら、もう周りのことなんて、何も目に入らないどころか、耳にも入らない。一度なんて、部屋で描いている時、お母さんに何度も、
「マレット、お昼よ」と、呼ばれたことがあったのだけど、マレットはそれらをいっさい無視して、お母さんに肩を叩かれるまで、気づくことがないまま、絵を描き続けたのだった。
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