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34話 発見、猫島
しおりを挟むパラディース島から北へと船を進めて3日が経った。
だだっ広い船内はありとあらゆる個性の塊が散乱しており、終始カオスであった。
ボクはそんなカオスな状況にもめげずにこの広い海を見渡していた。
何処までも果てしなく青色が広がっていて、空と海の境目を見つめているのが面白い。
こんな航海を毎日続ける海賊なんかも面白かったかなぁなんて考えていると、ウォルトがバサッと飛んでやってきた。
「大将、もうすぐ無人島に着くらしいぜ」
「お、やっと最初の島に到着かぁ」
「有人島はポツポツあったんだけどな。俺らの目的はあくまで無人島だからな」
「そうだね、とりえあず主要メンバーだけで上陸して、あとのみんなには船で待っててもらおう」
「了解」
⸺⸺名もなき島⸺⸺
船を海岸に停泊させ、エーベル商会自慢の組み立て式の船着き場を設置。
そこから人の姿をした猫王4人とフェリクスとウォルトの6人で上陸した。
ボクたちが上陸するとすぐにエーベル商会の魔導船舶整備士さんたちがメンテナンス作業へと入る。
ボクたちはそんな彼らに背を向け、初めての他の島を歩き始めた。
そこはひたすらに森が広がっている島であった。
「漆黒の気配が結構あるようだな」
と、アビス。
「無人島は魔物が野放しだからね。まずは討伐するかい?」
フェリクスがそう言うと、ウォルトが口を挟んだ。
「待て、魔物討伐はいいんだけどよ……この島、あっちこっちに猫がいるぜ?」
「えええ異世界の猫!?」
「いや、俺らからしたらお前らの方が“異世界の猫”だけどな……」
ボクの驚きの叫びに対し、ウォルトがそうツッコミを入れた。
「でも、そんな魔物だらけの島で猫は無事なのかな? 黒魔症っていうのになっちゃってないかな?」
ボクがそう不安を顕にすると、フェリクスがそれを解消してくれる。
「普通の動物には魔力がないからね。魔物も彼らには見向きもしないはずだから、自分から飛び込みさえしなければ大丈夫だよ」
「そっかぁ。なら安心だ」
「ふむ、ならばその猫らに危害が及ばぬよう細々と討伐する必要があるのぅ」
と、ルナ。それに対しナーガがボソッとこう言う。
「ワシ、いいこと思いついた……」
「なになに?」
と、ボク。
「この辺でマタタビの枝、燃やせばいい。猫を全員ここに集めれば心置きなく討伐できる」
「なるほど! 早速やってみよう!」
⸺⸺10分後。
「ごろにゃんごろにゃん」
「ごろにゃ~ん」
島中の猫がゴロゴロ言いながら集まってきて、マタタビの枝を燃やしている周辺に寝転がっていた。
その集団の中に、漏れなく猫王のボクらも混ざっていた。
「あぁぁぁ、たまらんにゃ~」
「ふんがふんが、もう俺様ずっとここにいる」
「ごろにゃんごろにゃん」
「……キマる……」
「何でお前らまで引っかかってんだよ~!」
ウォルトの悲痛な叫びももはやボクたちには届かない。
「せめて……猫の姿になってからやってもらえないか……。人が4人、猫に混じって悶えているのは、見るに堪えない……」
と、フェリクス。
更には船にいた猫にまで当然届いており、海岸はもはや収拾がつかない状態になっていた。
そのため、マタタビの枝を船の中に移動させて大量の猫を誘導し、船の入り口を閉じた所で枝を回収して事を収めたらしい。
「はっ、ボクたちは今まで何を……!」
ボクはアンナの膝の上で正気を取り戻した。
「うふふ、レクス様おはようございますぅ」
アンナはなんか嬉しそうだ。
シャンディも覗き込んでくる。
「マタタビにそんな効果があったなんて……今度夜に試してみるのも面白いわね……」
「まぁ、それ賛成……」
それだけは絶対にやめて!?
シャンディ悪い顔してる……。あぁ、アンナまで悪い顔に……。
ボクは逃げるように船から飛んで再び無人島へと降り立った。
それにしても、二日酔いのように頭が痛くてまだフラフラする……なんか気持ち悪いし。
そしてフラフラの猫王4人が揃うと、フラフラ無双が始まった。
「ニャンハルコンフラーッシュ……」
ボクがそう弱々しく叫ぶと、ニャンハルコンの剣から波波の光線が森へと放たれる。
一見弱そうに見えても辺り一面が灰になった。
「月光魔法 ムーングラ……うっ」
ルナは自分の使った重力にやられている。
それでも魔法の発動はできたようで、辺り一面が更地になった。
「ドラゴンブレ……おえっ」
待ってナーガ! ブレス以外の物も口から出てきた気がする!
それでも辺り一面が焼け野原になった。
「深淵魔法……カオス……うっ、その黒いドロドロやめろ……気持ち悪っ」
その黒いドロドロ自分で出してるんだからね!?
結局“カオス”しか唱えてないけど辺り一面が無に返った。
⸺⸺
「ぜぇ、ぜぇ……なんとか殲滅完了かな……」
猫王4人は満身創痍でその場に倒れた。
⸺⸺翌日。
どうやら昨日はこの島に船を停泊させたまま一夜を明かしたらしく、すっかり元気になったボクたちはこの無人島をどうするかを考えた。
「ナーガ、この島使えそう?」
ボクが尋ねる。
「ちょっと見てくる……」
ナーガがそう言ってバッサバッサと上空へ飛び上がると、すぐに降下して戻ってきた。
「小さいから要らない」
「えっ! 島の大きさが問題なら昨日着いた時点で確認すれば良かったよね!?」
「すまん……忘れてた……」
「ま、まぁいいや……ルナはどう?」
ボクは気を取り直してルナへと尋ねる。
「ナーガのゲロがそこら中に散乱しておる故絶対に嫌じゃ」
ルナはぷいっとそっぽを向いた。
「……あれ……ボクたちこの島に何しに来たんだっけ……」
ボクは呆然とする。
「教えてやろうか?」
と、ウォルト。それにフェリクスが続く。
「無意味な島の住猫誘拐、無意味な森林破壊、無意味な環境汚染、無意味な精神錯乱。以上」
「がーん……」
ボクは頭が真っ白になった。
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