上 下
18 / 44

18話 猫はやはり猫

しおりを挟む

 商人デニーロの所属するエーベル商会はかなり有力な商会のようで、彼らが帰ってから数日後、続々といろんな商会が港を訪れた。

 ボクは急遽きゅうきょ元商人のヒュナム族のオス、トーマスを商船対応隊長に任命して、迎賓館げいひんかんで対応してもらうことにした。


 今日も朝からたくさんの商船が訪れていて、そのせいで城内は騒然としていた。

「俺様も挨拶に行くぞ! 深淵しんえん覇者はしゃ、魔王アビス様だ、わーっはっはっはー!」

 城のバルコニーから外へ飛び出そうとするアビスをボクも含めた他の3匹で全力で引っ張って止める。
「お願いホントやめて。商人の人たちみんな取引どころじゃなくなっちゃうから」

「む、何故なぜだ? ぶはぁ!」
 アビスは急に止まってそう言うので、ボクたちはそろってアビスに突撃した。

「貴様ら何をするのだ!」
「アビスが急に止まるから……」
 ボクはパンパンとローブを払いながら言う。

「む、そうか、それはすまん」
 あくまでも素直なアビスである。

「あのね、アビス。ボクたちってかなり珍しいんだって。この町の人たちは、ボクたちに感謝してくれてて、暗黙の了解でボクたちの存在を秘密にしててくれてるんだ」

 ボクがそう言うと、ナーガが続く。
「ワシらの存在、外国の人たちにバレたら、商船だけじゃなくて国の軍艦とか、悪い海賊とかがいっぱい来ることになる……」

「全て沈めれば良かろう?」
 と、アビス。ルナが答える。
「強行手段に出れば、全世界を敵に回すことになり、たとえ我らの敵ではなかったとしても、この町は何でも武力行使をする野蛮な町だと認定を受けることとなる」

 ボクが続く。
「そうすると、商船も怖がって来なくなっちゃって、結果的にギルドの人たちの楽しみを奪うことになっちゃうよ。それに、取引以外の船が押し寄せたら、それこそ商船の止まる船着き場がなくなっちゃう」

「む、そうか。すまん、早まった真似をした」
 アビスはそう言ってペコリと頭を下げた。良くも悪くも純粋だから、ちゃんと説明をすれば分かってくれるのだ。

「ありがとうアビス。我慢させてごめんね」
「はっはっは、気にするな竹猫たけねこの友よ。俺様もこの町はもっともっと発展させたいと思っている。この俺様のくだらない欲でそれが崩れるのは俺様自身も勘弁だ」
 アビスはボクの肩をポンポンと叩いた。

「ワシらも、人の姿になれれば良いのだが……」

「!」

 ナーガのその何気ない一言に、ボクたちはみんなで顔を見合わせた。

「え、みんな、できそう?」
 ボクは心臓をバクバクさせながらみんなを見渡す。

わらわは無理じゃ。どれだけ念じてもそういうふうに変化はしそうにないのう」
「俺様もだ……」
「ワシも……」

「そ、そっか、なれないのがボクだけだったら寂しかったから逆に良かった……」
 ボクはホッと胸を撫で下ろす。みんなも同じ気持ちだったようで、うんうんと安堵あんどし合った。

「しかし、俺様の成長に伴い角が生えたりしたから、今後力を使って経験を積めば、ワンチャンあるかもしれんなぁ」
 と、アビス。

「確かに。そうなったらいいね!」
 ボクはワクワクした。

「ふむ、もしそうなれば妾はちゃんとした着物が来てみたいのう」
「ワシ、酒飲んでみたい」
「そうなれば、一緒に飲むぞ!」

「人間の姿になったからって飲んでいいのかは分からないけど、一緒に飲みたいね! あとお洒落しゃれもたくさんしたい!」
 ボクがそうまとめると、みんなうんうんとうなずいた。


 その時、1階からアンナの呼びかける声が聞こえてくる。

「みなさーん! お食事の時間ですよ~! 今日はナンヨウフィッシュ味のカリカリとナンヨウフィッシュのすり身に、鰹節かつおぶしをトッピングしましたよ~!」

「んにゃぁぁぁぁ!」
「お魚祭りじゃーい!」
「妾が1番じゃ!」
「ワシが1番食べる!」

 猫4匹は豪華なカリカリ御膳ごぜんによだれを飛ばしながら、我先にと階段を降りていった。


「いただきまーす!」

 最近スプーンの使い方を覚えたからアンナが用意してくれていたんだけど、みんなそんなの使う余裕もなく、ガブガブとお皿にかぶりつく。

 このカリカリの硬い食感と、すり身のふわふわな食感のコラボがたまらんのにゃぁぁ。

 みんな舌鼓したつづみを打ちながら美味いうまいとたいらげ、余韻よいんひたって床に溶けていた。

 そんなみんなをいつものように『猫吸い』のメンバーがすくい上げて膝の上に乗せて撫でてくれるのだ。

 ボクは勿論もちろんアンナの膝の上でゴロゴロ言っている。
 そして最近ルナはどうやらフェリクスの膝の上でゴロゴロ言っているようなのである。


 みんな猫っぽくない姿や力を手に入れても、猫はやはり猫。何処どこまでいっても猫は猫なのだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...