上 下
9 / 44

9話 追放者について考えよう

しおりを挟む

「どうしたの、この人たち!?」
 ザッと見るだけでも500人以上はいるであろうオーガの大群に、ボクは目をぱちくりとさせた。

 すると、プラムの長のウォルトが目の前まで秒で飛んできて、状況を説明してくれた。


 ボクたちがダンジョン攻略をしている間、ウォルト率いるプラム隊が大草原をパトロールしてくれていたそうだ。

 すると国の外れに築かれている巨大な城壁から、たくさんのオーガが次々に押し出されている現場を目撃したそう。

 その城壁は国の領土の最西端さいせいたんで、そこからこちら側が未開拓の地となる。
 プラムやエルフ、職人たちが追放されたときも、同じようにそこから押し出されたそうだ。

 ウォルトがオーガたちの元へ行き話を聞くと、パワーがありすぎるため反乱を企んでいるとして、国王に追放されたとのこと。
 そのためプラム隊が護衛をしながら、ここまで連れてきたということであった。

 オーガ族の人々は追い出されて死んだと思っていた知り合いとまた会えた喜びと、自分たちも死なずに済んだ安心とで、あっちこっちで抱き合い泣きじゃくっていた。 

「そもそも、その国王はいつからそんなことしてんの?」
 ボクは目の前にいるフェリクスとウォルトへと問う。

 先に口を開いたのはフェリクスの方だった。
「俺らエルフが追放される2か月前に前国王が亡くなって、現国王になったんだ。現国王は王子の時からだらしなく自己中で、皆将来を不安がっていた。そして王が交代するとすぐに奴はやりたい放題し始めて、俺らエルフを追放した。多分自分よりも優れているところがあるのが気に入らないんだろうね。それが5年くらい前の話」

「なるほど、世代交代か……それで5年前から急に……」


 次にウォルトが口を開く。
「んで、俺らが追放されるまでの間にも種族全員はないにしても、国王の気に入らない奴らがポツポツ追放されてはいたんだ。で、俺らの番って訳だな。だからもしかしたら今までに追放された奴がどっかで助けを求めてるかもしんねぇって思ってパトロールをしてたんだけど、まぁ見つかんねぇな」

「そっかぁ……1人だけだと生き残るのは厳しいかもね。でもそのパトロールのお陰で、今こうしてオーガの人たちを助けることができた。今はそれを喜ぼう」
 ボクがそう言うと、ウォルトは「だな」と言って笑った。 

 そしてボクは更なる疑問をぶつける。
「そんなに追放してばかりだと、国の人たち誰もいなくなっちゃうよね。だって、もうその国にはエルフもプラムもオーガもいないんでしょ?」

 それに対しフェリクスが答える。
「追放されるのは王都に住んでる人ばかりなんだけど、俺らは少数種族なんだよ。エルフは当時500人ほど、プラムなんて100人ほどしかいない超少数種族だった。国民のほとんどがヒュナム族で当時は3万人くらいだったかな。王もヒュナム。だから余計、王からしたら異物がいて目障めざわりなんだろうね」
 
 ウォルトが続く。
「だからよ、王都から遠い辺境の村とかならまだプラムもエルフもいるかもだぜ。ちょっと数は分かんねぇけどな」

「そういうことかぁ。じゃぁ何で辺境に逃げないでみんな王都にいたの?」
「前国王はめちゃくちゃ良い奴だったし、俺もフェリクスも王国軍に所属していたから、国のためを思うと出ていけなかったんだ。他の奴らは知んねぇけど、それなりの理由はあるはずだぜ」
 と、ウォルト。
「そっか……王国軍、カッコイイね」
「だろ? それなりにやりがいはあったんだぜ」

⸺⸺

 話題は追放者への対応についてに移る。さっきの話を聞く限りでは、これからもっともっと追放者は現れるはずだ。
 できれば1人でも見捨てたくはない。

「とりあえず今いるオーガの人たちには、自分の家は自分で建ててもらいたい。これからボクたちは鉱石の採掘場までの導線を確保しなきゃいけないからね」
 ボクはフェリクスとウォルトにそう提言する。
「大丈夫、今回はあまりにも人数が多かったから、そうなるだろうってオーガの奴らには最初に言ってある。オーガはみんな力があるから得意分野だってよ」
 と、ウォルト。流石、プラムをまとめる兄貴。頼りになるなぁ。

「ありがとう、助かるよ。家ができたら、次は鉱石運びと街道の整備を同時進行でやるからって言っておいて」

「「街道の整備?」」
 フェリクスとウォルトが同時に尋ねる。

「国境の城壁からここまで街道を敷く。そうすれば追放者も安全にここまで来れるでしょ? 途中休憩場所なんかも作ってもいいね」
「お前……できる猫じゃねぇか!」
 ウォルトがそう言ってボクの頭をガシガシと撫でた。フェリクスもうんうんとうなずいている。

「ボクが考えてるのはね、国境を越えて向こうに進出してまで国民たちをこっちへ誘導するのは泥棒だと思うし、かと言って侵略したり、国王を殺したりするのもなんか違うと思う。だから、追放者を1人も死なせない。隣国に対してはこれを当面の目標にしていきたい」

「俺ぁどこまでもお前に着いていくぜ」
「今いる皆にも周知する必要があるね」
 ウォルトとフェリクスがそれぞれ意見を述べる。

「そうだね。もしかしたら国に恨みを持ってて国王を殺してほしいって思ってる人はいっぱいいると思うけど、ボクはそれはしたくないから、そのこともちゃんと伝えないと。それよりも今ここに住んでいる環境をもっともっとよくしていきたいんだ」

「うん、じゃぁ明日の朝イチにでも集会を開こう。人数増えてから朝の集会はしなくなっちゃったしね」
 フェリクスの提案に、ボクもウォルトも賛同した。

⸺⸺

 翌朝、みんなに集まってもらうと、ボクは城の屋根に登り、昨日決めたことを大声で皆に伝えた。
 途中ざわつくこともあったけど、追放者を死なせない、今住んでいる環境を良くしていきたい、この2つの方針にはみんな大きな拍手をくれた。
 これならなんとかやっていけそうだ。

 そして今後のこういった方針は城の前に掲示板を設置して、そこに記していくことにした。
 更にその隣に国民の要望を書いて入れる箱……目安箱めやすばこも設置して、今回の鉱石がほしい等の要望を書いて入れてもらうことにした。

 よぉし、今日からはもっともっと忙しくなるぞ。
 ボクはそれでも何故なぜか楽しくなって、猫組みんなで円陣を組んで気合を入れた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】赤獅子の海賊〜クマ耳の小人種族となって異世界の海上に召喚されたら、鬼つよの海賊が拾ってくれたのでちやほやされながら使命果たします〜

るあか
ファンタジー
 日本からの召喚者ミオがクマ耳の小人種族となって相棒のクマのぬいぐるみと共に異世界ヴァシアスへ転移。  落ちた場所は海賊船。  自分は小さくなって頭に耳が生えてるし一緒に来たぬいぐるみは動くし喋るし……挙句に自分は変な魔力を持ってる、と。  海賊船レーヴェ号の乗組員は4名。  船長のクロノ、双子のケヴィン、チャド。  そして心も身体もおじさんのエルヴィス。  実はめっちゃ強い?彼らの過去は一体……。  ミオは4人で善良にクエストや魔物ハント活動をしていた愉快な海賊の一員となって、自分の召喚者としての使命と船長のルーツの謎に迫る。  仲間との絆を描く、剣と魔法の冒険ファンタジー。  ※逆ハー要素があります。皆の愛はミオに集中します。ちやほやされます。  ※たまに血の表現があります。ご注意ください。

処理中です...