上 下
2 / 30

2話 バッドエンドと決意

しおりを挟む
「うーん……」

 私はガンガンする頭を抱えながら起き上がる。すると、ここは寮の私の部屋だった。ちゃんとベッドで布団をかぶって寝ていたらしい。

 あれ、私あそこから自力で帰ったんだ。しかも裸じゃん。せめてなんか着て寝てよ。そう思っていると、すぐ隣からイケボが聞こえてくる。

「ディアナ……昨日は最高だったよ……」

「えっ!? ダミアン!? 何で!?」

 私の隣には、同じく真っ裸のダミアンが寝ていた。

 その瞬間、私の頭の中に昨夜の記憶が次々に蘇ってくる。

 酔った私をダミアンが抱えて、エミリアと3人で寮に帰宅。エミリアの部屋の前で彼女と別れてダミアンと共に私の部屋へ入室。
 それからは……うわぁぁぁ思い出したくない! 私の処女……ダミアンに奪われた!

 最悪、結局寝取ってしまった……。でも、今ならこいつを部屋から追い出せば……。

「ディアナ……もう1回、しちゃう?」
 ダミアンがそう言って抱きついてくる。
「やめて、しないってば!」

 私が彼を引き剥がそうともがいていると、最悪の瞬間が訪れる。

「ディアナー? 大丈夫? 開けるよー?」
「エミリア、まって……!」

⸺⸺ガチャ⸺⸺

「えっ……?」
 エミリアはパリンッという音を立てて持っていた水のグラスを廊下へ落とした。
 私のこと心配して水持ってきてくれたのか……。

「エミリア、違うの、これは……!」
「何が……違うの……?」
 エミリアは静かに涙を流していた。

 そして、グラスの割れる音を聞きつけて寮の人たちが次々に私の部屋を訪れ、皆引きつった表情を浮かべていた。


⸺⸺終わった。


 そう思った瞬間、場面が急に実家の風景へと移り変わる。
 その“元実家”だった屋敷の前で呆然と立ち尽くす私。屋敷の中からは、高価な家具が次々に運び出されていた。

 そうか、バッドエンドが確定したから場面がスキップされたんだ。

 そんなことを考えていると、隣から幼い声が次々に聞こえてくる。
「パパー、僕のおうちは?」
「あたちのくまちゃんつれていかないで……」
「ママおなかすいた……」
「うぇーん……」
「うわぁぁぁん」
「おぎゃー、おぎゃー」

 ちょっと待って! ディアナって7人姉弟の長女だったの!? しかも私以外みんなチビなんですけど。

「行こう……ここはもう私たちの家ではない……」
 ディアナの父親、エイデン元男爵は、私の方を一切見ることなく、トボトボと歩き出した。

 ここでどこからともなく、悲しげな音楽が流れてくる。

~ヒュルリラ~♪ ヒュルルリラ~♪~

 ちょっと! エミリアがルート間違えてバッドエンドになっちゃう時の音楽流すんじゃないわよ!

 そこで私はハッとする。
 エミリアの時の音楽が流れるなら……。

 私はカバンをガサゴソとあさると、1つの懐中時計を取り出した。

 あった! ヒロインの魔法アイテム『時戻りの懐中時計』
 これがあれば時を戻せるはず。

 私はわらにもすがる思いでその時計の突起をポチッと押した。


⸺⸺⸺

⸺⸺



 チュンチュン……チュン。

「念願の、王宮学院だね。頑張ろうね、ディアナ」

 あ、入学式の朝だ……!
 戻ってる! 本当に時が戻ったんだ!

「ディアナ?」
 エミリアが心配そうに私を覗き込んでくる。
「あっ、ごめんごめん、ちょっと緊張しちゃってた。行こっか」
「そっかぁ、そうだよねぇ。私もちょっと緊張する」
「ねー……」

 私は適当に会話を成立させながら、自分のカバンの中に手を突っ込む。

 やっぱり『時戻りの懐中時計』が私のカバンの中にある。

 ここで私は確信する。ヒロインしか持っていないはずの懐中時計を私が持っていて、音楽も私を追って流れてくる。

 つまり、この物語のヒロインは私だ!

 これは、悪役令嬢がなんとかしてバッドエンドを回避する物語なんだ。

 この懐中時計があれば何回だってやり直せる。
 よし、やってやる!

 私はこのディアナで絶対にハッピーエンドを迎えてみせる!

 私のざまぁ回避奮闘の日々がここに始まる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

破滅ルートを全力で回避したら、攻略対象に溺愛されました

平山和人
恋愛
転生したと気付いた時から、乙女ゲームの世界で破滅ルートを回避するために、攻略対象者との接点を全力で避けていた。 王太子の求婚を全力で辞退し、宰相の息子の売り込みを全力で拒否し、騎士団長の威圧を全力で受け流し、攻略対象に顔さえ見せず、隣国に留学した。 ヒロインと王太子が婚約したと聞いた私はすぐさま帰国し、隠居生活を送ろうと心に決めていた。 しかし、そんな私に転生者だったヒロインが接触してくる。逆ハールートを送るためには私が悪役令嬢である必要があるらしい。 ヒロインはあの手この手で私を陥れようとしてくるが、私はそのたびに回避し続ける。私は無事平穏な生活を送れるのだろうか?

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

処理中です...