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1話 好きな乙女ゲームに転移! でも……

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 私の好きな乙女ゲーム『王宮学院魔道科』通称『がくまど』

 それは、異世界の男爵令嬢に転生したヒロインが国直属の貴族しかいない学校『王宮学院』の魔道科へと入学するアドベンチャーゲーム。

 途中色んな令息といい感じの雰囲気になるけど、最終的には騎士科の特待生である国の第ニ王子と恋仲になってハッピーエンドを迎える。

 マルチエンディングで色んな人と結ばれる展開があるけど、多分1番良いゴールはこの第二王子ルートだと思う。

 私も全ルート試したけど、やっぱ第二王子最高すぎ……。
 イケメン&イケボで将来的に国の騎士団の団長にもなるし。


 はぁ……私もそんな世界に転生したいなぁ……。
 ま、無理に決まってるけど。
 さぁ、明日も終わらない仕事があるしもう寝よ……。

 私はもう何周目かも分からないそのゲームをセーブしてログアウトしようとする。


「あれ? 消えないんだけど……」

 ログアウトを押してもなかなか画面が暗くならず、私はログアウトを連打する。

「フリーズかなぁ……もう……」

 そう言って機器の主電源を落としてしまおうとすると、画面が強く光り私はそのまま気を失った。


⸺⸺⸺

⸺⸺




 チュンチュン……チュン。

 この小鳥のさえずり……『がくまど』を初めからにしたときに聞こえるやつだ。

 意識を取り戻した私が立っていたのは、王宮学院の正門だった。
 え、嘘。夢? あれ、私ログアウトしようとして……そのまま寝落ちしたんだっけ?

 でも、この新鮮な空気の感じはとても夢とは思えない。

 え、まさか私、本当にこの世界に転生した!? いや、死んでないから転移かぁ……。
 って、そんなこともはやどうでもいい。私……この世界に来れたんだ! 本当にこんな事ってあるんだ!

 私が喜びを声に出そうとしたその瞬間、隣にいた人物が私に話しかけてきた。

「念願の、王宮学院だね。頑張ろうね“ディアナ”」
「ディアナ!?」
 私は思わずそう復唱する。あ、エミリアだ……。

「え、ど、どうしたの……?」
「あ、ううん……ごめんねエミリア。頑張ろうね」
「うん!」

 エミリアはにっこり微笑むと、その綺麗な金髪をなびかせて、スタスタと歩いていった。

 私はカバンの中をガサゴソとあさり、手鏡を取り出して顔を見てみる。
 黒いゆるカールのミドルヘア。少し釣り目のバチッとした強い瞳。

 うわぁ……マジでディアナだ……。

 私は愕然とした。

 ディアナ……“ディアナ・エイデン”18歳は“エイデン男爵”の御息女で、さっきの“エミリア・マクミラン”の親友だ。
 彼女は“マクミラン男爵”の御息女で、2人とも貴族の中では低めの身分の“男爵令嬢”であった。

 そして……ディアナは物語のヒロインであるエミリアの初めての恋人を寝取って、エミリアに酷い言葉を浴びせてあざ笑う、所謂“悪役令嬢”だ。

 しかもこの物語はご丁寧に悪役令嬢へのざまぁ展開も用意されている。
 悪役令嬢であるディアナがエミリアの恋人を寝取った後、それが原因でディアナの父親が予定していた伯爵との商談が白紙となる。

 それからあれよあれよとディアナの家に不幸が続き、最終的に男爵の地位は剥奪。
 彼女は破滅の展開を迎えるのである。


 で。

 私はそんなディアナ役なの!?
 普通こういうのってヒロインであるエミリアに転移しませんか?

 どうしよう、このまま進めてもバッドエンドしか待ってないんだけど。

 そうだ、物語の進行と違うことをすれば、もしかしたらそういう運命から逃れられるかも。
 とにかくやってみるしかない。誰も親友の男なんか寝取りたくないし、しかもあの男生理的に無理だし。
 あ、でも無駄に声はイケボだったな……。

「ディアナ!」
 ふとエミリアの声が聞こえてくる。

「あれ、エミリア、先行ったんじゃ……」
「隣見たらディアナがいないからビックリして戻ってきたんだよ。もぅ、私結構独り言言っちゃってたかも……」
 エミリアはそう言ってモジモジする。

 うわぁ、生エミリア超可愛いわぁ。
 これは正直本物のディアナが嫉妬しちゃうのもわかる気がする。
 ちょっとおっちょこちょいなところも逆に良いんだよね。

「ごめんごめん。なんかいよいよ入学なんだなって思ったら緊張しちゃって……ホントごめんね」
 私はそれっぽいセリフで謝ってみる。

「なんだそうだったんだぁ。言ってくれたら良かったのに。私たち親友でしょ?」
「うん、そうだね。次は相談する」

「うん、絶対だよ? じゃ、行こ?」
「うん」

 私はエミリアと並んで登校する。
 あぁ、これがディアナじゃなかったらどんなにわくわくしたことか。
 エミリアとまではいかなくても、ディアナでさえなければ超モブキャラとか、なんなら新キャラとかでも良かった。

 ただただこの学校生活を満喫できたら良かったよ……。

 私は暗い気持ちでお城の様な校舎へと入っていく。
 うわぁ、こんな気持ちが沈んでても、お城の様な校舎の中は夢があってわくわくするなぁ。

 そしてエミリアと一緒に入学手続きを済ませると、入学式で学院長の長い話を延々と聞いた。

 入学式が終わると流れるように寮へと案内される。
 私は『魔道科女子寮』の2階の3号室。エミリアの隣だ。
 ここまでは本編と全く同じ展開。まぁあの問題の男が出てくるまでは気を付けなくていいか……。

⸺⸺2ヶ月後。

 せっかくなので私は“がくまどライフ”を満喫していた。
 私とエミリアは『魔道科』だから、もちろん魔法の使い方とか歴史とかを学び、立派な魔道士を目指していく。

 自分の杖から魔法が飛び出したときにはめちゃくちゃ感動した。
 私の魔法は設定で知ってたけど闇属性の魔法。黒い塊が杖から飛んでいく感じだ。

 一方エミリアの魔法は光属性の魔法で、魔法を放ったその瞬間は誰もが聖女だと思うくらいだった。

 ちょっと羨ましいけど、これもディアナの嫉妬を成立させるための設定だから、仕方がない。
 ここで私自身まで嫉妬しちゃったら、『がくまど』の運営の思う壺だ。
 私はこの悪意ある設定をぐっと飲み込んで、魔法の訓練に打ち込んだ。

⸺⸺

⸺⸺ついに大事な運命の分岐点が訪れる。

 エミリアと一緒に食堂でランチをしていると、彼女は恥じらいながら口を開く。
「ディアナ、あのね、私……バシュレ伯爵家の御子息のダミアン様に婚約を申し込まれたの……」

 ついに来た、この時が。“ダミアン・バシュレ”、私が寝取り予定の無駄にイケボの男だ。

「良かったじゃないエミリア! それで、あなたのお返事は?」
 私は思いっきり喜ぶ素振りを見せる。

「あのね、お受けしようかなって思ってるの。だって、ダミアン様……お声が素敵だし」
「それな」

「えっ、ディアナ、ダミアン様とお話ししたことあるの?」
 はっ、しまった! エミリアが最もなこと言うからついノリで本音が……。

「え、あ、違う違う。そうなんだぁいいなぁって意味で言ったのよ。ってか、OKするのね、じゃぁ、おめでとう、だね」
 私がそう言うと、エミリアの顔がパーッと明るくなる。

「うん、ありがとうディアナ! 今日ね、早速両家で顔合わせをするのよ」
「良いじゃない。楽しんで来て」

「うん……ディアナにも、今度ダミアン様のこと紹介したいな?」

 来た、私はここだと思うんだ。
「そうね……でももうすぐ中間考査だし、1つ上の学年のダミアン様もお忙しいだろうから、それはもし機会があればにしておくわね」
 ここではひとまずやんわり断るべし。

「そっかぁ、そうだよね……あれ、私ディアナにダミアン様の学年なんて言ったっけ?」
 あああ、またやってしまった。

「えっと、聞いてないけど……伯爵家の話って……ほら、なんとなく耳に入ってくるじゃない? だから、たまたま知ってたのよ……! もう、そんな有名なお家に嫁げるんだから良かったじゃない」

「そっかぁ、えへへ、そうだね」
 エミリアは照れてはにかんだ。

 ふぅー、危ない危ない。ここからはもっと慎重にいかなくては。

 でも本来ここでディアナとダミアンが会うべきだったから、確かにルートからそれたはず。これでもう大丈夫だ。


⸺⸺更に1ヶ月後、中間考査最終日。

「試験、終わったー!」
「長かったね……!」
 私とエミリアははぁっと肩の力を抜いた。

「私ね、今夜の打ち上げ立食パーティに参加しようと思ってるんだけど、ディアナも良かったら一緒に行かない?」

 打ち上げ立食パーティ。貴族の学校は3ヶ月に1度の実力考査の後、そんなことをするらしい。
 まぁ、試験勉強頑張ったし、ちょっとくらいいっか。

「うん、行く行く。一緒に行こ」
「わーい、やったー!」


⸺⸺この選択が、ダメだったのかなって思う。


⸺⸺立食パーティ会場⸺⸺

 華やかな貴族のパーティ会場。私もおめかししてこんなところに参加して、一応これでも本当に貴族なんだなと実感する。

 エミリアと2人で入るとすぐに、使用人からお酒のグラスを渡される。
 それを受け取り2人で乾杯すると、私はパーティ会場の雰囲気に飲まれていった。

 この世界ではお酒の年齢制限は特にないから、18歳でも大丈夫。それに私はお酒が強いから、ここで万一なんてこともないはず……。

 そう思っていると、ある男性がエミリアへ声をかけてきた。
「エミリア、ここに居たんだね、探したよ」
「ダミアン様! いらしてたんですね!」

 ダミアン!? 私はドキッとした。うわぁぁマジでダミアンがいる! しまった、このパーティやつも参加してたんだっけか……。

「あぁ、エミリアが行くという噂を耳にして、いてもたってもいられなくなってね……それでそちらがディアナだね? 可愛らしい女性だ……」
 ちょ、こいつの目、なんかもう私に恋してない? 大丈夫!?

「初めましてダミアン様、ディアナです……」
 私は苦笑いの営業スマイルを作った。

 その直後くらいからだろうか……。

 あれ、私こんなにお酒弱いはずないんだけど……。


 私の記憶はここで途切れた。


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