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9話 世界樹と工房

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⸺⸺世界樹の根元⸺⸺

「うわぁ、大きな木……」
 私は世界樹の想像を遥かに超える巨大さに圧倒されていた。ただ大きいだけではない、森の神聖な空気は全てこの木から発せられているのだと分かるくらいに、木の周辺にはマナが充満していた。

 ただただ呆然と巨木を見上げていると、キラキラと光の球が降りてきた。
『この魔力は……ティニーですね。よく来てくれました』
「わっ、光がしゃべった!?」
「ティニー、彼女が世界樹の意志だよ」
「そっか、世界樹とは、こうやってお話しするんだ」
『驚かせてすみません。さて、私があなたに最後にお会いしたのは今から8年前、あなたがまだフィオナのお腹の中にいる時です。あなたは7つになりましたか……?』
 私は「そうです」と相槌を打つ。
『そうですか、大きくなりましたね。ですが、約束の時はまだまだ先です……ここへ来なくてはならなくなった事情があると言う事ですね』
 私は頷き、お父様と一緒に一部始終を全て話した。

⸺⸺

『あぁ、フィオナ……そうですか。惜しい人を亡くしました。それにティニーも、辛かったですね』
「お母様が死んじゃったのは悲しいけど、私は叔母様に捨てられた事、全然辛いとは思ってないよ。むしろ、クソババアから解放されて清々してる」
『クソババア……!? なんだか新しい言葉の扉を開いたような気がします。あなたもフィオナ同様、楽しい人柄のようですね』
 流石に言葉が汚くて、世界樹、ちょっと引いちゃったかな……一方でタニアは『世界樹にクソって言葉遣いする人初めて見た』と、お腹を抱えて笑っている。お父様は何とも言えないしみじみとした表情を浮かべていた。
「すみません……言葉遣い、気を付けます……」
『ふふふ、良いのですよ。クソババアと言われてしまうほど、エメリーヌが最低の人だと言う事です。事情は分かりました。こちらにフィオナが昔使っていた工房がありますので、案内します』
「ありがとうございます」

⸺⸺フィオナのアトリエ⸺⸺

 世界樹の意志に案内されて根元にある洞窟の中に入ると、あちこちにマギア鉱石が散りばめられており、少し開けた場所には人の住めそうな家具が置かれていた。洞窟の中ではあるが、お母さんの魔導照明のおかげでお日様の様な明るさが広がっている。

「ここがお母さんのアトリエ……! ディザリエ王国の家にあるアトリエよりずっと楽しそう!」
『フィオナは毎日ここで楽しく魔導具を作っていました。ティニーも自由に活動して下さい』
「うん、ありがとう!」

 私が早速作業に取り掛かった後ろで、お父様とタニアが打ち合わせをする。
「タニア、仲間と連絡は取れたか?」
『はい、ユグドラシアの周辺に10人の仲間がいて、皆喜んで協力すると言って今こちらに向かっています』
「10人か、それは頼もしい。ティニー、ピクシー10人分だ、頼めるかい?」
「うん、作業道具が良いからすぐできるよ! 待っててね!」
「ありがとう。それにしても、楽しそうに作るのだなぁ……昔のフィオナを見ているようだ」

 楽しい。今は誰がダメと言う訳でもなく、高いマギア鉱石を買わなくてはいけない訳でもなく、自由に作りたい放題作れる。このままここで魔導具を沢山作って生活出来るのかと思うと、胸が高鳴った。

 そして、世界樹が妖精王の嘘を見抜く能力を応用して、録音器にある魔法をエンチャントしてくれた。
『各録音器に相手の思考を録音出来るようにしました。強力な魔法なので、それぞれ1回限り使用出来ます。魔導と魔法の融合で、相手の闇を暴きましょう』
 駆け付けてくれたピクシーに魔導具を渡して、使い方を説明する。姿を見られないようにと忠告したけど、ピクシーの本職は“いたずら”であり、一時的に姿を消す事も容易いという。皆ルンルンで空へと飛び立っていった。

 さて、叔母様。いや、クソババア。妖精王の娘である私を捨てた事を後悔するお時間です。
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