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第二章 神器と欲望

28話 猫車

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『まぁ、皆様、ごきげんよう』
 フレイヤはマイペースにマッタリと挨拶をするが……。
「お前ら走れ~!」
 陽翔さんがそう言いながら前を走り抜けていく。通路の奥から這い寄る人魚姫。

「だぁー、これじゃゆっくりお願いもできねぇじゃねぇか!」
 空悟さんは再び私の手を取ると、走って陽翔さんと瑠斗君の後ろへとついた。

「どうすんだ? 一周ごとに話しかけんのか!?」
 と、空悟さん。
「つ、疲れてきた……」
 私は腕を引かれながら肩で呼吸を始める。引っ張ってもらってなかったらきっと危なかったと思う。空悟さんに感謝だ。

『あらあら、大丈夫ですか?』
「えっ!?」
 私たちが横を向くと、フレイヤがスイーっと浮きながら私たちの隣へ並んだ。

「フレイヤ様って動けんのか!?」
 と、空悟さん。
『はい。この7階のフロアは自由に動くことができます~。それにしてもお二人手を繋いで、恋人なのですか?』
 フレイヤがそう嬉しそうに尋ねてくる。

「ち、ちがっ! これは!」
 空悟さんはそう顔を真っ赤にして反論するが、瑠斗君がここぞとばかりに肯定をしてくる。
「そうです! そうなんですよ! この2人の仲の良い恋人のために猫の乗り物を貸していただけませんか!?」
「っ!?」
 恥ずかしくなり思わずうつむく。どうせなら陽翔さんと……なんて。

『まぁ、素敵です~。そうでした、猫の乗り物に乗りたいのでしたね。宜しいですよ、えーい』

⸺⸺ボンッ⸺⸺

 そう音を立てて小爆発が起きると、私たちは何かの上に乗り体勢を崩して皆でずっこける。
「うわぁっ」
「これは……馬車の中か?」
「いえ、馬車ではありません。猫車ですね」
 と、瑠斗君。

 皆で前を向くと、巨大な猫が程よい速さで通路を走り抜けていた。

 はぁっ……と、馬車のベンチに脱力する4人。
「ひとまず助かったか……」
 と、陽翔さん。
「フレイヤ様、ありがとうございます!」
 そうお礼を言う瑠斗君に対し『いえいえ~』とゆるく返すフレイヤ。多分良い人なのに間違いはない。

「人魚姫は疲れないのかな……」
 私はまたしても後ろを見てしまう。すると、疲れ知らずの人魚姫がズイズイと猫車の後をついてきていた。

「とりあえず、人魚姫をなんとかする方法を考えましょう……」
 と、瑠斗君。
「だな。動き方がアレだが……見た目が人魚姫っぽい分、天叢雲剣あめのむらくものつるぎがなくてもなんとか出来そうだけどな……」
 陽翔さんがそう言うと、フレイヤは状況を理解しているのかは分からないが、うんうんとゆっくり頷いていた。聞き上手かな?

「うーん……」
 馬車の中から人魚姫をジーッと見つめていると、口元が少し動いている事に気付く。

「人魚姫、何か言ってるっぽい!」
「マジ?」
 と、空悟さん。

 自然と皆しんとするが、ボソボソ言ってはいるものの、何と言っているのか聞き取ることは出来なかった。

「フレイヤ様、人魚姫にちょっとだけ近付きたいんだけど……」
 私がそうお願いをすると、彼女はうんと頷き『猫ちゃーん、少しだけゆっくり~』と指示を出してくれた。

 人魚姫との距離がゆっくり縮まっていく。

⸺⸺すると。

『……たい』

「なんて?」
 馬車から身を乗り出して耳を傾ける。
『人間に……なりたい』

「! 人間になりたいって言ってる!」
「おぉ、人間にしてやりゃ満足して成仏してくれんのか!?」
 と、空悟さん。
「でも……人間になっても人魚姫は結局王子様と両想いにはなれなくて……」
 私がそう言いかけると、フレイヤがグッと迫ってきて『その話詳しく教えて下さる?』と目をキラキラさせながら言った。

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