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第一章 始まり

6話 本契約

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「それでは、只今より本祭典の詳しい説明と“本契約”に移らせていただきます」

 スタッフの女性がそう言うと、別の黒いローブのスタッフにより、黄土色の不思議な紙質の用紙が配られた。
 その用紙の右下には『ルールブック』と書かれたスマホ程の大きさの小さな冊子がくっついていた。

「まずは各自そちらの羊皮紙をお目通し下さい」

⸺⸺⸺⸺契約書⸺⸺⸺⸺

 本契約は『童話好きによる世界平和のための祭典』に関するものである。

【第一条 目的】
 本祭典は、童話の登場人物に込められた怨念を鎮めるための生贄の儀式である。

【第二条 内容】
 契約締結日より1ヶ月間、生贄として童話の怨念(以下『ヴィラン』と称する)に契約者の身体を捧げるものとする。

【第三条 報酬】
 1ヶ月間、生贄としてヴィランの怨念を鎮めることに尽力し、全ての怨念を鎮めその期間を終えた者に金6000万円を分配する。

【第四条 生命に対する同意】
 本件により、その生命を失う恐れがあるという事に同意を得るものとする。

【第五条 ルール規定等】
 詳細なルール、罰則等に関しては『ルールブック』を参照する。

【第六条 解除】
 本契約の解除は一切出来ないものとする。

  年 月 日
『氏名』_____ 印

⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺⸺

「賞金6000万に跳ね上がってるじゃねぇか……!」
 チャラ男の嬉しそうな声が聞こえてくる。
「でも、分配か……6人以上生き残ったら最初より損じゃねぇか……」
 チャラ男の隣のおじさんがそう悪態をついた。そんな事より当たり前のように何人も死ぬ前提で話してるおじさんにビックリな私である。

「何これ、つまり何すりゃいいの? マジ意味不明」
 と、ギャル。

 ここでスタッフが口を開く。
「童話は昔から沢山の人に読まれてきました。沢山の人の心を動かす裏で、人々の強い想いが残留思念として童話に蓄積されていきます。近年その残留思念が怨念へと変わり、その怨念が思念体となって現し世に露出するようになりました」

「どゆこと?」
 と、ギャル。それに対し瑠斗るいと君が興奮気味に口を挟む。
「つまり、童話の登場人物の幽霊が実体化しているという事ですね!?」

「はい、谷岡様の仰るとおりです」
「何それ。アホくさ……あれ?」
 ギャルは冷めた顔でスマホを弄ろうとするが、何やら様子がおかしい。

「何で電源切れてんの?」
 そう言うギャルのスマホは充電ケーブルでレストランのコンセントと繋がっている。

 私も含めて皆慌ててスマホを取り出すと、やはり電源が落ちているようだった。
「何だよ、俺のもじゃねぇか……」
「あっ、私のも……電源入らない……」
 あちこちからそう愚痴が溢れる。

 そんな私たちの動揺を気に留める様子もなく、スタッフはマイペースに説明を続ける。
「我々“国際ヴィラン協会”は各国の承認を得て秘密裏にその鎮魂に努めてきました。今年は日本政府の承認がおりましたので、日本での開催となりました」

「日本政府公認……? だから上にいくら掛け合っても無駄だったのか……?」
 陽翔さんはボソッとそう呟いた。
「国際ヴィラン協会……ぼ、僕もそこに入りたい……!」
 瑠斗君も震えながら何やらボソボソ言っている。

「その鎮魂の方法は、蓄えられた怨念を思念体としてこの図書館に解き放ち、皆様の生贄により直々に鎮魂にあたってもらうというものです」

「ま、幽霊に化けたスタッフをどうにかすりゃいいって事だろ。楽勝だな」
 と、チャラ男。
「生贄って何でしょう? その幽霊に化けたスタッフさんに殺されると言うことでしょうか……」
 幸薄さちうす女性が続く。

「ヴィランはあくまで怨念の思念体であり、我が協会のスタッフではありません」
 そのスタッフの説明に対し、チャラ男は「わぁーった、わぁーった」と、面倒くさそうに返し、話を遮った。

「生贄に関しては契約書の第二条をご覧下さい」
 と、スタッフ。

 第二条には“身体を捧げる”って書いてある。幸薄女性の言う通りなのでは……?

「では皆様、そちらの契約書に署名捺印を願い致します。なお、捺印は拇印のみ有効です」

「ふざけんな。参加者同士で殺し合うならまだしも、何で一方的にやられなきゃなんねぇんだよ。第二条に沿って死んだら第三条の報酬は受け取れねーだろうが! 馬鹿らしい、俺は降りる」
 と、殺人犯の霧崎きりさき
 参加者同士で殺し合うのも全然“まだしも”じゃないけど、確かに後半の言ってることはすごく分かる。
 報酬が欲しかったら殺されなさいって書いてあるようなものだ。

「私も降りる……」
「ウチも」
「俺も」

 皆口々にそう言ってテーブルに手をつくが、なかなか立ち上がらない。

「あれ……?」
「何で、立てねぇんだよ……!?」

 えっ、どういう事? そう思って私も立ち上がってみようとするが、まるでソファに接着剤でくっついてしまったかのようにお尻が離れない。

「2人共大変、本当に立ち上がれない」
 私がそう言うと、陽翔はるとさんと瑠斗君もチャレンジしたようで、それぞれ「本当だ」と相槌を打った。

 皆の焦りを見てか、スタッフが再び口を開く。
「そちらの拘束は、署名、捺印により解除される仕組みとなっております」

「はぁ? 一体どんな手を使ってやがるんだ! これじゃ強制的に契約させられるようなもんじゃねぇか!」
 と、霧崎。確かに、同感だ。

「とりあえず、契約してみる」
 陽翔さんはそう言って署名をし、テーブルの中央に置かれた朱肉を親指につけ、拇印を押した。

 するとその瞬間、陽翔さんの親指の周りに黒いモヤが吹き上がり、陽翔さんの羊皮紙へと浸透していった。
 何、今の呪いの契約みたいな演出……。

 それと同時にレストランの入り口付近にあった何もない掲示板に、陽翔さんの顔と名前が記された羊皮紙が独りでに浮かび上がった。

「確かに立てるようになったな……」
 彼はそう言って立ち上がる。

 そしてそんな陽翔さんを見た他の人々も次々に署名捺印をして、掲示板には30枚の羊皮紙が揃った。
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