上 下
3 / 35

3話 シュナイダー公爵様のお屋敷

しおりを挟む
「エリーゼ様、ようこそお越しくださいました!」
「わぁ……」

 広いロビーでたくさんの使用人さんたちが花道を作ってくれていた。
 その華やかなお出迎えは私の思っていたものとは全然違って、呆然とその場に立ち尽くしてしまっていた。

「エリーゼ様、どうぞこちらへ」
 先頭の使用人さんにそう言われ、はっと我に返る。
「あっ、す、すみません……」

 きゅっと肩を縮こませて、ペコペコしながらその花道を進む。
 そして花道の最後に待っていたメイドさんに、2階の個室へと案内された。

「こちらがエリーゼ様のお部屋になります」
「はい……あれ?」
 私は一体どんな拷問器具が置いてあるのだろう、そう思いながら恐る恐る足を踏み入れる。
 すると、そこはとても綺麗に装飾された、広いお姫様のお部屋だった。

「エリーゼ様、いかがなさいましたか?」
「あの……拷問はこちらではされないのですか?」
「ごっ、拷問!?」
 メイドさんは目をパチクリとさせている。
「あれ……私、拷問されるのでは……?」
「そ、そんなこと致しませんよ! そんなことお聞きになっていたのですか?」
「はい……」

 私がうなずくと、メイドさんはその場にサッと土下座をした。
「こちらの手違いで誤った情報をお伝えしてしまい、大変申し訳ございませんでした!」

「い、いえ、違うんです……! あなた方のせいでは……。どうかお顔を上げてください。私、拷問されるのではないのですね……良かった……」
 気付けばポロポロと大粒の涙が溢れていた。あれ、おかしいな。ここ10年以上涙なんて出ていなかったのに。

「エリーゼ様……!」
 メイドさんは慌ててハンカチを持って来てくれて、そっと拭いてくれた。
「すみません……」
「いえ、とんでもございません……! あっ、すみません、こちらの頬、お怪我をされているのですか? 痛くなかったですか?」

「自分の涙が少ししみますが、お優しく拭いて下さったので、もう大丈夫です。ありがとうございます」
「いえ……あの、回復薬をお持ちしますので、こちらで少々お待ちいただいても宜しいでしょうか」
「そんな、わざわざすみません……」
「いえ、それでは行って参ります」

 メイドさんは慌てて部屋から出ていった。そう言えばスープを顔にかけられたときの火傷、まだ治ってなかったな……。
 それにしても、拷問をされると思っていたのに一体どういうことなんだろう。
 エリーゼお姉様に成りすましているから、もしかしたら私フローラとは対応が違うのだろうか。

 そんなことを考えていると、10分ほどでノックもなしに扉がバンッと開く。
「え、あ、あなた様は……!」
「お前は……やはりフローラか」
 扉の前に立っていたのは、アーレンス城が制圧されたあの日、バルコニーまで来てくださった黒髪の男性だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています

朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」 わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。 派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。 そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。 縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。 ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。 最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。 「ディアナ。君は俺が守る」 内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

変装して本を読んでいたら、婚約者さまにナンパされました。髪を染めただけなのに気がつかない浮気男からは、がっつり慰謝料をせしめてやりますわ!

石河 翠
恋愛
完璧な婚約者となかなか仲良くなれないパメラ。機嫌が悪い、怒っていると誤解されがちだが、それもすべて慣れない淑女教育のせい。 ストレス解消のために下町に出かけた彼女は、そこでなぜかいないはずの婚約者に出会い、あまつさえナンパされてしまう。まさか、相手が自分の婚約者だと気づいていない? それならばと、パメラは定期的に婚約者と下町でデートをしてやろうと企む。相手の浮気による有責で婚約を破棄し、がっぽり違約金をもらって独身生活を謳歌するために。 パメラの婚約者はパメラのことを疑うどころか、会うたびに愛をささやいてきて……。 堅苦しいことは苦手な元気いっぱいのヒロインと、ヒロインのことが大好きなちょっと腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(作品ID261939)をお借りしています。

私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ
恋愛
 カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。  ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。  十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。  しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。  だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。  カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。  一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……

たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな、と婚約破棄されそうな私は、馬オタクな隣国第二王子の溺愛対象らしいです。

弓はあと
恋愛
「たった一度の浮気ぐらいでガタガタ騒ぐな」婚約者から投げられた言葉。 浮気を許す事ができない心の狭い私とは婚約破棄だという。 婚約破棄を受け入れたいけれど、それを親に伝えたらきっと「この役立たず」と罵られ家を追い出されてしまう。 そんな私に手を差し伸べてくれたのは、皆から馬オタクで残念な美丈夫と噂されている隣国の第二王子だった―― ※物語の後半は視点変更が多いです。 ※浮気の表現があるので、念のためR15にしています。詳細な描写はありません。 ※短めのお話です。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません、ご注意ください。 ※設定ゆるめ、ご都合主義です。鉄道やオタクの歴史等は現実と異なっています。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

処理中です...