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2話 身代わりの政略結婚
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⸺⸺2日後。
「いいわね、あんたは今日からエリーゼと名乗りなさい。エリーゼ・ザイツ・アーレンスよ。分かったわね!?」
「はい、お母様……」
「ちょっと、もうお母様なんて呼ぶのやめてくださる? あんたとは今日で表面だけの家族ごっこもおしまい。あぁ、くれぐれも国王様が亡くなられたことは公言しないように。あの人にはこのまま空の玉座に座っていることにしてもらいます。分かったらサッサと馬車に乗りなさいな」
「分かりました。行って参ります」
「一生帰って来なくていいからね~」
エリーゼお姉様はそう言ってひらひらと手を振っていた。
私は馬車に乗り込み、ゆらゆらと揺られながら外の景色を眺めた。
⸺⸺
思えばこの23年間、一度もお城の外に出たことはなかった。
ずっと缶詰めで、缶詰めの中にもどこにも居場所はなくて、私の唯一の心の支えは、私の本当のお母様が私がお腹の中にいる時に書かれていた日記だった。
お母様のお部屋から拝借して、宝物としてずっと大事に持っていて、今回ももちろんカバンの中に入れてきた。
お母様は日記に『笑顔の絶えない明るい子に育ってほしい』と、何度も書かれていた。
だから、私は笑うんだ。
たとえ誰からも愛されなくても。それが、きっと私を愛してくれていたのであろう、お母様の願いだったから。
私はまるで生贄の如く、今日からシュナイダー公爵様のお嫁さんになる。
多分、お父様を殺したお方。だって、今回のお城の侵攻だってほとんど彼一人で成し遂げたらしく、他の兵士さんたちはほぼ後処理係だったらしいから。
家族や召使いさんたちの敵だというのに、恨んだりとかそういう気持ちは湧いてこなかった。
むしろどこかスカッとしたような、そんな気さえしてくる。
でも、これから私に待っているのは拷問生活。あのお母様とお姉様が平和に暮らすために、私は顔も知らない冷酷公爵様に嫁いで、拷問をされに行くんだ。
せっかくこんな可愛い純白のドレスを着れたのにな。きっといつもの私のドレスのようにビリビリに破かれて、召使さんのメイド服を着ることになるんだろうな。
それが私の人生だから。私は、出来損ないの害虫だから。
どうしよう。エリーゼお姉様は優秀な魔道士だったというのに、私、魔法杖を持ってしまっては魔法が全く使えない。
お姉様になりきらなければならないのに。
そんな不安も消えないまま馬車が止まり、私は丁寧に馬車から降ろされた。
「エリーゼ姫様。長旅お疲れ様でした。こちらがシュナイダー公爵閣下のお屋敷になります」
「うわぁ……大きい」
これでお屋敷なの? 私のいたアーレンス城なんか比じゃないくらいに大きいけど……。
少し緊張気味に、私はその自然に開いた扉からお屋敷の中へと足を踏み入れた。
「いいわね、あんたは今日からエリーゼと名乗りなさい。エリーゼ・ザイツ・アーレンスよ。分かったわね!?」
「はい、お母様……」
「ちょっと、もうお母様なんて呼ぶのやめてくださる? あんたとは今日で表面だけの家族ごっこもおしまい。あぁ、くれぐれも国王様が亡くなられたことは公言しないように。あの人にはこのまま空の玉座に座っていることにしてもらいます。分かったらサッサと馬車に乗りなさいな」
「分かりました。行って参ります」
「一生帰って来なくていいからね~」
エリーゼお姉様はそう言ってひらひらと手を振っていた。
私は馬車に乗り込み、ゆらゆらと揺られながら外の景色を眺めた。
⸺⸺
思えばこの23年間、一度もお城の外に出たことはなかった。
ずっと缶詰めで、缶詰めの中にもどこにも居場所はなくて、私の唯一の心の支えは、私の本当のお母様が私がお腹の中にいる時に書かれていた日記だった。
お母様のお部屋から拝借して、宝物としてずっと大事に持っていて、今回ももちろんカバンの中に入れてきた。
お母様は日記に『笑顔の絶えない明るい子に育ってほしい』と、何度も書かれていた。
だから、私は笑うんだ。
たとえ誰からも愛されなくても。それが、きっと私を愛してくれていたのであろう、お母様の願いだったから。
私はまるで生贄の如く、今日からシュナイダー公爵様のお嫁さんになる。
多分、お父様を殺したお方。だって、今回のお城の侵攻だってほとんど彼一人で成し遂げたらしく、他の兵士さんたちはほぼ後処理係だったらしいから。
家族や召使いさんたちの敵だというのに、恨んだりとかそういう気持ちは湧いてこなかった。
むしろどこかスカッとしたような、そんな気さえしてくる。
でも、これから私に待っているのは拷問生活。あのお母様とお姉様が平和に暮らすために、私は顔も知らない冷酷公爵様に嫁いで、拷問をされに行くんだ。
せっかくこんな可愛い純白のドレスを着れたのにな。きっといつもの私のドレスのようにビリビリに破かれて、召使さんのメイド服を着ることになるんだろうな。
それが私の人生だから。私は、出来損ないの害虫だから。
どうしよう。エリーゼお姉様は優秀な魔道士だったというのに、私、魔法杖を持ってしまっては魔法が全く使えない。
お姉様になりきらなければならないのに。
そんな不安も消えないまま馬車が止まり、私は丁寧に馬車から降ろされた。
「エリーゼ姫様。長旅お疲れ様でした。こちらがシュナイダー公爵閣下のお屋敷になります」
「うわぁ……大きい」
これでお屋敷なの? 私のいたアーレンス城なんか比じゃないくらいに大きいけど……。
少し緊張気味に、私はその自然に開いた扉からお屋敷の中へと足を踏み入れた。
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