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21話 聖女の祖先

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「昔話……聞かせてください!」
 生きている意味がないなんて、そんな悲しいこと言っちゃだめだ。話だけでも聞かないと。そんな正義感から必死に返事を返した。

 アンジェリカは「ありがとう」と微笑むと、悲しい過去を暴露する。

「ローランは公爵家の嫡男でね、魔女の住む田舎の森まで私を見つけに来てくれて、一緒に聖域に行ってみそぎをして、結ばれた。その後は聖域で加護の儀をする以外は、当然のごとくローランの屋敷で一緒に暮らしたの」

 うんうんと相槌を打ちながら聖女の先輩の体験談を聞く。私もきっとこれからそういう暮らしが待っているのだろう。

「聖女である時は良かったわ。皆私たち夫婦を神のように崇めて、正直気分は良かった。でもね、ローランが亡くなると私の聖女の痣も消えて、今まで出来ていた加護の儀が出来なくなったの。その途端、皆手のひらを返して私の事を邪魔者扱いし始めた」

「そんな薄情な……!」
「皆、とは? 屋敷の者か?」

「ローランの屋敷の人はもちろん、ローランの治めていた領土の人々も、町に行けば皆口を揃えて『用済みは出て行け』って。『新しい聖女の誕生の妨げになるからさっさと死ね』って」

「ひどい……!」
 聖女にはそんな結末が待っているなんて……。
「そうだな……。役目を終えた先代の聖女が生きていると新しい聖女の誕生の妨げになるというのは、ただの迷信だ……。町の規模でそんな迷信を信じて今まで加護をくれていた者をさげすむのは、はらわたが煮えくり返る思いだな」
 シャルル殿下も眉をひそめて不快をあらわにしていた。

「だから私……ローランの領土の人々を全員禁術で呪ったの」
 アンジェリカは静かに涙を流しながらそう言った。私も自然ともらい泣きをしてしまう。
「魔女が人を呪うと……何が起こるんですか?」
 どんな答えが返ってこようと、私はアンジェリカを責める気持ちにはなれないと思う。

「魔女は自分に敵意のある人に対して色々できるけど……私は、領土内の私に対して敵意ある人全員の寿命を吸い取ったの。全員の寿命がそのまま全部私に合算される訳ではないけれど、領土内の人は全員寿命が尽きて死亡。私は……1000年近い寿命を得てしまった」

『我と別れてからそんな事があったのだな……。辛かったな、アンジェリカ』
「あなたを封印した魔女……私の同胞だったのだけれど、彼女も私が殺したわ。でも、あなたの封印場所を特定することが出来なくて、見つけられなくてごめんなさい」
『いや、良いのだ。かたきを取ってくれて感謝している』

「領土内の人は全員死亡って……じゃぁ全員がアンジェリカさんに敵意があったって事? ひどい、そんなのひどいね……」
 私が今まで村の人から受けてきた迫害はまだまだ全然マシだったんだって、そう思えてくる。

「ホント、人ってなんて薄情なんだろうって、そう思えた。こんなに寿命を得てもそんな世の中なら生きている意味もないからって、私は聖域に行って私の処分を求めた」
「聖域か……。あそこはいつでも勇者と聖女の味方だ。処分……つまり罰なんて与えなかっただろう」
 と、シャルル殿下。アンジェリカはこくんと頷いた。

「ええ、その通り。今まで聖女として頑張ってくれた私をどうこうする事は出来ないって……。むしろ聖域の巫女にならないかって言われたけど、大量殺戮を行った私にそんな資格はないと思ってそれは断ったの。そしたら聖域の近くであるこの地に屋敷を建ててくれてね、ここで静かに暮らしなさいって……。だから私、ずっとここに独りで住んできたの」

 400年もずっと独りで……。それはどんなに孤独で寂しかった事だろうか。

「私……! 私もアンジェリカさんと一緒に暮らします!」
「えっ!?」
 思わずそう口から言葉が出た。これから聖女としての役目が待っているはずなのに、そんなのお構いなしにそう言ってしまった。アンジェリカは目をパチクリとさせて私を呆然と見つめていた。

「あ、ごめんなさい私……。聖女としての使命があるのにそんな、無責任ですよね……」
 シュンとうつむく私をフォローしてくれたのは、シャルル殿下だった。
「いや、俺も良い考えだと思う」
 彼はアンジェリカの話を聞いて、自身の考えを語り始めるのであった。
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