上 下
211 / 228
最終章 刻の軌跡

211話 名付け

しおりを挟む
 一方で、エルヴィスとミシェルは2番目の塔へと向かっていた。

「エルヴィスさん、マールージュ島にいた時から悩んでいた事は、もうすっかり吹っ切れたみたい」
「ははは、厳密に言うと、もっと前から悩んでたけどね~」

「そうだったわね。ミオの脳内から見ている時も、エルヴィスさんはどこか遠くを見ている時があって、ずっと心配していたのよ」
「マジ? いつの間に見られていたんだか……」

「ミオの脳内は誰にも気付かれずに見放題だからね。双子が順番にミオに悩みを打ち明けていく中、エルヴィスさんだけはやっぱり何かをずっと抱えていたわ」
「そっか。ミシェルっちは聖霊の中でも一番古くからおじさんたちの事を見守ってくれていたんだね」

「そうね。だから今向かっている塔に居る子を助けたいって気持ち、あたしは理解出来ているつもりよ」
「……ありがとう。あの子は誰にも助けてもらえなくて、ずっと一人で寂しい思いをしてきた。実はね、それを自分と重ねてるってだけじゃなくて、クロノ君とも重ねているんだよ」

「クロノ?」
「そう。おじさんは、クロノ君が小さい頃から赤い目の事で島の同年代の子供たちから色々言われてた事、知ってたんだ。でも、なんとかしてあげる事が出来なかった」
「そうだったの」
「クロノ君が島を出て行くってなった時に、あの子の中で限界だったって事に初めて気付いたんだ。だけどその後あの子はハイアットでジン君たちと出会って居場所を得る事が出来た」

「あのプレイオって子は……」
「そう。プレイオ君はまだ居場所がない。居場所を求めてもがき続けたクロノ君と違って、あの子は諦めちゃってる。だから、今度こそおじさんが居場所になってあげたい。どんなにウザいって言われようと、どんなにしつこかろうと、おじさんはめげないよ。心の底から本音を伝えれば分かり合えるって、ミオっちが教えてくれたから」

「それならあたしも暗黒の浄化はまだした事ないけど、頑張る。着いたね。何だか前に会った時よりも気配が禍々しくなってる気が……」
「たしか、核を2つ埋め込まれてるんだ。用心していこう」
「うん」

⸺⸺

 塔へと侵入した2人を出迎えたのは、暗黒のオーラをまとい、悪魔の角を2本生やして目を赤黒く光らせたプレイオだった。
「フーッ、フーッ……!」
 彼は荒く呼吸をして、2丁の魔導銃を構えていた。

「あれ、見た目が前より人間離れしているわ……アルキオって人の情報では人間の姿を保ってるって言ってたけど」
 ミシェルはそう言って木の杖を構える。
「長期間植え付けられて2つの核に身体が耐えられなかったんだ……。でも、完全に魔物になってる訳じゃない。人の姿はまだ保ってるよ。だからおじさんは諦めずにあがいてみるよ」
「了解。とりあえず周囲の暗黒を抑えてみる」

⸺⸺白の領域⸺⸺

 ミシェルがフロア中に白い気を敷き詰めると、プレイオの呼吸が更に荒くなる。
「苦しいよね……今助けてあげるから」
 エルヴィスは血昇のアウラを発動して銃を構え、プレイオとの戦闘を開始した。

 プレイオは暗黒に支配され、完全に自我がなくなっていた。耐えられない量の暗黒に身体が悲鳴を上げ、どんどん呼吸が荒くなっていく。
 同時に、ミシェル魔法を受けると暗黒の魔力が焼かれ、魔導銃の威力も落ちていっていた。

「おじ……さ……」
「! 自我が……!」
 微かに聞こえた彼の声に、エルヴィスはハッとする。
「今ならいけるかもしれない。エルヴィスさん、彼の動きを止めて!」
「了解!」

⸺⸺奥義 絶嵐旋風⸺⸺

 エルヴィスが奥義を放つとプレイオは竜巻の中に閉じ込められ、身動きが取れなくなる。そんな彼へ、ミシェルは渾身の浄化の光を送り込んだ。

⸺⸺浄化の光⸺⸺

「ぐああっ……!」
 プレイオが呻きを上げると、彼の中の暗黒の核が1つだけ消滅していった。
 竜巻が収まり、悪魔の角がなくなって以前の姿に戻ったプレイオが床に横たわっている。

 エルヴィスは彼のもとへ駆け寄ると、自身の膝の上へ彼を抱き上げた。
「また……支配されそう……」
 プレイオは苦しそうにそう言う。
「もうちょっと頑張って、ちょっと力を溜めさせて……」
 ミシェルは息を切らしながら祈るポーズをし、集中していた。

 連続でフルパワーの浄化の光を放つのは厳しいと判断したエルヴィスは、プレイオの気を紛らわそうと彼に語りかける。
「君の名前、考えてきたんだ」
「え、本当……?」
 プレイオの瞳に少しだけ生気が宿る。
「レーン・フォスター……。レーンは古代語で“太陽”って意味がある。太陽みたいに明るくなってほしい、そう願いを込めたんだ」
「太陽……じゃぁ、フォスターは?」
「おじさんの名字」
 エルヴィスがそう即答すると、プレイオは目を見開いた。
「そ、それって……!」
「今日から君は、おじさんの息子だ」
「何それ……ウザ」
 そう悪態をつく彼の表情からは嬉しさが滲み出ていた。

 そのタイミングで、ミシェルから声がかかる。
「“レーン君”お待たせ。ジッとしててね」

⸺⸺浄化の光⸺⸺

「あぁ、暗黒が……全部、消えていく……!」
 プレイオ、いや、レーンは浄化の光へと身を委ね、一筋の涙を流した。

「ふぅ、なんとか……」
 ミシェルはやり切ると膝をガクッと突いた。
「あっ、大丈夫……!?」
 身体を起こしたレーンがミシェルへと歩み寄る。
「平気、ちょっと休憩したらすぐ良くなるわ」
「ミシェルっち、本当にありがとう。じゃぁちょっと休憩してから、ミオっちのところへ行こう」
 エルヴィスはそう言って魔導銃を放ち結界を壊すと、その場であぐらをかいてうーんと背伸びをする。
 レーンはミシェルが立てるようになるまでの間、恥ずかしそうにモジモジしていた。

⸺⸺

「もう、大丈夫そう。ミオのところへ行こう」
「ほいほい、じゃぁ行くよ、レーン」
 エルヴィスはそう言って立ち上がると、スタスタと先に歩いていってしまう。そんな彼へ、レーンはボソッとこう呼びかけた。

「……お父さん……」
 その声に気付いたミシェルが「あっ」と声を上げながらレーンの方を振り返ると、彼は顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
「え、聞こえた……!? い、今のおじさんには言わないで……!」

 ミシェルはふふっと微笑む。
「あたしからは言わないよ。いつかちゃんと本人に直接言ってあげて」
「うん……そうだね。あ、あの、暗黒、消してくれてありがとう……」
「どういたしまして。エルヴィスさんがどうしてもあなたの事を助けたいって言うからあたしも頑張ったのよ」
「そっか……」
 レーンは照れて泣きそうになっていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...