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第五章 欲望渦巻くレユアン島

97話 騎士の誓い

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⸺⸺エーベル商会豪華客船ラウンジ⸺⸺

 昨夜のメンバーで朝食を済ませ、皆がコーヒーを飲んでくつろいでいると、急にそれは始まった。

「この変態野郎っ!」

 ミオがピシッと隠し持っていたむちを床へ叩きつける。

「おっ……」
 と、ケヴィン。皆の顔が一気にニヤける。

「結局こういうタイミングで始まるのね、それ……」
 エルヴィスは静かに笑ってコーヒを机へ置くと、ミオの方へ身体を向けた。

「毎日アタシのこと嫌らしい目で見て、飽きたら売るなんてそんなの許さないわよっ!」
 ミオはピシッと鞭を振る。

「うっ……売ろうとしたのは事実だわ……。8割濡れ衣だけど事実が混ざっている以上言い返せない……」
 エルヴィスはその言葉を重く受け止めることにした。

 そんな彼のボヤキを聞いて、周りからは笑いが起こる。

「あんたはこれから一生、アタシの奴隷として……うっ……」
 ミオはそこまで言って言葉に詰まる。

「え、バケツいる?」
 と、チャド。

「待て、今回は違うみてぇだ」
 と、クロノ。

「やっぱ奴隷は違うわ……。こんなんいるかー!」
 ミオはそう言うと、持っていた鞭を放り投げた。

「おっ、どしたのミオっち……」
 戸惑うエルヴィス。

 そして、ミオは目に涙をいっぱいにためて再度口を開いた。

「エルヴィスは、私がこの世界に来てから色んなことたくさん気遣ってくれた」

「うん……」
 エルヴィスは静かに相槌あいづちを打つ。

「初めての酒場で何を頼んだらいいのか分からなかったらおすすめを教えてくれたり、目の前で人が死んだときは無理しないでって言ってくれたり……」

「うん……」

「私が温泉のあとにはコーヒー牛乳を飲むって話をしたら私の湯上がりに毎晩コーヒー牛乳を作ってくれるようになった」

「うん……」

「他にもたくさん、言い切れないくらい気遣ってくれたけど、それは全部演技だったの? 私を連れ出すための罠だったの?」

 エルヴィスはそれに対しすぐに反論をする。
「それは違う! それは全部本心からだ。君があまりにも真っ直ぐで純粋で良い子だから……ついついお節介を焼きたくなるんだよ。勿論もちろん、大好きだって言ったのも嘘じゃない。今だって君のこと、大好きさ」

「だったら……! 今回のこと悪いと思ってるんだったら、私のお願い何でも聞いて!」

「……何でもお申し付けを」
 エルヴィスはそう言ってミオの前に片膝をつく。

「私、“幻想”に売られそうになったとかそんなこともうどうだっていい! だから、船、降りないで……お願い……! 奴隷は……嫌だから……騎士として、私の側で一生私のこと守りなさい!」
 ミオがそう言い終えると、エルヴィスは目をつぶり涙をこらえるような仕草を見せ、やがてこう言った。

「ミオ姫の、仰せのままに……」
 エルヴィスは、そのままミオの手を取り、その手の甲にキスを落とした。

 ミオは恥ずかしくなりはにかむと、「ありがとう」とお礼を言った。

 周りからは拍手が起こったが、ケヴィンとチャドがズカズカと前に出てくる。

「ちょ、何、ケヴィンまで?」
 と、チャド。

「いやいや、お前こそ」
 と、ケヴィン。

「え、2人ともどうしたの?」
 ミオはエルヴィスのキスから解放され、2人へと向き直る。

 すると、2人は声を揃えてムキになりながらこう言った。

「僕も騎士の誓いする!」
「俺も騎士の誓いする!」

「えっ、何で!?」

 戸惑うミオに、ふっと吹き出すエルヴィスとクライヴ。ざわつくエーベル組に、深くため息をつくクロノ。

「僕だってミオのこと守るよ」
「俺だってミオのこと守るぜ」

「え、えっと……」

「僕はミオのこと大好きだからいいけど、ケヴィンはなんなのさ」
「俺だってミオのこと大好きだぜ? あん時ミオに話きいてもらってスッキリしてから、俺、ミオのこと絶対まーもろっ! って決めてたんだからな!」

「ケヴィンは話聞いてもらっただけでしょ? 僕は抱きしめてもらったもんねーだ」
「はぁっ!? んだよそれずりーじゃねぇか!」

「わー、2人とも喧嘩しないで……。あ、ありがとう。騎士の誓い、なのか分かんないけど、しよ?」
 ミオはそう言って両手を彼らの前へ差し出した。

「いいの!?」
「いいのか!?」

 2人はサッと片膝をつく。

「ケヴィンもチャドも、騎士として私の側で私のことを守ると誓いなさい!」

「「ミオ姫の仰せのままに」」

 2人は声を揃えて返事をすると、それぞれミオの手を取り、チュッとキスをした。


 そのノリでクライヴもちゃっかり騎士の誓いを交わす。

 そして皆に視線を向けられ最後まで顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたクロノも、ミオが「無理しなくていいんだよ?」と言うと、「無理はしていない」と言って諦めたように誓った。

 フランツはその光景を見て、クロノはんが1番ベタ惚れちゃうか、と思うのであった。

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