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第五章 欲望渦巻くレユアン島
86話 仲直り
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⸺⸺レーヴェ号⸺⸺
「フランツのおっさん! おっさんを頼む!」
ケヴィンがエルヴィスを抱えて彼の部屋へと飛び込む。
「エルヴィスはん! ホンマに酷い怪我してもうてる……」
フランツは本日何度目か、再び顔を真っ青にした。
「ゆっくりここへ寝かせて」
と、カリス。
「おうよ」
エルヴィスを寝かせると、カリスはすぐに触診を始める。
「ここは回復薬で止血をしたのね」
カリスの問いにケヴィンはこくんと頷く。
「この辺り、内臓に刃物が貫通した形跡があるわ。ミリィ、あなたはこの辺りを少しずつ回復させて。アタシは輸血をします」
「はいっ」
ミリィはすぐに杖を構え、静唱をする。
⸺⸺初級単体白魔法⸺⸺
「ヒール!」
黄緑色の光が優しくエルヴィスを包み込んでいく。それは、ミリィの属性が緑属性であることを意味していた。
「よし、もういいわ。後は傷を縫合して……と」
カリスは手際良く処置を進めていく。その光景をケヴィンとクライヴはただただ黙って見つめていた。
そして、カリスがだらんとして一息つく。
「ふぅ、なんとか一命を取り留めたって感じだわ」
「マジか! ありがとうカリスさん!」
「ありがとう!」
ケヴィンとクライヴの表情がようやく柔らかくなった。
「本来ならこのまま2、3日目を覚ますまで点滴を続けて、目を覚ましたら次は中級魔法をかけて……って感じなんだけど……。そのマキマキ女子に期待をすればいいのね?」
カリスはもったり話す。
「おっと、急に態度が……あぁ、あいつの回復は身体への負担がほとんどねーんだ。期待してくれていい」
と、ケヴィンが返す。
「そ。ならアタシは休憩するわ」
カリスはそう言って溶けるように机へ突っ伏した。
「マジでありがとうなカリスさん!」
「……カリス様って呼んでくれる?」
「「カリス様!」」
ためらうことなく2人の男は彼女を様付けで呼んだ。
「……女王様って呼んで」
「「女王様!」」
「ふふ。素直な男は好きよ。じゃ、コーヒーでも入れてきなさい。ミリィの分もよ」
「「はい、ただいま!」」
ケヴィンとクライヴはニコニコしながら医務室から出ていった。
「カリスはん……彼ら一応、S級クランのメンバーやで……」
フランツは白い目でカリスを見つめた。
「嫌がってたらやらないわよ。だって、彼らノリノリだったじゃない」
「……ホンマか……?」
⸺⸺
ケヴィンは食堂へ入りコーヒーをセットすると、湯を沸かしてハンドドリップでコーヒーを淹れていく。
クライヴは椅子に座り、肘をついてその光景を眺めていた。
「あ……あのさ、クライヴ」
「お?」
ケヴィンの気まずそうな態度にクライヴは首を傾げる。
「さっきは……ごめん。勝手に疑って殴ったりして……」
それを聞いたクライヴはふっと吹き出した。
「いいよそんなこと。ケヴィンが疑うのは当然だしね。だって俺怪しいし、実際、君らに隠してることあるし……」
「……やっぱ将軍なんか?」
「それは……」
クライヴは言葉に詰まる。
「あぁ、いいんだ、言えないならそれはそれで。俺も船長みたく、お前の戦い方、ちゃんと見てみた。すげー丁寧な戦い方で、合わせやすいなって思った。“幻想”の奴らの統率なんて全くないバラっバラな戦い方とはまるで別物だった。お前は、“幻想”じゃねーわ」
ケヴィンがそう言うと、クライヴはホッと安堵の吐息を漏らした。
「まぁ、そこの疑いは晴れて良かったよ。でも、俺のことに関しては、まだ言えない。俺にもタイミングがあってさ。俺のことは必ず話すって約束する。だから、今は待ってくれないか。その間いくらでも疑ってくれて構わないから」
「そっか。俺はお前のこと信じて待つよ。でもな、もしおっさんみてぇに一人で抱えすぎてパンクしそうになったら、この船にはミオっていう優秀なカウンセラーがいるんだぜ。まずはそいつに打ち明けてみるのをオススメする」
「ありがとう、ケヴィン。ははは、ミオちゃんはどんなカウンセリングしてくれるの?」
「一緒に泣いてくれる。あいつは感受性が豊かで、他人のことも自分の事のように考えられる子なんだよ」
「なるほど。よく覚えておくよ」
そしてケヴィンは5つのカップをお盆に乗せると、女王の待つ医務室へと戻った。
⸺⸺
「遅いわ。なんで5杯も淹れてくるのよ」
「すみません! 俺らも飲みたくなっちゃいました!」
ケヴィンはそう言ってだらけるカリスへコーヒーを差し出す。
「そこの男は何してたのよ。2杯同時に淹れなさいよ」
「すみません! 肘ついてのんびりしていました!」
クライヴはサッと土下座をする。
それからもカリス女王の言葉責めを受けた2人はひたすらに謝り続け、散々やり取りを続けると3人同時にぷっと吹き出し大笑いをした。
「あー、おっさんのこと心配しすぎて肩ガチガチになってたから、こうやってふざけて緊張ほぐさねーとな」
と、ケヴィン。
「ミオちゃんが帰ってきておじさんも復活したら、みんなで今のやろう」
クライヴもそう言ってスッキリした顔をしている。
「ホンマにノリノリやってんな……」
フランツは苦笑した。
「フランツのおっさん! おっさんを頼む!」
ケヴィンがエルヴィスを抱えて彼の部屋へと飛び込む。
「エルヴィスはん! ホンマに酷い怪我してもうてる……」
フランツは本日何度目か、再び顔を真っ青にした。
「ゆっくりここへ寝かせて」
と、カリス。
「おうよ」
エルヴィスを寝かせると、カリスはすぐに触診を始める。
「ここは回復薬で止血をしたのね」
カリスの問いにケヴィンはこくんと頷く。
「この辺り、内臓に刃物が貫通した形跡があるわ。ミリィ、あなたはこの辺りを少しずつ回復させて。アタシは輸血をします」
「はいっ」
ミリィはすぐに杖を構え、静唱をする。
⸺⸺初級単体白魔法⸺⸺
「ヒール!」
黄緑色の光が優しくエルヴィスを包み込んでいく。それは、ミリィの属性が緑属性であることを意味していた。
「よし、もういいわ。後は傷を縫合して……と」
カリスは手際良く処置を進めていく。その光景をケヴィンとクライヴはただただ黙って見つめていた。
そして、カリスがだらんとして一息つく。
「ふぅ、なんとか一命を取り留めたって感じだわ」
「マジか! ありがとうカリスさん!」
「ありがとう!」
ケヴィンとクライヴの表情がようやく柔らかくなった。
「本来ならこのまま2、3日目を覚ますまで点滴を続けて、目を覚ましたら次は中級魔法をかけて……って感じなんだけど……。そのマキマキ女子に期待をすればいいのね?」
カリスはもったり話す。
「おっと、急に態度が……あぁ、あいつの回復は身体への負担がほとんどねーんだ。期待してくれていい」
と、ケヴィンが返す。
「そ。ならアタシは休憩するわ」
カリスはそう言って溶けるように机へ突っ伏した。
「マジでありがとうなカリスさん!」
「……カリス様って呼んでくれる?」
「「カリス様!」」
ためらうことなく2人の男は彼女を様付けで呼んだ。
「……女王様って呼んで」
「「女王様!」」
「ふふ。素直な男は好きよ。じゃ、コーヒーでも入れてきなさい。ミリィの分もよ」
「「はい、ただいま!」」
ケヴィンとクライヴはニコニコしながら医務室から出ていった。
「カリスはん……彼ら一応、S級クランのメンバーやで……」
フランツは白い目でカリスを見つめた。
「嫌がってたらやらないわよ。だって、彼らノリノリだったじゃない」
「……ホンマか……?」
⸺⸺
ケヴィンは食堂へ入りコーヒーをセットすると、湯を沸かしてハンドドリップでコーヒーを淹れていく。
クライヴは椅子に座り、肘をついてその光景を眺めていた。
「あ……あのさ、クライヴ」
「お?」
ケヴィンの気まずそうな態度にクライヴは首を傾げる。
「さっきは……ごめん。勝手に疑って殴ったりして……」
それを聞いたクライヴはふっと吹き出した。
「いいよそんなこと。ケヴィンが疑うのは当然だしね。だって俺怪しいし、実際、君らに隠してることあるし……」
「……やっぱ将軍なんか?」
「それは……」
クライヴは言葉に詰まる。
「あぁ、いいんだ、言えないならそれはそれで。俺も船長みたく、お前の戦い方、ちゃんと見てみた。すげー丁寧な戦い方で、合わせやすいなって思った。“幻想”の奴らの統率なんて全くないバラっバラな戦い方とはまるで別物だった。お前は、“幻想”じゃねーわ」
ケヴィンがそう言うと、クライヴはホッと安堵の吐息を漏らした。
「まぁ、そこの疑いは晴れて良かったよ。でも、俺のことに関しては、まだ言えない。俺にもタイミングがあってさ。俺のことは必ず話すって約束する。だから、今は待ってくれないか。その間いくらでも疑ってくれて構わないから」
「そっか。俺はお前のこと信じて待つよ。でもな、もしおっさんみてぇに一人で抱えすぎてパンクしそうになったら、この船にはミオっていう優秀なカウンセラーがいるんだぜ。まずはそいつに打ち明けてみるのをオススメする」
「ありがとう、ケヴィン。ははは、ミオちゃんはどんなカウンセリングしてくれるの?」
「一緒に泣いてくれる。あいつは感受性が豊かで、他人のことも自分の事のように考えられる子なんだよ」
「なるほど。よく覚えておくよ」
そしてケヴィンは5つのカップをお盆に乗せると、女王の待つ医務室へと戻った。
⸺⸺
「遅いわ。なんで5杯も淹れてくるのよ」
「すみません! 俺らも飲みたくなっちゃいました!」
ケヴィンはそう言ってだらけるカリスへコーヒーを差し出す。
「そこの男は何してたのよ。2杯同時に淹れなさいよ」
「すみません! 肘ついてのんびりしていました!」
クライヴはサッと土下座をする。
それからもカリス女王の言葉責めを受けた2人はひたすらに謝り続け、散々やり取りを続けると3人同時にぷっと吹き出し大笑いをした。
「あー、おっさんのこと心配しすぎて肩ガチガチになってたから、こうやってふざけて緊張ほぐさねーとな」
と、ケヴィン。
「ミオちゃんが帰ってきておじさんも復活したら、みんなで今のやろう」
クライヴもそう言ってスッキリした顔をしている。
「ホンマにノリノリやってんな……」
フランツは苦笑した。
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