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第四章 氷の女王と氷の少女

68話 乗り越えた先の

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「「チャド!! パウラ!!」」

 ミオとケヴィンは急いで駆け付けると、瓦礫がれきの下でチャドがパウラをかばっているのを発見した。

 チャドの下半身は完全に瓦礫の下敷きになり、チャドが生きているのも不思議なくらいだった。

「待ってろチャド、今助ける! ミオはチャドに白魔法をかけ続けてくれ!」
「了解!」

 ミオが白魔法を発動し、ケヴィンが瓦礫をメイスで砕こうとすると、岩壁の岩が崩れ落ちた箇所が再度弾け、中から巨大なモグラのような魔物が飛び出した。

「クソ、こんな時に!」
 魔物がこちらの気配に気付いたため、ケヴィンは魔物に攻撃をして気を引きながら遠くへ離れる。

「しかもこいつ亜種かよ……!」

 モグラの魔物は黒と赤のモヤをまとっており、腕をひと振りすると氷のつぶてをケヴィンへ飛ばしてきた。
 彼はなんとかメイスで氷を打ち砕き相殺する。

 しかし、攻防を続ければ続けるほど、彼を絶望へと追い込んだ。
「強え……A以上の亜種っぽいな……」


 後から仲間として合流したエルヴィスを除いて、ケヴィンはクロノ、チャドとの3人の中でも圧倒的に弱かった。
 というよりは2人が異質な強さなだけであったが、彼は到底その領域には達することができなかった。

 その理由は、血昇けっしょうのアウラの発動が怖かったからである。
 チャドが血昇のアウラを発動する度に魔力を暴走させていたこともあり、自分ももしかしたらそうなるのではないか、という不安が時折彼を襲った。

 血昇のアウラの発動条件は満たし、少しだけ発動はしたことがあるものの、それを戦闘に活かすことはできずにいた。
 そのため、当然奥義も発動の仕方だけは学んだものの、一度も放ったことはない。


「ケヴィン、大丈夫!?」

 ミオが白魔法をチャドへかけ続けながら呼びかけると、そんな彼女に心配されてしまったケヴィンは無理に笑顔を作ってみせた。

「余裕! こいつは、俺一人で倒す! だからミオはそれまでチャドを保たせてくれ!」
「了解!」
 ミオは返事をすると再び白魔法へと集中を向けた。


「パウ、ラ……出て……」
 チャドが消えそうな声で自身の腕の中にいるパウラへ話しかける。

 パウラはじたばたともがいてなんとかそこから抜け出すと、チャドの腕を掴み彼を引っ張り出そうとした。

「僕は、いいから……」

 そう言った彼の手の甲に大粒の涙がこぼれ落ちる。
 その様子を見ていたミオは、パウラが泣いていることに気付いた。

「パウラ……」
 ミオもその彼女の表情を見て、この状況をどうすることもできず白魔法をかけ続けることしかできない自分に悔しさを覚えた。


 白魔法をかけ続けてもらっても苦しいことに変わりはないチャドは、耐えることに必死で魔力のコントロールもできずに稲妻をバチバチと放つようになっていた。
 その魔力の影響か、彼らの元へ魔物の残党が集まってくる。

「どどどど、どうしよう……!」

 ミオは頭の中でぐるぐると色んな可能性を考える。
 片手で白魔法を発動したまま炎の魔力を飛ばすことはできるのか。
 白の陣は同時に発動できるのか。
 魔法障壁はどのくらい大きいものまで作ることができるのか。

 こんな時、ポールがいてくれたら……。彼女は普段どれだけ相棒に頼りきっていたかを思い知らされた。

 すると、パウラがチャドを引っ張るのをやめ、松明の主電源の近くに立てかけてあった古い魔導ボウガンを構えた。そして……。

「みんなにちかづくな!!」

 そう言って強烈な一撃を魔物へ撃ち込んだ。
 魔物は攻撃が当たると瞬時にいばらで包まれ撃破されていく。

「パウラ、あなた、魔力が……」

 パウラの抑え込まれていた魔力が解放され、ミオは彼女から綺麗な黄緑色の魔力を感じとることができた。

「パウラ、ここ、まもる!」
 パウラはミオとチャドの元へ戻ってくると、彼女らと魔物の間に立ち魔導ボウガンを乱射した。

「よし、私も……」
 ミオもとにかくやってみるしかないと思い、炎の魔力を押し出そうとしてみるが、白魔法の威力が弱まっていくのを感じ、慌てて魔力を引っ込めた。

「う、ダメだった……ならこれは……!」
 次に空いている手で自分の前に魔法障壁を作ると、自分と同じくらいの大きさの障壁を作ることができた。

「よし、パウラこの後ろから攻撃を!」
 ミオがそう叫ぶとパウラはすぐに障壁の内側へと入り、その脇から再び乱射をし始めた。

 
 チャドは意識が朦朧とする中、彼女らの奮闘する様子を薄目で見守っていた。
 そして、その奥のケヴィンを見つめ、声を出すこともできずに口パクでこう言った。

⸺⸺勝って、ケヴィン⸺⸺


「!!!」

 苦戦しているケヴィンは、チャドに勝ってと言われたような気がしてハッとして彼の方を向く。
 彼は稲妻をバチバチと放ちながらグッタリとしていた。

 散々おびえてきた彼の稲妻。
 だがしかし今は、彼が生きている証拠としてケヴィンの心の支えになっていた。

 また、彼の前ではミオが片手で白魔法を唱え、もう片方の手で魔法障壁を維持している。
 その障壁の脇からはパウラが魔導ボウガンを乱射していた。

 そうだ、自分は一体何をしているんだ。
 迷ってる場合ではない。怯えている場合ではない。こんなところで足止めを食らっている場合ではない。

「あああああ!!」

 ケヴィンは身体の底から全身で雄叫びを上げると、血昇のアウラを発動させて全身を赤いオーラで包んだ。

 そして、今まで互角に打ち合いをしてむしろ押され気味であった魔物に対して一方的に攻撃を打ち込んでいく。

⸺⸺氷塊撃⸺⸺

⸺⸺氷刃連撃ひょうじんれんげき⸺⸺

⸺⸺フリーズクラッシュ⸺⸺

 次々に氷をまとった属性技を繰り出し、遂に魔物がひるんでひっくり返る。

 彼はそれを確認するとすぐに溜めの動作に入り、地面をえぐるようにメイスを振り上げた。

⸺⸺奥義 氷波連風ひょうはれんぷう⸺⸺

 冷気が物凄い勢いで魔物を吹き抜け、その通った道筋を氷の波が突き上げていく。
 魔物も例外なくその波に貫かれると、弾けるように黒い霧となり、撃破が完了した。


「はぁ、はぁ……」
 ケヴィンは血昇のアウラを解除するが、慣れない発動によりその反動を受け動けなくなっていた。

「動け、足……まだ終わってねぇ……!」
 彼は重たい足を無理やり引きずり、ズルズルとチャドの元へと戻った。


 ずっと躊躇ためらってきた本領を発揮し、ケヴィンもクロノやチャドの領域へと達した瞬間であった。



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