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第四章 氷の女王と氷の少女

64話 トレジャーハンターの実力

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 さかのぼること1時間ほど前。

 クロノらは道中の魔物を蹴散らしながら山道を進む。

「お、ノアっちやるじゃないの!」
 ノアの放った魔導ボウガンの矢が見事に魔物を撃ち抜き撃破する。

「うん、だって僕仕事でいつも倒しとるもんで」

「仕事ってそういえば何してんの?」
 エルヴィスが尋ねる。

「フリグス鉱山でフリグス鉱石を掘る仕事だよ。僕は主に魔物の討伐班だけどね」

「こんな小さな子がそんな物騒な仕事を……って、ノアっちいくつだっけ」

「僕15だよ。この国では14になったらもう1人で働くだよ」
「ひぃ、大変だぁ」
 エルヴィスはそう言いながら魔物を撃ち抜く。

「おじさんのって、普通の銃?」
「そーよ、おじさん魔導の才能ダメダメだったからね」

「魔導はそんな難しくないだよ。今度僕が教えてあげるで」
『オイラも教えてあげるよ』
 ポールがここぞとばかりにしゃしゃり出る。

「お、頼もしいなぁ。そうね、また教えてちょ」
 後衛が他愛もない話で盛り上がっていると、目的の場所へと到着する。


「この先だよ、事故現場!」
 ノアが前衛に向かってそう叫ぶと、クロノもクライヴも足を止めた。

「なるほど」
「確かに黒い気の気配がバンバンだぁ」
 二人は背中の武器に手をかける。

「さて、世界をまたにかけるトレジャーハンターのお手並み拝見だな」
 クロノが皮肉を込めてそう言うと、クライヴは苦笑いした。

「いやぁそれがさ、俺、水属性な訳」
「知ってる」

「こんな極寒じゃぁ水が凍って威力が半減する訳」

「んな言い訳いいからさっさとやれ」
「クロノ鬼なの!?」

「ほら、Aランクのお出ましだ」
 クロノはそう言ってクライヴを一人残して後衛まで退いた。

『シャァァァ……』

 フリグス鉱石をまといゴツゴツとした蛇の魔物がゆっくりとクライヴへい寄る。

「だぁー、もう。まずは属性技は使わずに行くかぁ」
 彼はそう言うと血昇のアウラを発動させ魔物の頭上へと飛び上がり、強力な連続突を放った。

⸺⸺瞬迅連突しゅんじんれんづき⸺⸺

 魔物がうめくと同時にフリグス鉱石の装甲が粉々に砕けちっていく。

⸺⸺水流突き⸺⸺

 魔物がひるんでいるうちに、裸になった本体を水が流れるように滑らかに貫いた。

「なんとか技は発動できたけど、すぐ解除しないと俺まで凍りつくな……。やっぱこの天候は俺の天敵だわ」

 魔物は黒い霧となって消えていったが、クライヴの移動跡がパキパキと凍りついており、本人は不満そうだった。

「おい、まだ来るぞ」
「まだ俺のターンなの!?」
 クライヴはクロノに後ろから急かされ、仕方無しに再び高く飛び上がった。

⸺⸺村雨落むらさめおとし⸺⸺

 まるで水の大砲が急落下をするように魔物を襲い、飛び散った水しぶきは瞬時に凍りキラキラと輝く。
 クライヴは着地をせずに槍をバネにして後ろへ飛び退き自身も凍りつくのを防いだ。

「おぉ、なんとかワンパンできたなー」
 彼はふうっと一息つく。


「クライヴ君やるねぇ。ただの槍使いじゃないね~」
 一部始終を見ていたエルヴィスがボソッと呟く。

『なんだろう、あの槍さばき、なんか安心するなぁ』
 と、ポール。
「守ってもらいたいってか?」
 エルヴィスは嬉しそうに問う。

『う~ん、どうかな。とにかく安心する』
「もうちょい面白い返しを期待したんだけどなぁ」

『ごめん、オイラ別にウケ狙ってるんじゃないから』

「……マジなやつじゃん」


「クロノ! まだ俺のターンなの!?」

 クライヴはもう勘弁してくれという表情で背後のクロノへ訴える。
 クロノは鼻で笑い、刀のつかに手をかけると一瞬で魔物への間合いを詰めた。

⸺⸺黒曜斬こくようぎり⸺⸺

 黒いオーラをまとった刀身が魔物を一刀両断し、魔物はすぐに黒い霧となって消えていった。

「げ、速っ……」
 次々に魔物を斬り倒して行くクロノを見て、クライヴはもはや引いていた。


 その後も4人で次々にAランク級の魔物を倒して行くと、辺りから魔物の気配が完全になくなった。

「よし、これでクエストクリアだな」
 クロノの一声で全員が武器を収める。

「クエストの達成条件はAランク以上の魔物を20体討伐だもんで、もうとっくに達成できとるよ! それ以上にたくさん倒してくれてありがとう!」
 ノアがペコッとお辞儀する。


「ただこれじゃぁまたそのうち発生するだろうから、明日あたりにでも5年前の黒い気の噴出箇所を浄化しておくか」

「浄化って!?」
 と、クライヴ。

「今は無理だ。今日はもう暗くなってきたし、村に引き返して明日ミオを連れてもう一度来るぞ」
「ミオちゃんがなんかするってこと……?」
 クライヴが迫るようにクロノへ質問攻めをすると、クロノは彼をスッと見据えてこう返した。

「お前がどこの国の将軍か白状したらアイツのことも少しは教えてやる」

 クロノはそう言って村の方へと歩き出した。
 クライヴは一瞬ギョッとしたが、すぐにひょうきんなテンションに戻り、クロノのあとを追いかけた。

「俺、どこの国の将軍でもないよ~! そんなふうに評価してくれてありがと~!」

「威力が半減してあの槍さばきだろ? それに、そのキャラには似合わねぇ丁寧かつ豪快な戦闘スタイルだったな。戦い方は己の本心が露出する。つまり、お前のそのウザいテンションはカモフラージュってことだ」

「ちょ、褒めてんのかディスってんのかどっち!?」
「両方だな」

「ぐっ、嬉しくない……。そういうクロノだって、強すぎて俺ドン引きだかんね!?」
「あっそう」

「え、反応薄っ! 俺のことをそんなふうに言うならクロノだってちょっとは自分のこと話してよぉ」

「俺は勝手にそう解釈しただけで、実際お前はそれに対し“将軍ではない”と否定しただけで詳細は不明だ。ならお前も勝手に俺を解釈すればいい」

 クロノにそう言われ、クライヴは先程見たクロノの戦闘スタイルを振り返る。

「クロノこそ、基本に忠実な構えに隙のない身のこなし……軍隊にいたんじゃ? それこそ余裕の将軍クラスだよ」

「まぁ、褒め言葉として受け取っておこう。けど、俺は軍隊に入る前に抜けた、とでも言っておこうか」

「候補生ってことか……きっと特待生だった、そんな実力があったのになんで……あ、あと、それって妖刀だろ? どこで手に入れたんだ? アメノカクか?」

「洞察力も鋭い……と」

「誤魔化すなよぉ! それって当たりってことでいいのか? どれが当たってた? 候補生、特待生、妖刀、アメノカク?? クロノ待て~!」

 早足で逃げるように歩くクロノを、クライヴは必死に追いかけていった。

 その後ろをノアを抱えたエルヴィスも早足で追いかける。
「はっはっは、クライヴ君やっぱやるねぇ。全部当たってらぁ」

『うわぁ、クロノもクライヴも気になるな~』
「なんだなんだ?、二股か?」

『クロノ君に恋? いやぁそれはないな~』
「だはは、クロノ振られてらぁ!!」


 ⸺⸺その時、ドーンという強い衝撃を感じ、地面が軽く揺れた。

「!!」
「今のは!?」
『なんかオイラめっちゃんこ嫌な予感してきた……』

「とりあえず急いで村に戻ろう」
 クロノの言葉に皆強くうなずくと、急ぎ足で村へと戻って行った。




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