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第四章 氷の女王と氷の少女
55話 マナに敏感
しおりを挟む翌朝。山林付近の海岸にチャドの魔力を感じたミオは、朝食後突然皆へこう告げた。
「私、ちょっと行ってくる」
「行くってどこへ?」
と、エルヴィス。
「チャドのところ」
「危ないぞ、ミオ……」
ケヴィンが心配そうな表情を浮かべる。
「大丈夫。いざとなったらこれがあるから」
ミオはそう言って魔法障壁を目の前に作ってみせる。
『ミオだってルフレヴェの一員なんだよ。いつまでも守られてばっかりじゃない。信じてあげてよ』
「分かった、けど、近くまでは一緒に行く。“幻想”みてぇのがいるかもだからな」
クロノがそう言うと、ミオは「ありがとう」とお礼を言ってポールをテーブルの上へ下ろすと、クロノと二人で宿屋を出て行った。
やがて目的の海岸付近へ来ると、稲妻がバチバチいっている音が聞こえてくる。
「あの洞穴の中に居るな」
と、クロノ。
「そうだね、じゃぁ私行ってくるから、クロノは寒いし先帰ってて」
「……一応なんかあったら空に炎でも上げろ。こっちの方角を確認するようにしておく」
「ありがとう」
「……チャドを、頼んだ」
「任せて!」
ミオはグッドサインを作ってニッと笑うと、チャドのいるであろう洞穴へとかけていった。
クロノがそのままの位置でその様子を伺っていると、ミオが洞穴を覗くか覗かないかの位置で、中から怒号が聞こえてきた。
「来んな!!!」
それは昨日の低い声のチャドで、そんな怒鳴り声にも臆さないミオを確認すると、クロノは約束通り宿屋へと戻っていった。
「何しに来た……」
ミオが洞穴を少しだけ覗くと、隅にうずくまっているチャドは唸るようにそう言葉を絞り出した。
彼はキッと彼女を睨みつけ、野生の猛獣のように威嚇をしており、普段の彼はどこにもいなかった。
「心配で、様子を見に来たの!」
ミオは稲妻の音に負けないよう、必死に叫んでチャドへと言葉を投げかける。
「帰れ。いいから放っといてくれ……」
「帰らない。試したいことがあるから」
「はぁ? ……っだから来んなって言ってんだろ!? 死にてぇのか!?」
ミオが洞穴へ入り稲妻の当たるギリギリのところまで近付くとチャドは驚き、より険しい表情で彼女を威嚇した。
ミオは稲妻に触れられるくらいのところで魔法障壁を作る。
そしてその障壁を前へと押し出すと、稲妻は障壁を貫通していた。
「やっぱり……!」
彼女は何かを悟ると、稲妻へそっと触れてみる。すると、感電することなく彼女の指も貫通をした。
「……っ!?」
チャドはその様子を見て、ミオが感電したのではと思い、更に呼吸を荒らげる。
しかし、そんなことお構いなしにミオは稲妻の中を彼の方へと突き進んできた。
「え、待って……は?」
チャドがその様子に呆気に取られていると、彼の目の前まで来たミオはうずくまっている彼をキツく抱きしめた。
彼は目を見開き驚きを顕にすると、そのまま呆然としていた。
「もう大丈夫だよ。ひとりじゃない」
ミオはチャドを抱きしめたままなだめるように言う。
「ミオ、平気なのか……?」
「うん、平気。なんともないよ」
「何で……? そのローブの性能がいいから?」
「多分、これのせいじゃないと思うよ」
ミオはそう言うとチャドから離れ、思い切ってネコ耳ローブを脱いでみる。
「ほら、全然なんともない……はっくしゅん!!」
思いっきりくしゃみをしたミオは、鼻水をすすりながらチャドへ笑いかけた。
「分かった、とりあえず寒いから着て……」
チャドはいつもの声のトーンでそう言うと、ミオの手に持っていたローブを彼女へと着せてあげた。
「ありがとう。じゃぁまずは、このバチバチしてるの収めよう」
ミオはそう言ってチャドにピッタリくっついて座る。
「収めれたらとっくに収めてるよ……」
「チャドはね、収めようとしてないの。興奮を抑えようとしているだけ」
「……!?」
「気持ちが高ぶるとこうなっちゃうって聞いたよ」
「うん……」
「だから、気持ちを抑えようとしてるんじゃない?」
「うん……そうしてる」
「でもね、これって、私の魔力が溢れ出ちゃうのと一緒だと思うんだ。だから、気持ちを抑えるんじゃなくて、身体の中の魔力を抑えようって念じてみて」
「魔力……でも僕、魔力なんて操作したことないよ」
「属性技使うときってどうしてるの? 武器に魔力を押し込めてるんじゃないの?」
「あ、そっか。それと逆のことをすればいいのか……やってみる」
チャドがそう言うと、バチバチした稲妻はすぐに収まっていった。
「おぉ、できた!」
ミオは嬉しそうな表情を見せる。一方チャドは、どこか気の抜けたような表情をしていた。
「マジ? 一晩中苦労したのに、こんなことで収まんの?」
彼はそう言って力なく笑った。
「ごめんね、私も昨日の夜色々試してて、来るのが遅くなっちゃった」
「夜? ミオ、寝た?」
チャドは顔を引きつらせる。
「えへへ、あんま寝てない」
「マジか……僕のため、だよね。ありがとう……でも、何を試してたの?」
「あのね、普通魔法杖や武器を通さないと、炎属性の人でも火を出したりできないんだよ」
「うん、そうだね」
「それで、魔法杖を使わずに、手のひらから火を出す練習をしてた」
「あはは、言ってることがあべこべだね」
チャドはヘラヘラと笑う。
「頑張って練習したからちょっと見ててよ」
ミオはそう言ってチャドが使っていたであろう焚き火の跡へ手のひらを近付ける。
すると、手のひらからボっと小さな火が噴き出し、パキパキと音を立てて木が燃え始めた。
「うわ、マジ? すごいね」
「私もね、チャドとおんなじでマナに敏感なのかなって思うの。ほら、魔導具のエンジン部分に触れるとちょっとピリピリする感じ。だからできるかなって」
「あ、僕も同じだよ。船のエンジンとかマナの集まってるところを触るとピリピリする」
「でしょでしょ」
「でもさ、それじゃぁミオが僕の稲妻の中にガンガン入ってこれる理由が分からないんだけど。だって、実際焚き火は燃えてる訳だし……」
「でも、私の手は燃えてない。チャドの身体も感電してない」
「あ、確かに……」
「もっと言うとね、フェリス島で果樹園が大火事になってなかったのもおかしいと思ってたの。だって、あんな雷ゴロゴロ落ちてたら、アケルの木がまる焦げになると思わない?」
「うわぁ、本当だね。いつも気持ちが高ぶってて、そんなこと気にしてなかった……つまり、作用させる対象を自然に選んでるってこと?」
チャドがそう言うと、ミオは再び手のひらに小さな炎を作り出した。
「そうなのかなって。魔法杖から火を飛ばして自分の魔力操作から離れた火とは違って、この火はまだ私の魔力操作の範囲にいる。だから、燃やすも温めるも私次第」
ミオのその言葉を聞いてチャドがその手のひらの炎へ指を突っ込むと、決して熱くはなく温かさだけが彼の指へと伝わった。
「あったかい……」
彼はそう言って優しく微笑んだ。
そして、ミオの指先へ自身の指先を近付けると、そこから稲妻を放つ。
「あっ! チクってした!」
ミオは手を引っ込めて手のひらをぶんぶんと振る。
「あはは、ちょっとだけ痺れさせようとしてみた~」
チャドは意地悪そうに笑う。
「お、もう全然コントロールできちゃってるね」
「うん、ミオのおかげ……僕、僕さぁ……!」
チャドはそう言いかけると、突然堰を切ったように泣き出した。
抑えていたものが一気に溢れ出し、ミオに言葉を伝えようにも嗚咽が酷くなり伝えられない。
「うぅ、ひっく……うぅ、僕……ひっく……」
「大丈夫、大丈夫、とにかく全部吐き出しちゃおう」
ミオがそう言って再びチャドを優しく抱きしめると、今度はすぐに彼も抱き返し、彼女の真っ平らな胸の中でわんわんと泣きじゃくった。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「よーしよーし……うぅ、ヤバいもらい泣き……」
何故かミオまで一緒になってわんわん泣き始め、洞穴にはしばらく二人の泣き声が響きわたっていた。
しかし、そんな風にチャドが感情を爆発させても、もう稲妻が勝手に飛び出てくることはなくなった。
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