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第四章 氷の女王と氷の少女
54話 冷めない興奮
しおりを挟む⸺⸺メディウム島⸺⸺
フェリス島のように小さな島で、南半分が居住区の町となっている。
北の山林から湧き出る冷気により、町の空気は雪が降ったあとのように冷たく澄んでいる。
町の規模は小さいが、ミュラッカ島上陸に備えての防寒具や食料補給は十分に行え、クラン支部もあるため一稼ぎすることも可能。
⸺⸺
ルフレヴェの皆はエルヴィスを船の整備のため港に残し、いつものように4人で港から町へと出てきていた。
「寒っ」
ケヴィンは自身の腕を擦る。
ミオも大きな耳が冷えるため、ネコ耳のフードをすっぽりと被っていた。
「あ、クランボード黄色い!」
ミオは地図を確認しようとそれを取り出したが、黄色く点滅していることに気付く。
赤色は緊急クエスト、緑色は特別クエストであるが、果たして黄色は……。
「なんだ、亜種が出てんのか」
と、クロノ。
黄色の通知は管轄内に亜種が出現していることを知らせる通知であった。
亜種は通常の魔物と違い、クエストを受けることで討伐が可能になる。
その亜種と同等以上のクランランクが必要となるが、一番上のS級であるルフレヴェにはあまり意味のない制限である。
「どれどれ? クラスは?」
チャドが興味津々でクランボードを覗き込んでくる。
ミオが通知を消して亜種クエストの詳細ページへと飛ぶと、Bランク亜種『アイスメデューサ』との記載があった。
「なんだBかぁ。ま、いっか受けようよ」
「氷属性だな……ミオの練習にも丁度いいか」
と、クロノ。隣でミオがギョッとする。
「なんと!? 初陣が亜種でありますか……」
「んなこと言って、初級魔法でワンパンとか普通にありそう」
ケヴィンは意地悪そうに微笑む。
早速クラン支部で亜種クエストを受注した皆は、町の店で防寒具を整えると北の山林へ向かった。
「いや、これ着てもさみぃな……」
ケヴィンは厚いコートの上から腕を擦る。
「ケヴィンって氷属性なのに寒さに弱いの?」
ミオのとぼけた質問に思わず出てきたポールが『属性関係ないから』と突っ込んでいた。
「なんだろうな、んなに寒いの弱いつもりなかったけどな……」
ケヴィンは何か悪寒でもするかのようにぶるぶると震えていた。
すると、道中で薄水色の狼のような魔物と遭遇する。
「お、ミオ、出番だぜ。亜種前のウォーミングアップができるな」
「ういっす……」
ケヴィンに急かされ慌てて杖を構えて静唱をする。
⸺⸺初級炎魔法⸺⸺
「ファイア!」
バスケットボール程の大きさの火の玉が勢い良く魔物に飛んでいき、見事命中してワンパンで倒すことができた。
ケヴィンやチャドは「おぉ」と拍手をくれたが、クロノは首を傾げていた。
「思ってたより小せぇ炎だったな」
「「あ、確かに」」
と、双子も声を揃えて言う。
それを聞くとミオは待ってましたとばかりに得意気に「ふふん」と鼻を鳴らした。
『ミオね、威力を抑える練習してたんだよ』
「え、何で?」
と、ケヴィン。
「だって、こんな山の中ででっかい炎出したら山火事になっちゃうかなって……」
ミオがそう答えると、皆「なるほど」と納得していた。
その後もミオが魔物を炎魔法でワンパンしながら奥へと進んでいく。
奥に進むにつれて亜種の影響か魔物のレベルも上がってきたため、他の3人も攻撃に加わり始めた。
すると、徐々にチャドの様子が変化していく。
「チャド? 大丈夫?」
ミオがチャドの様子に気付き声をかけると、彼は息を荒らげながら「なんかヤバイかも」と声を漏らした。
クロノとケヴィンもチャドを凝視していると、目を見開いた彼は薄笑いを浮かべて低い声でこう言った。
「先、帰ってて」
稲妻を放ちながら彼はあっという間に姿が見えなくなった。
皆唖然とする中、ケヴィンだけは悪寒の正体がこれのせいであると感じていた。
「だ、大丈夫かな、チャド……」
ミオは先の方に時折見える稲妻や落雷を見つめながら言う。
「まぁ幸い、あの状態の時のあいつは魔力や気配をガンガンに飛ばしてるから、町からでも生存確認はできるし、落ち着くのを待つか」
クロノがそう返すと、残された3人はとぼとぼと町にUターンした。
⸺⸺
彼らが酒場に入る頃には亜種は討伐完了になっており、チャドが倒したと推測出来た。
既に酒場にいたエルヴィスと合流し、休憩がてら食事を取る。
「ちょっと前からチャドの気配がすごくなったと思ったら、そういうことだったのね」
と、エルヴィス。
『いつもは本気を出そうとした時にああなってなかった? 今回は、別に本気なんか出してなかったのに、抑えられてないみたいだったね』
そう言うポールに対し、ケヴィンが反応する。
「なんとなくだけど、俺らの故郷の空気に似てんだよ。雪は降ってねーけど、空気が冷たいっつーか、そういうところが似てる。だから、かもな……」
彼は食事もままならなく「俺、宿で先休んでるわ」と静かに言い残し酒場を去っていった。
「おじさんあんまり気にしたことなかったけど、あの子たちの故郷ってどこ?」
流石のエルヴィスも彼らが心配のようで、クロノへと尋ねる。
「ガルラ王国のダウンタウンだって、かなり前に言ってたな……」
「ガルラか……また大変な生活だったんだろうなぁ……」
「どんな所なの?」
と、ミオ。クロノが答える。
「身分の差が激しいところで、国王や貴族院の圧政も厳しいっつう噂だ。中でも最下層のダウンタウンは無法地帯で、治安もかなり悪いらしい。だいたいそういう所から逃れてきたやつらは“訳あり”だからな、自分から言いたがらねぇ限り、何も聞かねぇことにしてた」
『マナに敏感なだけかなとも思ってたけど、心理的な要因もありそうだねぇ』
「かわいそうだな、二人とも。きっと、心の底から楽しめてないよね、毎日を」
ミオが俯きながら言う。
『ミオは毎日楽しいもんね』
「おかげさまで……」
ミオがそう返すと、クロノもエルヴィスも「良い事だ」と、笑ってフォローをした。
結局夜になってもチャドは帰ってこなかったため、一行はこの町の宿屋で一泊することとなった。
ミオは自室のバルコニーで何かを必死に考えながら夜な夜な部屋にあったメモを燃やしていた。
ポールはミオなりになんとかしようとしているのだと思い、彼女の意思を尊重して何も言わずに見守っていた。
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