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第三章 狼の少年と赤い頭巾の少女

46話 急襲

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 黒い気の壁のすぐ側には、黒いローブの女、マイアがクロノの様子をうかがっていた。

「悪いけど、ちょっといたずらさせてもらうわね」
 マイアはそう言って真っ黒な杖を取り出して、黒い気の壁に向かって何かを唱えた。
 すると、森の木々よりも圧倒的に巨大な黒い人型の魔物が壁から湧き出てきて、木をなぎ倒しながら集落めがけてドシンドシンと前進し始めた。

「A級亜種、ジャイアントゴーレムちゃん。まぁ、あの男には敵わないでしょうけど……」
 マイアはそう呟くと黒い気の壁の向こうへと姿を消した。

⸺⸺

 拠点では行き詰まった議論が繰り広げられていたが、木々をなぎ倒す地響きと共に突如現れた禍々まがまがしい気配に、皆北へと視線を向ける。

「な、なんかデカイのいる……!」
 ミオが絶叫する。

「集落の方向かってるぞ!」
 と、ケヴィン。

「行くぞ。全員来い!」
 クロノの掛け声と共に皆で集落へと急いだ。


「なんで集落に一直線なんだ!? まだ集落は白い気の気配あっただろ!?」
 走りながらケヴィンが言う。

「この短期間で弱まったとか?」
 と、チャド。それに対しクロノが答える。
「だとしても、集落の周辺は天使像で囲ってある。白い気にはばまれて魔物は集落自体認識できねぇはずだ」

「もうあの女の子しかいないよ。命令したんだ」
 チャドは諦めたようにそう吐き捨てる。

「くそ、この近くにいるってことか? それらしき気配なんて何も……よし、とりあえず間に合ったな」

 彼らが集落へ駆け込むと、住民はおびえながら彼らの方へと逃げてきた。
 その中にロジェとミオの姿をとらえると、皆一様に後退あとずさりをしたが、ダニエルが一喝いっかつする。

「いつまでそんなことをしているつもりだ! ロジェもミオちゃんも君たちを助けたい一心でこうして来てくれたんだ! 彼らのことをもっとよく見ようとしてほしい!」

 住民が後退りを辞めたのを確認すると、クロノがパーティ分けの指示を出す。

「あのでけぇゴーレムの周りにもレベルの高い魔物が複数いる。その周りの奴らをケヴィン、チャド、エルヴィスで討伐しろ。俺、ミオ、ロジェ、ミシェル……この4人であのゴーレムを討伐する」

「了解!」
 皆勢い良く返事をすると、指示通り配置についた。
 ダニエルが住民へ、誰が守ってくれているのかよく見ておくよう伝えると、皆怯えながらもロジェの方を見つめていた。


 ケヴィンらが周りの討伐を開始し、クロノらは集落の端でジャイアントゴーレムを迎え撃った。

 まず練習通りにクロノとロジェで連携を決める。

⸺⸺黒風刃こくふうば⸺⸺

⸺⸺大地斬だいちざん⸺⸺

 クロノの刀から黒い斬撃が飛ぶと、それに追い打ちをかけるようにロジェの斧から地属性の力が働き、地面を裂くように斬撃が走る。
 ジャイアントゴーレムには効いているようで、攻撃を当てた左足を大きく退しりぞかせた。

 ゴーレムが反撃で腕を大きく振りかざしてくると、クロノは鋼鉄こうてつのアウラを発動せずにわざと素手で受け止めた。

「くっ……」
 腕にえぐるような傷を負い痛みにうめくが、彼はひるむことなくロジェとミシェルに反撃するよう指示を出した。

「行くぞミシェル!」
「ええ!」

⸺⸺クラッシュインパクト⸺⸺

⸺⸺中級炎魔法⸺⸺

「フレイム!」

 ロジェの岩石をまとった横殴りがゴーレムの右足にヒット。
 その後すぐに大きな火の玉が同じ箇所かしょへ降り注ぐ。

⸺⸺グァァァァッ⸺⸺

 ゴーレムが地響きのともなうめきを上げ、右足も負傷し大きな巨体が膝をついた。

 わざと大きく跳び退いてミオの前まで下がってきたクロノは、住民へ腕を見せ付けるようにしてミオに回復を指示した。

⸺⸺中級単体白魔法⸺⸺

「クラル!」

 傷はあっという間に塞がり、住民からは感嘆かんたんの声が漏れる。

 クロノはすぐに前線へ戻ると、ロジェとアイコンタクトをとり、彼と同時に血昇けっしょうのアウラを発動した。

 二人が予備動作へ入り力を溜め始めると、ミシェルは初級魔法でゴーレムに攻撃をし、立ち上がるのを防いでいた。

 そして、クロノとロジェが同時に跳び上がり、お互いの斬撃をクロスさせてゴーレムへ命中させる。

⸺⸺連携奥義 戯岩黒曜剣ぎがんこくようけん⸺⸺

 ゴーレムの巨体がゆっくりと後ろへ倒れていき、頭から順に黒い霧となって消えていった。

「上出来だな……って、まんねぇな」
 クロノがそうロジェへねぎらいに行くと、ロジェはなれない血昇のアウラの影響で尻もちをついて動けなくなっていた。

「ほとんどクロノのパワーだと思うけど……俺、あんなデカイの倒せたよ」
 ロジェは力なく笑う。

「少なくとも右足は俺は関与してねぇ。自信持っていい」
「そっか、ありがと……」


「ミオ~! 助けて~!」
 チャドらも討伐が終わったようで、彼は左腕から血を流しながらミオの元へと戻ってきた。

「えっ、チャド、どしたの?」
 ミオは慌てて初級魔法で傷の回復をする。

「お、ありがと。亜種っぽいの3体同時に相手したらちょっとやらかした~」
 チャドはそう言ってヘラヘラ笑った。

「アウラは使わなかったんだ?」
「うん、いけるかなーって思ってちょっと油断した~」
「あーあ、気をつけないとね」
「えへへ」
 ミオの頭にくっついていたポールは、ケヴィンがいたからえて発動しなかったんだろうなと考えていた。


 討伐組が皆集合してねぎらい合っていると、ダニエルも住民を連れてその輪へ合流する。
 デイビスが一歩前へ出てロジェとミオへ向き合うと、深く頭を下げた。

「この前は助けてくれたのに化物って言って逃げたりしてごめんな。今までちゃんと見ようとしてなかった、本当にごめん」

 彼がそう言うと、他の住民もみな次々に謝り、頭を下げた。
 巨大なゴーレムが現れるというハプニングはあったものの、それが切っ掛けとなり、ようやくロジェへの偏見が消え去ったのであった。

 ロジェは涙を流しながら「いいっていいって」と、笑っていた。
 いつものようにミオとケヴィンも泣きながら抱き合い、目の前の幸せをめていた。

 そんな時、北からゆっくりと人影が近付いてきていた。





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