46 / 228
第三章 狼の少年と赤い頭巾の少女
46話 急襲
しおりを挟む黒い気の壁のすぐ側には、黒いローブの女、マイアがクロノの様子を窺っていた。
「悪いけど、ちょっといたずらさせてもらうわね」
マイアはそう言って真っ黒な杖を取り出して、黒い気の壁に向かって何かを唱えた。
すると、森の木々よりも圧倒的に巨大な黒い人型の魔物が壁から湧き出てきて、木をなぎ倒しながら集落めがけてドシンドシンと前進し始めた。
「A級亜種、ジャイアントゴーレムちゃん。まぁ、あの男には敵わないでしょうけど……」
マイアはそう呟くと黒い気の壁の向こうへと姿を消した。
⸺⸺
拠点では行き詰まった議論が繰り広げられていたが、木々をなぎ倒す地響きと共に突如現れた禍々しい気配に、皆北へと視線を向ける。
「な、なんかデカイのいる……!」
ミオが絶叫する。
「集落の方向かってるぞ!」
と、ケヴィン。
「行くぞ。全員来い!」
クロノの掛け声と共に皆で集落へと急いだ。
「なんで集落に一直線なんだ!? まだ集落は白い気の気配あっただろ!?」
走りながらケヴィンが言う。
「この短期間で弱まったとか?」
と、チャド。それに対しクロノが答える。
「だとしても、集落の周辺は天使像で囲ってある。白い気に阻まれて魔物は集落自体認識できねぇはずだ」
「もうあの女の子しかいないよ。命令したんだ」
チャドは諦めたようにそう吐き捨てる。
「くそ、この近くにいるってことか? それらしき気配なんて何も……よし、とりあえず間に合ったな」
彼らが集落へ駆け込むと、住民は怯えながら彼らの方へと逃げてきた。
その中にロジェとミオの姿を捉えると、皆一様に後退りをしたが、ダニエルが一喝する。
「いつまでそんなことをしているつもりだ! ロジェもミオちゃんも君たちを助けたい一心でこうして来てくれたんだ! 彼らのことをもっとよく見ようとしてほしい!」
住民が後退りを辞めたのを確認すると、クロノがパーティ分けの指示を出す。
「あのでけぇゴーレムの周りにもレベルの高い魔物が複数いる。その周りの奴らをケヴィン、チャド、エルヴィスで討伐しろ。俺、ミオ、ロジェ、ミシェル……この4人であのゴーレムを討伐する」
「了解!」
皆勢い良く返事をすると、指示通り配置についた。
ダニエルが住民へ、誰が守ってくれているのかよく見ておくよう伝えると、皆怯えながらもロジェの方を見つめていた。
ケヴィンらが周りの討伐を開始し、クロノらは集落の端でジャイアントゴーレムを迎え撃った。
まず練習通りにクロノとロジェで連携を決める。
⸺⸺黒風刃⸺⸺
⸺⸺大地斬⸺⸺
クロノの刀から黒い斬撃が飛ぶと、それに追い打ちをかけるようにロジェの斧から地属性の力が働き、地面を裂くように斬撃が走る。
ジャイアントゴーレムには効いているようで、攻撃を当てた左足を大きく退かせた。
ゴーレムが反撃で腕を大きく振りかざしてくると、クロノは鋼鉄のアウラを発動せずにわざと素手で受け止めた。
「くっ……」
腕に抉るような傷を負い痛みに呻くが、彼は怯むことなくロジェとミシェルに反撃するよう指示を出した。
「行くぞミシェル!」
「ええ!」
⸺⸺クラッシュインパクト⸺⸺
⸺⸺中級炎魔法⸺⸺
「フレイム!」
ロジェの岩石をまとった横殴りがゴーレムの右足にヒット。
その後すぐに大きな火の玉が同じ箇所へ降り注ぐ。
⸺⸺グァァァァッ⸺⸺
ゴーレムが地響きの伴う呻きを上げ、右足も負傷し大きな巨体が膝をついた。
わざと大きく跳び退いてミオの前まで下がってきたクロノは、住民へ腕を見せ付けるようにしてミオに回復を指示した。
⸺⸺中級単体白魔法⸺⸺
「クラル!」
傷はあっという間に塞がり、住民からは感嘆の声が漏れる。
クロノはすぐに前線へ戻ると、ロジェとアイコンタクトをとり、彼と同時に血昇のアウラを発動した。
二人が予備動作へ入り力を溜め始めると、ミシェルは初級魔法でゴーレムに攻撃をし、立ち上がるのを防いでいた。
そして、クロノとロジェが同時に跳び上がり、お互いの斬撃をクロスさせてゴーレムへ命中させる。
⸺⸺連携奥義 戯岩黒曜剣⸺⸺
ゴーレムの巨体がゆっくりと後ろへ倒れていき、頭から順に黒い霧となって消えていった。
「上出来だな……って、締まんねぇな」
クロノがそうロジェへ労いに行くと、ロジェはなれない血昇のアウラの影響で尻もちをついて動けなくなっていた。
「ほとんどクロノのパワーだと思うけど……俺、あんなデカイの倒せたよ」
ロジェは力なく笑う。
「少なくとも右足は俺は関与してねぇ。自信持っていい」
「そっか、ありがと……」
「ミオ~! 助けて~!」
チャドらも討伐が終わったようで、彼は左腕から血を流しながらミオの元へと戻ってきた。
「えっ、チャド、どしたの?」
ミオは慌てて初級魔法で傷の回復をする。
「お、ありがと。亜種っぽいの3体同時に相手したらちょっとやらかした~」
チャドはそう言ってヘラヘラ笑った。
「アウラは使わなかったんだ?」
「うん、いけるかなーって思ってちょっと油断した~」
「あーあ、気をつけないとね」
「えへへ」
ミオの頭にくっついていたポールは、ケヴィンがいたから敢えて発動しなかったんだろうなと考えていた。
討伐組が皆集合して労い合っていると、ダニエルも住民を連れてその輪へ合流する。
デイビスが一歩前へ出てロジェとミオへ向き合うと、深く頭を下げた。
「この前は助けてくれたのに化物って言って逃げたりしてごめんな。今までちゃんと見ようとしてなかった、本当にごめん」
彼がそう言うと、他の住民もみな次々に謝り、頭を下げた。
巨大なゴーレムが現れるというハプニングはあったものの、それが切っ掛けとなり、ようやくロジェへの偏見が消え去ったのであった。
ロジェは涙を流しながら「いいっていいって」と、笑っていた。
いつものようにミオとケヴィンも泣きながら抱き合い、目の前の幸せを噛み締めていた。
そんな時、北からゆっくりと人影が近付いてきていた。
2
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。
udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。
他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。
その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。
教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。
まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。
シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。
★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ)
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる