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第二章 刻の魔法と闇の暗躍
36話 魔力痕を辿って
しおりを挟むルフスレーヴェの皆は早速城の2階のメイドらの部屋を訪れた。
「……ねぇな、痕跡」
部屋中を歩き回りながらクロノが言う。
「魔力痕もないね~」
と、チャド。
「魔力使わないとそりゃね」
と、エルヴィス。
「ミオ、どした、大丈夫か?」
ミオがうずくまっていることに気付いたケヴィンが、隣にしゃがみ声をかける。
「魔力痕、あるよ……」
「……マジ?」
「!!」
ミオの言葉に反応した皆は驚き彼女を注目する。
彼女はうずくまったまま目を閉じ集中していた。
皆は邪魔しないよう息を潜めてその様子を見守る。
やがて彼女は目を開くとこう言った。
「仮面の人じゃなくて、被害者の人の魔力痕。窓の外に続いてる」
「マジ? なんかそう言われてみれば確かにそれらしきものがあるよーな、ないよーな……」
ケヴィンは目を閉じ顔をしかめて自信なさげにそう言った。
「おじさんはお手上げだ、全然分かんない」
「うーん、あるような気はする……」
エルヴィスとチャドもそれぞれ魔力痕を探ろうとする。
「俺は、ダメだ。気配は探れるがどうも魔力痕ってなると“ポール”みてぇな分かりやすいのじゃねぇと……」
クロノが頭を抱えていると、ミオのリュックからポールがひょこっと顔を出した。
『今ポールって呼んでくれた』
「るせぇな今んなことどうでもいいだろ」
『はいはい』
少し顔を赤らめるクロノをポールは軽くあしらった。
ミオを先頭にその被害者の魔力痕を辿ってみるが、途中でフェードアウトするように途切れてしまっていた。
「ここでなくなってる。だんだん薄くなってって、ここで消える感じ。きっと抵抗したりとか、怖かったりとかで魔力が流れ出たんだけど、抵抗する気力がなくなって諦めた、そんな感じがする」
『ミオもあの時、ベッドにたくさん流れ出てたもんね』
「なんかミオが名探偵に見えてきたな……」
と、ケヴィン。
「でも、見失っちゃったけど」
「なら、とりあえずクランボードの地図に今のルートを印しておけ。んで他の場所からも同じように魔力痕を辿ってみるぞ」
クロノがそう言うと、ミオはハッとする。
「その線が集まった先が……!」
「「「アジト!」」」
双子とミオが声を揃えてそう叫んだ。
「なるほどなぁ」とエルヴィスが感心する。
ミオが地図へ今のルートを記すと、一同は“くまみみ商会”へと向かった。
⸺⸺くまみみ商会⸺⸺
「チャドさん、来てくださったんですね!」
マキナの男が一同を見上げ、出迎える。
「やぁ、昨日ぶり~」
チャドはひらひらと手を振り返した。
「俺らは今ブランシャール商会からの緊急クエストで行方不明の痕跡を探ってる。そいつらが直前まで居た場所を見せてもらいたい」
「そうでしたか、ご案内します。こちらへどうぞ」
彼に案内されて、一同は商会の建物の中へと入っていった。
「白い仮面の男に襲われたと聞きました。さぞかし怖い思いをされたことでしょう」
道中マキナの男がミオへ話を振る。
「あ、そうです。怖かったですけど、すぐ助けてもらえたので……」
「やっぱりその仮面の男って、“幻想”なの?」
チャドが尋ねると、マキナの男は小さく頷いた。
「ブランシャール商会の方からの情報を聞く限り、我々の業界で出回っている“幻想”の特徴と一致しとります……さて、こちらが寮で、3、4階が女性の部屋になっとります。緊急事態ですが女性部屋ですので、引き出し等は触らないで頂けると……」
「それは心配ねぇ、部屋を見回すだけだからな」
「かしこまりました、それではよろしくお願いします」
マキナの男は丁寧にお辞儀をすると、元のフロアへと戻っていった。
3、4階の部屋を隈なく周り、ミオが見つけた魔力痕を辿る。
そしてそれぞれを線で記すと、5本の線となって同じ方向へと伸びていた。
「ここは5人で攻めてきたってことだな」
と、クロノ。
「今わかってるだけでも最低でも7人が動いてるね」
チャドは城を攻めてきた人数を入れ、そう推測した。
一般居住地区の被害者の宅も同じように捜索し、地図に記すと、どの線も一つの方向へと繋がっていた。
そこは、西の結界管理棟の方角を示していた。だいたいの目星が付いたところで一同はブランシャール城へと帰還した。
⸺⸺ブランシャール城⸺⸺
一同が帰還するとアルノーは同じく調査に出ており不在だったため、商会のメンバーが連れ戻すまでの間、応接間で待たされることとなった。
⸺⸺
一方で、西結界管理棟の地下では……。
「ディザイア様、おかえりなさい!」
アジトの入り口で、白い仮面の男が同じ風貌の男を迎え入れる。
その男の唯一違うのは仮面の左の目元に赤い星印が付いていることであった。
室内に入ると仮面やハットこそテーブルへ置いてあるものの、皆同じタキシードを着たヒュナム族の集団があった。
彼らが“幻想”であり、ディザイアと呼ばれた星の模様の仮面の男が、リーダーである。
「エディが殺られた」
ディザイアがそう告げると皆一様に動揺し始めた。
「! 戻らないと思ったら……!」
「あいつだってしっかり訓練を受けていたのに……!」
「マキナの女の中に、そんなすご腕のやつが?」
その問いにディザイアは首を横に振った。
「いや、我らが狙っていた女の中にS級クランのメンバーが混ざっていて、そのクランのリーダーに返り討ちにあった。ここも直にバレる。我らが狙っていたマキナの女が“商品”の微かな魔力痕を感じ取れたらしい」
「S級!? ど、どうするんですか港も封鎖されているし……」
「俺らも全員殺されるんだ……」
皆がざわつき始めると、ディザイアは少し大きな声で彼らを注目させる。
「ここは捨て、本拠地へ撤退する」
「で、でも船は出せませんよ……」
「今回は商品を全部捨てていく。我らだけであれば地下水道に備えている小型潜水艇で島から脱出できる」
「それって、依頼失敗ということですか……?」
「そうだ、だが私は、依頼の商品よりもお前たちの方が大事だ。我らは家族同然なのだから……」
ディザイアがそう言うと歓声が上がり、皆口々に彼を称えた。
アジトを出ると島の地下水道があり、何隻もの小型潜水艇が並んでいた。
「お前たちは先に行け、私は後処理をしてから必ず追いかける」
「そんな、ディザイア様……! 必ず帰ってきて下さいね! 本拠地でお待ちしています!」
「あぁ」
潜水艇を一隻残し、“幻想”の皆が島を脱出するのを見送ると、ディザイアは上の階へと戻っていった。
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