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第一章 不思議な魔力と旅の目的
23話 旅立ち
しおりを挟む翌日。ルフスレーヴェとピスキスの一同はクラークから話を聞いていた。
「元ガンズ海賊団の皆は、今までの村を回って復興の手伝いをするそうです。それで、近くのフェリス島も襲われたようで……」
「何~! やっとフェリス酒が飲みにいけると思ったのによ……」
エルヴィスがガーンと項垂れる。
「あ、最初の目的地だった島か」
そう言うミオに対しクロノが「そうだ」と頷く。
「フェリス島は“結界島”なのですが、フェリス島出身の海賊曰く、結界が一部壊されてしまったそうです」
「それじゃぁ町ん中に魔物が湧いちゃうっすね……」
と、アロルド。
「フェリス島が被害にあったのはいつだ?」
クロノが尋ねる。
「3日前です」
「なら、もう島中魔物だらけだろうな」
「ひぃぃ」
ミオの顔が青ざめる。
「ただ、フェリス島はフェリス酒の産地で、地下に大きな食糧庫があるようで、万が一の時のシェルターにもなるため島民はそこに避難しているのでは、とのことなんです」
「シェルターだけ別で結界が貼ってあんのか?」
「天使像が置かれているそうです」
「そうか、それで俺らになんとかしてきて欲しいっつうことだな」
「そうです、もし宜しければ、特別クエストの依頼を出したいのですが……」
「それは引き受けてもいいが、報告しに帰るのが面倒だから、条件がある」
「何でしょうか?」
「ピスキスのフリークラン昇格審査として、ピスキスと合同で受けさせろ。ピスキスが依頼を達成して帰ったら審査合格、それをクエストの報酬とするのが条件だ」
「!! クロノさん……!!」
「それではルフスレーヴェの皆さんが大損では……!」
アロルドとジーナが慌てて止めに入る。
「その条件が飲めないならクエストは受けねぇ」
「……分かりました、その条件で依頼を出させて貰います」
クラークが承諾すると、ピスキスの皆はクロノへ何度もお礼を言った。
「……ルフスレーヴェ……義賊だ……」
「あはは、ミオそれ自分で言っちゃう?」
チャドはそう言ってヘラヘラと笑っていた。
「クエスト内容は、フェリス島の結界修復と島内の魔物の殲滅、島民の安全確保、です。」
「了解」
「了解っす!!」
「ところでお前ら船持ってんのか?」
クロノがアロルドヘ尋ねると、彼は元気よく「持ってないっす!」と答えた。
「資格は?」
「持ってないっす!」
「……お前の親父さんは?」
「全部、持ってます!」
「船は自警団に借りて、運転手は親父さんだな」
「面目ないっす……」
アロルドはシュンとした。
「皆さんは、どんな分担で資格取りましたか?」
と、ランベルト。
「僕、魔導船舶航海士!」
「おじさん、魔導船舶整備士~」
「俺、魔導船舶操縦士! そして、それを全部持ってるのが、船長!」
3人がノリノリで答えると、クロノが全て持っていたことにミオは驚いていた。
「じゃぁ俺らもそういう感じで頑張るか」
「え~! 俺全部取るってこと!?」
ランベルトの提案に、アロルドは落胆した。
⸺⸺
ルーファを出る準備ができると、村民や自警団、元海賊の皆に見送られ一行は出発した。
「皆さん改めまして、アロルドとジーナの父のマウロです。よろしくお願いします」
「村がまだあんな状態なのに、急な申し出を引き受けてくれて感謝してる」
と、クロノ。
「マウロもピスキスの坊やたちも、またしばらくの付き合いになるし、フラットに行こうぜ。おじさん固いの参っちゃうのよ」
エルヴィスがそう言うと、ルフスレーヴェの皆もうんうんと頷いた。
「ありがとうございま……いや、ありがとう!」
「ありがとう、それではよろしく」
ルフスレーヴェ、船長クロノ、双子のケヴィン、チャド、クロノの兄エルヴィス、異世界人でありマキナ族のミオ、クマのぬいぐるみのポール。
ピスキス、リーダーでありクラニオ族のアロルド、妹で同じくクラニオ族のジーナ、ルーファ村長の孫ランベルト、白魔道士のカミッロ。
そして、アロルドとジーナの父親でありながらヒュナム族のマウロを加えて、総勢11名の大所帯となった。
ミオがポールに何故クラニオ族の父親がヒュナム族なのかをこっそり聞いたところ、異種族間ではどちらかの種族が遺伝され、決して混ざったりすることはないのだということだった。
⸺⸺
フェリス島ではサバイバルになることも予想されたため、ハーモニアでは食料などを多めに買った。
“アメノカク産”と書かれた食品売り場には醤油や味噌、豆腐など日本でよく見かける食材が並んでおりミオが上機嫌で買い込んでいたため、ピスキスの料理担当になるであろうマウロもつられて買っていた。
ハーモニア内にあるクラン支部へ寄り、マウロの臨時メンバーとしての登録や、合同クエストの引き受けなどを行い、ついでに達成クエストの精算も行った。
「今回の報酬合わせて50万C超え……」
ミオはクランボードを見て唖然とした。
ハルラフィッシュパイ一食300Cの価値観での50万Cという額は、かなり凄いのではないかと彼女は考えた。
「ご、ごじゅうまん……!?」
ピスキスの皆からは悲鳴に近い声が上がり、ミオの持つクランボードは覗き込む頭で埋め尽くされた。
「うわぁ、緊急クエストだけで50万Cあるのかぁ」
「森の討伐数もヤバイな……俺ら何日分だ?」
「え、でも、Fランクのクエストも2つしてる! S級の人たちはもう手は出さないと思ってた……」
ジーナにそう言われ、ミオは少し恥ずかしくなった。
ピスキスに占領されたクランボードは、次々にページが捲られていく。
「ブライリアント王国で結成されたんだ。あれ、確かカミッロが白魔道士の修行に行ったとこじゃね?」
と、アロルド。
「そう、すごく良い国だったよ。ってか、ここの国王公認のクランだったんだ……それはもう、ホンモノだ……」
「どゆこと?」
ミオの頭にはハテナが飛び交う。
「あ、そもそもA級のクランが最高ランクであるS級に昇格するためには、何処かの最高権力者の推薦が必要なんだよ」
カミッロが興奮気味に説明する。
「ほぅほぅ」
「ブライリアント国王のマルクス陛下は種族間や身分の差別を嫌って、王国でありながら“貴族”という身分がない珍しい国なんだ。もちろんどの種族でも住むことができるし、国の決めごとは国民から選出された議会がする。陛下はよっぽど国の方針が崩壊の方向へ行かない限り口出ししないそうだよ」
「貴族がないっていうのは確かにすごいなぁ。でも、種族によって住んじゃいけない国とかがあるってこと?」
「あるある、ブライリアントの隣のスティバン帝国はヒュナム絶対主義国で、ヒュナム族以外は入れないんだよ」
「え~! 私入れないじゃん」
「そうだよ、私も入れない」
嘆くミオにジーナが共感する。
「それでね、ブライリアント王国は人気があって、そのせいか資源も豊かみたいで、世界クラン連盟に出資してる額も世界一なんだ」
「あ、クラン連盟ってそうやって経営してるのか……」
「そう。だから連盟の中でもマルクス陛下はすごく影響力があるんだ。そんなお方からの推薦だよ!? すごいと思わない!?」
カミッロが凄まじい形相でミオへと迫る。
「た、確かにすごい……!」
ミオがカミッロの勢いに圧倒されていると、クロノが呆れながら割り込んできた。
「お前ら、俺らのこと丸裸にして騒ぎすぎだ。用事は済んだしそろそろ行くぞ」
「はーい……」
まだ話し足りない皆は渋々返事をするとクロノの後に付いていった。
一行が去っていったクラン支部内では、カミッロが大声で話していた話題で持ちきりになっていたとか。
⸺⸺
ハーモニア港から全員レーヴェ号へ乗り、自警団から借りた魔導船“青猫丸”を自動並走モードにして両船を自由に行き来できるようにし、いよいよフェリス島へ向けて出航した。
正式にミオをクランメンバーへ迎え入れ、新生ルフスレーヴェの初めての旅立ちである。
ヴァース暦1684年10月16日、ミオがヴァシアスヘ転移してからわずか3日目のことであった。
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