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終わりの始まり

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王都の屋敷から馬を走らせて3日目
宿をとり、昨日の町では馬も替えた。
すでに領地に入り、マナーハウスはもうすぐだ。

屋敷で1泊して、祖父へ事情を説明したら、
3人で隣国に入る。

かの国での生活の基盤はないが、
冒険者ギルドを通せば、宿も身分も保証はしてもらえるはずだ。
3人とも冒険者としては、申し分ない実績をもっている。

そんな事を考えて馬を走らせていると、
前方からダイアナが馬上で大きく手を振っているのが見えた。

「お父様、お兄様。お疲れ様です」

笑顔のダイアナが迎えてくれる。

「お祖父様から伺いましたよ。
わたしだけでなく、お父様もお兄様も冒険者になるんですって!?
そんな大事を伺ってなかったのでビックリしました」

会うなり、怒られた………

今までの事を簡単に話して聞かせ、
冤罪を証明する証拠が、今日か明日あたりには王宮へ到着する事。

このまま王や王太子に捕まらないように、隣国へ旅立つつもりだ。
と、いう事を話していると。

眼を大きくしながら笑ってくれた。

領内の屋敷に到着すると、
屋敷の中から、執事を始め侍女などが飛び出してきた。

久しぶりに家族全員が揃うのを歓迎してくれているようだ。

玄関をくぐると、
祖父が腕を組んで、待っていた。

「お前たち、ずいぶんと上手くやったな!!
アルフレッドは、喜んでいたし
先に逃げた俺が文句を言う筋合いもないのだが、
王から何か言ってきたときの防波堤ぐらいにはなってやる」

威風堂々とした面持ちで宣言してくれた。

「とりあえず、いつもの部屋は用意してある
明日には発つんだろう??今日ぐらい、ゆっくりしていけ」

なんでも、お見通しの祖父である。


部屋に荷物を置いて一息ついたころ、
侍女から、居間でダイアナがお茶をしたいから待っている。と伝えてくれた。

俺はあわてて居間へ向かう途中、
父と廊下で会った。

ディーの事を告げないといけない。

一つ息を吐き、父と二人で居間に入る


侍女ではなくダイアナがお茶をいれてくれる。

領内では肩がこるマナーはない。
自分が好きな時に好きなお茶を飲む。

家族が揃うとダイアナがお茶を入れてくれることが多く、
茶菓子もお手製の物を振舞ってくれる。

それを懐かしく感じながら、ディーの手紙を渡す。

ソファに座り手紙を読み終わると、小さく息をはいた。

「ディー、幸せになれたのだったら、それが一番だわ。
パーティーから帰ってきた日から、思い悩んでいるのを感じたわ。
きっと好きな人と離れたくなかったのね………」

納得がいっていないようだが、
自分自身に無理に納得させているような様子だった。

「あぁ~、まぁな。
持参金はしっかり渡しておいたぞ!今までの奉公の感謝として」

持参金……
ディーが自分の給料から寄付していた、孤児院にディーの名義で寄付した。

俺の部下で財政に明るい者も金と一緒に派遣させた。
これで一時の援助ではなく、金の運用もさせる事が出来るだろう。
孤児院を出る子供には、読み書き、計算を覚えさせ、
ローリック家が持つ商会にも働きに出れるように手配した。

「ありがとうございます。お兄様。
ディーはきっと喜びましたね」

(そうだと、良いけど………)

ダイアナに心配させないよう、小声で答えた。

そんな兄弟の話を聞いていた父が急に話を変えた。

「そういえば、ダイアナはリリー嬢のことを、
どう思っていたのだ??
ウィリアム王子の事は聞いたが、リリー嬢の事は聞いてなかったな」

父上、無理に話を変えようと、焦りすぎです。
いつもの冷静さは、王都に置いてきてしまいましたか??

「そうですね。リリー様ですか??
魅力的な方ですよね。みんなに愛されて………
なにか魔法でもあるのでしょうか??
まるで、お父様に愛されたお母様みたいでした」

う、うん??
何か核心をついてきたぞ?
でも、父ではなく母??

「は?何を言っているんだダイアナ。
アンナは……そんな魔法持っていなかったぞ!!」

父が飲んでいたお茶を吹き出しそうになりながら、
少し大きな声で答えた。

「えぇ、もちろんです。
でも、お母様が私に言っていたのです。
お父様と一緒になれたのは、奇跡のようだと。
知っていました?お母様はお父様が初恋なんですって。
小さい頃に、王都で迷ってしまって、お父様に助けられたらしいの。
その時から、ずっーと好きで、
学院で上級生のお父様を見つけてから、
自分に気づいてくれるように願掛けをしていたんですって。
でも、目もあわなかったみたいで……
ウィリアム王子のお母様に励ましてもらって、
やっとお父様の卒業するパーティーでダンスを自分から申し込んだ。って」

クスクスと笑いながら話す。

ダンスパーティーで母アンナに一目惚れをした父の話を聞いた事がある。

それから、母を誘うようになり
気が付いた時には婚約していた………

自分が一目惚れしたのに、母がすぐに父に好意を持ってくれたこと。
それが「魅了」の魔法を使ってしまったのではないか、と。
ずっと悩んでいた父。

「一生の思い出にする為に、勇気を出してダンスを一曲だけ踊ってもらったはずが、
それから、お出かけに誘ってくれるようになった。って、
母様から『魔法みたいでしょ。みんなには内緒よ』とよく自慢されていたの」

父に目を向けると、
眼を見開いたまま、空っぽになっているティーカップを口に運び続けている。

「ダイアナ、ごめん。
父様も俺も疲れが溜まっていたようだ、部屋に戻るよ」

頭が整理つかない父に時間を与えて欲しく
俺は父を促し、席を立った。

「ごめんなさい。気が付かなくて。
馬でずっと王都からいらしたのですものね。
ゆっくり休んでくださいませ」

かなり恐縮してしまったダイアナを部屋に残し、父と一緒に退出した。

2人になった廊下で

「トルスタイン、俺は間違っていたのか……
アンナの愛を信じ切れてなかった……

無邪気に『魅了の魔法』を俺に使ってきたリリーに嫉妬を覚えた。
……私があれだけ、悩み苦しんだ魔法を簡単に人に使う子供を羨み
アンナを失った時に道具として使うことを決めた………」

父が母の事で思い悩んでいたのは知っている。

母の願いを聞いた事により、
ダイアナに不自由な思いをさせた事を後悔していることも………

ダイアナを自由にするために、
きっかけを作たのは、父だったが
王子や彼女たちの行動が現状を作ったのが事実だ。

父は、フランキー商会に援助をした。

俺は、ダイアナにかけられた冤罪を誇張した。

それだけなのだ。


リリーと王子は、本当に愛し合っていて
彼女の魅了の魔法を良い方向に使えるようになれば……
きっと幸せになれる。
他の側近たちも、この事で責任を負うこともあるかもしれないが、
自分の拙さを知り、大きな経験を得られたはずである。

俺もそれは同じだ。
一生後悔することになったとしても……

今、この時が全てでなはい。

未来へ続く過程なのだ

「父上、母上は幸せでしたよ。
大好きな父上に愛され、俺やダイアナがいた。
それが事実です。
俺たちは、全てがこれからです。
父上も俺も間違いを犯してきたことは事実です。
ディーを失った事への罪も背負います
周りを巻き込んでしまった事も、ダイアナも、ディーも………

彼女たちの意思を無駄にすることは、
それこそ、失礼です。
俺たちは、もう後戻り出来ません。
明日には冒険者として再出発です。忙しくなりますよ……」

父に伝えるというよりも、
自分を鼓舞するため、ハッキリと言い切った。

義務も責任もなくなった。
手元にあるのは、自分たち家族だけ。

ダイアナは巻き込まれただけだが、
自由を愛する彼女は、ウィリアム王子といるよりも幸せになるだろう。

ただ考えてしまう。

ダイアナをウィリアム王子が大事にしてくれたら、全てが変わっていただろう

俺や父よりも多く魔力を持ち

調薬、癒しに特化したダイアナが妃となり

外交で手腕を発揮し、どんな相手でも有利に商談を進められる魅了の力を持つ父

財政で国庫を豊かにし、土木工事で国の礎を作ることも出来る俺

一流の冒険者であり、傭兵を一級の騎士に育てられる祖父

そんな後ろ盾を持った第二王子

最強の鉾と盾を持ったウィリアムは、王太子の補佐として

どんな強国をつくったのであろうか

ただ、それは夢物語


新しい舞台は用意された

冒険者の物語

断罪されたのは、愛する妹

でも、本当に断罪されたのは誰??

成功者は誰だったのか??

それは未来のお楽しみ





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