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パーティー前夜

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「リリー様を同伴させたいのであれば、
先に教えてくれれば、お兄様にエスコートお願いしたのに」


明日は卒業パーティー。婚約者である第二王子も卒業生だ。

学院が主催のパーティーで、親は参加できない。

参加できるのは、学院関係者、生徒、そのパートナーである。

通常パートナーは婚約者か血縁者、友人。
婚約者以外の親世代をパートナーに選ぶのは、慣習的によろしくない。

あくまで学生を中心にしたパーティーなのである

婚約者である自分をエスコートするはずである王子から、
『明日は準備があるから先に行く、一人でパーティーにくるように』
との手紙が前日の夜に自室で休んでいるところに届いた。

王子の言動から、男爵令嬢をエスコートしたがっていたのは理解していた。

わざわざ『一人で来い。』と書いてある手紙を弄びながら独り言ちた。

第二王子との婚約は、亡くなった母の希望であった。

王子の生母は元伯爵令嬢で側室。

隣国の公爵から嫁いだ正妃が生んだ第一王子が、すでに立太子しており、
王太子に男子が生まれ、
その子が成長するころには、臣下に降りる事が決まっている。

スペア‥‥‥生まれた時からの暗黙の了解である。

ダイアナと婚姻して父である外務大臣が後ろ盾になる事が望まれた

難しい立場である王子、ウィリアム。

公爵など高すぎる身分の娘は、王太子への反逆も疑われる。

しかし伯爵以下の貴族であると降下した後の立場が弱くなりすぎる。

まだ祖父が健在であるのに、爵位を譲られ、
周りの期待以上に実績を積み、
権力への執着もないローリック家が第二王子の婚約者として選ばれたのは必然であった。

ローリック家は娘かわいさから、婚約を辞退したが、
側室である第二王子の母とローリック侯爵夫人が学院時代からの親友
侯爵夫人から親友の窮地を救うことを懇願されて、侯爵も婚約を認めたのである。

王子がどう思おうと、
婚約者にダイアナ以外がなることは難しく、
ダイアナも王子に好意はなく、貴族の義務として婚約していたのである。


リリーが転校してきてから2年

元豪商であるフランキー男爵
魔石大砲の軽量化に成功し、
魔石を使った多くの武器を開発した実績から男爵位が与えられた。
元庶民と言っても、商売が成功し財力はあり
貴族社会との付き合いも、少なからずしていたようなので、
転校後も、学校には馴染むのは早かった。

「馴染んでいたわよね」

彼女の事を思い出しながら、ため息が出る。

ダイアナの1学年上のウィリアム王子と同じクラスに転入してきたリリー。

庶民の学校では優等生だったらしく、下地もあったので、
勉強は問題なく追い付いているようだった。

難しいのがマナーとダンス、外国語。

庶民のマナーと王宮のマナーの差はかなりある。

すでにある下地を根本から変えなければならない

身体に染み込んでしまっているのを変えるのは、
努力と有能なパートナーが必要となる。

その為、学院側からパートナーに選ばれたのが宰相の次男マルクス。

厳しい宰相を父に持ち、厳密なマナーを教えられてきたウィリアムの側近で秀才。

王子の周りには同い年の側近が多い。
王妃の輿入れから出産までを逆算し、有力貴族たちが子孫を作るからである。

息子であれば、ご学友、側近。
娘であれば、妃、側室。

彼よりも2学年上のの第一王子であるアーサーにも優秀な側近たちが多いのは言うまでもない。

最初は、庶民出のリリーを見下し、
イヤイヤながら相手をしていた、マルクス。

いつの間にかリリーを崇拝するようになり
それを皮切りにマルクスの周りにいた、
ウィリアム王子たちも篭絡されていった。






侍女のディーが用意してくれたお茶をゆっくり飲み干し

「なんで、あんなに馴染めるのかしら?
リリー様は学院にいる市井の方や男爵、子爵家の方とは、
あまり仲良くしているようには見えないし‥‥‥
彼女が優秀なのと、魅力的なのはわかるのだけど、
普通は、そちらと仲良くなるわよね?」

ディーに何となく聞いてみる。

私付の侍女はディアナと言い、文字にするとダイアナと一緒になる。

父の仕事で隣国に同行した際に、行き倒れていた孤児を助けた。

同じ名前、年も近いころからそのままローリック家に引き取られ、
ダイアナのボディーガード兼侍女として教育され、
つねに私に寄り添ってくれている。

「ダイアナ様をないがしろにするのは許せません!!
ご主人様かトルスタイン様へ手紙の内容を報告する許可を下さいませ……」

彼女の言っていることは正論だと思う。
でも、明日はトルスタイン兄さまはすでに商談相手との会食が入っているし、
お父様はパーティーには出席できない。
余計な心配をかけるだけなのである。

「いいえ、それは駄目よ。
お父様とお兄様に余計な心配を掛けるだけだわ。
会場に入ってしまえば、お友達も多いし
わざわざ『一人で来い。』という王子の命を破るわけにはいかないから……」

ディーを無理やり納得させる。

この応答が、あとでディーの命を危険にするなぞ、
ダイアナは知るよしもなかった。



ウィリアム王子が婚約者であるダイアナ以外に手を出すのは初めてではない。

王族はもちろん貴族には側室が認められていて、
学院に通う低位の貴族や商人の娘は、最初からそれを狙っている子も多い。

上級貴族の娘たちは、それに目くじらを立てるものは恥だとも教育され、
ダイアナも今までも、苦言は伝えたことはあるが、
表立って騒いだことがはない。

だが、今回はなぜか、

『王子の恋人に、婚約者のダイアナが嫉妬して虐めている』

と、みんな………
正確にはウィリアム王子の取り巻きや周りの者が信じ込み、騒ぎ立てているのである。

不思議には思うが、
きっと、何か自分にもダメな行動があったのだろうと思うことにしている。

教えてくれれば、自分自身で注意できるのだが、
彼らの言い分は抽象的で、全く覚えのない事への苦言なのだ。

パーティーの事を考えると頭が痛くなるのを抑えながら、
明日に備えて、ベッドにもぐりこむことにした。
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