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本当に大切なものは
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は、何やら訳アリのような雰囲気の親子。母親は優しそうな雰囲気ですが表情は険しく、娘は中学生でしょうか、制服も着崩したりはしていませんがどこか反抗的な雰囲気で、二人ともお互いの方を見ようとしません。
「いらっしゃいませ。えっと...カウンター席にされますか?テーブル席にされますか?」
「テーブル席でお願いします。それから、気分を落ち着ける紅茶を二つお願いします。」
「ちょっと、勝手に決めないでよ。」
「とりあえずよ。後で好きなもの注文したらいいでしょ。」
「えっと...少々お待ちください。」
親子のただならぬ雰囲気に、いつだってお客様と親しく会話をするいちごも、少したじろぎながら接客します。テーブル席に向かい合った親子はお互い下を向いたままです。
「薔薇紳士さぁん...さすがに空気が重いですー...。」
「お疲れ様です、いちご君。こちらの紅茶は私がお出ししてきますね。」
「薔薇紳士さん、ありがとうございます。」
紅茶を優雅な手つきで淹れた薔薇紳士は、淹れたての紅茶を親子の元に運びました。
「こちら淹れたての紅茶です。気分も落ち着かれるかと。」
「あ、ありがとうございます。」
「…ありがとうございます。」
「いいえ。それから、もし差し支えなければお客様、その胸につかえているもの私に話しては頂けませんか?きっと楽になれます。」
薔薇紳士は優しく、決して強要するようではない口ぶりで言います。その雰囲気は何とも穏やかで、紅茶の香りもあってか、親子は少し気を許したようでした。
「…今日三者懇談だったの。で、私の進路にお母さんが口出しするから…。」
「だって、仲の良い友達がいるからって偏差値が随分低い高校目指そうとするんですもの…。そりゃあ娘の意思は大事にしてあげたいですけど、そんな理由じゃあ…。」
「そんな理由なんかじゃない!女の子は仲の良い友達が全てなの!私だって、学力見合った行ってみたい高校あったけど、そこに行く知り合いは一人もいない!友達がいなければいじめとか仲間はずれとかなるかもしれないじゃん、私そんなの絶対いや!」
「だからって…!」
親子はついに声を上げて言い合いになります。薔薇紳士はそんな2人の様子に、決して止めることなく黙って聞いています。が、いちごはその様子に黙っていられませんでした。
「喧嘩はやめてください!娘さん!お母さんはあなたの事を心配しているってことは分かりますか!?お母さん、娘さんがどれだけ不安か分かりますか!?とりあえずお互い落ち着いて、相手の気持ちを考えてみてください!」
いちごは2人の間に割って入り、必死で喧嘩を止めようとします。そんないちごの必死な様子に、親子は少し冷静になったようでした。
「…あの、なんか親子のことに口出ししちゃってすみませんでした…。自分はこの店のバイトの野咲いちごです。」
「いえ、すみません、私の方こそ…私は熊谷と言います。」
「ごめんなさい…。私は熊谷里美です。」
「熊谷さん…あの、自分もまだ高校生ですけど、やっぱり友達って結構大事だと思います。仲の良い子がいないとそれだけで学校に来るのも楽しくなくなっちゃうし、一人ぼっちだとそれこそ仲間はずれに感じちゃうかもしれない。でも里美ちゃん、今は確かに不安かもしれないけど、初めて同士、一緒に時間過ごせばもっと仲良くなれる子だっているかもしれないよ。それにね、偏差値は落とすべきじゃないと思う。今は良くても、大人になって就職する時とか、困る時が来ると思う。…なんか部外者がごめんなさい。でも、自分は、そう思うんです。」
いちごの言葉を2人は黙って聞いていました。薔薇紳士も。そして2人がお互いの顔を見るようになってから、薔薇紳士はゆっくり口を開きました。
「熊谷様、里美様、本当に大切なものは目を閉じると目に見えません。だから、今自分が1番大切にしたいことを考えてください。あなた方は、もう見えているのではないですか?意地やプライドは、1番大事なもののためには一旦床に置くことも大事だと思いますよ。」
薔薇紳士はそれだけ言うと、カウンターに戻っていきました。親子は暫く黙っていましたが、やがて里美が口を開きました。
「…私、アールグレイってやつ飲んでみたい。」
「!あ、いちご、さん?アールグレイ1つ…いえ、2つ貰っていいですか?」
「はい!すぐお待ちしますね。」
この後、親子はゆっくりと落ち着いて自分の気持ちを伝え合い、無事志望校も決まりました。
目を閉じると大切なことも見えなくなる。だったら、自分の中で揺るがない、1番大切なものだけを考えてみて下さい。意地やプライドは一旦置いて、1番大事にしたいものだけを考えれば、また違った答えが出るかもしれません。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ~。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。本日のお客様は、何やら訳アリのような雰囲気の親子。母親は優しそうな雰囲気ですが表情は険しく、娘は中学生でしょうか、制服も着崩したりはしていませんがどこか反抗的な雰囲気で、二人ともお互いの方を見ようとしません。
「いらっしゃいませ。えっと...カウンター席にされますか?テーブル席にされますか?」
「テーブル席でお願いします。それから、気分を落ち着ける紅茶を二つお願いします。」
「ちょっと、勝手に決めないでよ。」
「とりあえずよ。後で好きなもの注文したらいいでしょ。」
「えっと...少々お待ちください。」
親子のただならぬ雰囲気に、いつだってお客様と親しく会話をするいちごも、少したじろぎながら接客します。テーブル席に向かい合った親子はお互い下を向いたままです。
「薔薇紳士さぁん...さすがに空気が重いですー...。」
「お疲れ様です、いちご君。こちらの紅茶は私がお出ししてきますね。」
「薔薇紳士さん、ありがとうございます。」
紅茶を優雅な手つきで淹れた薔薇紳士は、淹れたての紅茶を親子の元に運びました。
「こちら淹れたての紅茶です。気分も落ち着かれるかと。」
「あ、ありがとうございます。」
「…ありがとうございます。」
「いいえ。それから、もし差し支えなければお客様、その胸につかえているもの私に話しては頂けませんか?きっと楽になれます。」
薔薇紳士は優しく、決して強要するようではない口ぶりで言います。その雰囲気は何とも穏やかで、紅茶の香りもあってか、親子は少し気を許したようでした。
「…今日三者懇談だったの。で、私の進路にお母さんが口出しするから…。」
「だって、仲の良い友達がいるからって偏差値が随分低い高校目指そうとするんですもの…。そりゃあ娘の意思は大事にしてあげたいですけど、そんな理由じゃあ…。」
「そんな理由なんかじゃない!女の子は仲の良い友達が全てなの!私だって、学力見合った行ってみたい高校あったけど、そこに行く知り合いは一人もいない!友達がいなければいじめとか仲間はずれとかなるかもしれないじゃん、私そんなの絶対いや!」
「だからって…!」
親子はついに声を上げて言い合いになります。薔薇紳士はそんな2人の様子に、決して止めることなく黙って聞いています。が、いちごはその様子に黙っていられませんでした。
「喧嘩はやめてください!娘さん!お母さんはあなたの事を心配しているってことは分かりますか!?お母さん、娘さんがどれだけ不安か分かりますか!?とりあえずお互い落ち着いて、相手の気持ちを考えてみてください!」
いちごは2人の間に割って入り、必死で喧嘩を止めようとします。そんないちごの必死な様子に、親子は少し冷静になったようでした。
「…あの、なんか親子のことに口出ししちゃってすみませんでした…。自分はこの店のバイトの野咲いちごです。」
「いえ、すみません、私の方こそ…私は熊谷と言います。」
「ごめんなさい…。私は熊谷里美です。」
「熊谷さん…あの、自分もまだ高校生ですけど、やっぱり友達って結構大事だと思います。仲の良い子がいないとそれだけで学校に来るのも楽しくなくなっちゃうし、一人ぼっちだとそれこそ仲間はずれに感じちゃうかもしれない。でも里美ちゃん、今は確かに不安かもしれないけど、初めて同士、一緒に時間過ごせばもっと仲良くなれる子だっているかもしれないよ。それにね、偏差値は落とすべきじゃないと思う。今は良くても、大人になって就職する時とか、困る時が来ると思う。…なんか部外者がごめんなさい。でも、自分は、そう思うんです。」
いちごの言葉を2人は黙って聞いていました。薔薇紳士も。そして2人がお互いの顔を見るようになってから、薔薇紳士はゆっくり口を開きました。
「熊谷様、里美様、本当に大切なものは目を閉じると目に見えません。だから、今自分が1番大切にしたいことを考えてください。あなた方は、もう見えているのではないですか?意地やプライドは、1番大事なもののためには一旦床に置くことも大事だと思いますよ。」
薔薇紳士はそれだけ言うと、カウンターに戻っていきました。親子は暫く黙っていましたが、やがて里美が口を開きました。
「…私、アールグレイってやつ飲んでみたい。」
「!あ、いちご、さん?アールグレイ1つ…いえ、2つ貰っていいですか?」
「はい!すぐお待ちしますね。」
この後、親子はゆっくりと落ち着いて自分の気持ちを伝え合い、無事志望校も決まりました。
目を閉じると大切なことも見えなくなる。だったら、自分の中で揺るがない、1番大切なものだけを考えてみて下さい。意地やプライドは一旦置いて、1番大事にしたいものだけを考えれば、また違った答えが出るかもしれません。
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