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序章は単なる
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいま...ええ...。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。今日も悩みを抱えるお客様が来店されました。
「うう...こんな僕にでも『いらっしゃいませ』と言ってくれる世界、眩しすぎる...。」
本日のお客様は、ひげも髪も伸ばしっぱなし、服もよれよれで表情も暗く、顔色も悪い、ふらふらな男性でした。年齢はまだ若いようで、身なりを整えれば清潔な青年に見えそうです。
「ええっと、とりあえずこちらの席へどうぞ。」
お客様の癖の強い言動に戸惑いながらも、いちごが席へ案内します。
「あぁ~ありがとう、優しい、人間が優しくて泣く...。」
「ここで泣かないでくださいね?」
お客様の言動に、高すぎる適応力で適応したいちごは冷静に対応します。
「えーっと、それで、お客様はなんでそんなに人間の優しさに飢えているんですか?」
「別に優しさに飢えてるわけじゃないけど、よく聞いてくれたね、店員さん。僕は実は作家なんだ。駆け出しだけど本は出してる。聞いたことない?夏目莇って名前。」
「自分本あんまり読まないので...というか莇ってかわいい名前ですね。」
「女性っぽい名前だけど、僕は気に入ってるよ、親がつけてくれた大事な名前だからね。あとなんか珍しい名前って格好いいから!」
莇は表情、というよりも情緒をコロコロ変えながらいちごと話します。
「それで、えーっと、編集の人からの締め切り地獄のせいで参ってる、とかですか?」
「君は適応力だけじゃなくて理解力まで優れてるんだね!そう、そうなんだよ!担当編集からの進捗確認や締め切りの圧力がしんどくて...でも、問題はそれだけじゃないんだ...。」
「書きたいと思うお話そのものが考えられないのではないですか?」
薔薇紳士が莇の前に紅茶をコトリと置きながら話に入ります。
「そう...そうなんですよ!もう僕の頭の中の夢物語は終焉を迎えた!新しい世界を一から作ることは砂漠の中でオアシスを探すがごとくロマンはあるが、同時に見つかるか分からない恐怖も伴う!」
「作家ってそういう物語を作る職業なんじゃないんですか?それが無理ならどうして作家になったんですかぁ。」
「ふはは、僕は元々小説投稿サイトで自由気ままに書きたい話だけを書いていたのだよ。ただ、たまたま才能があったらしく小説ランキングは常に上位!いいね評価をくれるファンは三桁を超えた!だから編集者の方が目をつけてくれてね。大学卒業控えてて、特に就職してやりたいこともなかったから作家の道に入ったがいいものの、駆け出しとはいえ、出版されたのはたった一冊。そしてそれから書きたい話が思いつかなくなったのだよ...。あぁ!僕の物語の序章はすでに破滅へと向かっている!」
悲しんだかと思えば高笑いをし、莇は自分の悩みを打ち明けます。それを黙って聞いていた薔薇紳士は高ぶっている莇の手を優しく取り、まっすぐに見つめて言います。
「夏目様、今のあなたの物語の序章は破滅に向かっているのかもしれません。ですが、序章というのは単なるプロローグに過ぎない。エピローグまで、まだ物語は続くのですよ。」
薔薇紳士の言葉を聞いた莇はハッとした顔をするとスクッと立ち上がりました。
「店主さん...僕書きたいことを思いついたので帰ります。それと、すみません、ボーっと家を出たので紅茶の代金持ってないです。」
「え!?お金ないのに喫茶店に入ったんですか!?」
いちごが驚きのあまり大きな声を上げます。ですが薔薇紳士はどこか笑いながら莇の言葉を聞いています。
「これから書く話、絶対本にします。そして本が出版されたら、紅茶代と一緒にここに持ってきます。だから...」
「はい、お待ちしております。」
莇の言葉を優しく遮り、薔薇紳士は返事をします。そしてその返事を聞いた莇は笑顔で走り去っていきました。
物語の序盤が悲劇でも、終盤にはハッピーエンドになることもあります。物語とは終始何があるか分からないのです。最初の辛い展開だけを見て、悲劇と決めつけてしまうのは少しもったいないと思いませんか。どこでハッピーエンドに繋がるかなんて、作者にだって分からないのですから。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいま...ええ...。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。今日も悩みを抱えるお客様が来店されました。
「うう...こんな僕にでも『いらっしゃいませ』と言ってくれる世界、眩しすぎる...。」
本日のお客様は、ひげも髪も伸ばしっぱなし、服もよれよれで表情も暗く、顔色も悪い、ふらふらな男性でした。年齢はまだ若いようで、身なりを整えれば清潔な青年に見えそうです。
「ええっと、とりあえずこちらの席へどうぞ。」
お客様の癖の強い言動に戸惑いながらも、いちごが席へ案内します。
「あぁ~ありがとう、優しい、人間が優しくて泣く...。」
「ここで泣かないでくださいね?」
お客様の言動に、高すぎる適応力で適応したいちごは冷静に対応します。
「えーっと、それで、お客様はなんでそんなに人間の優しさに飢えているんですか?」
「別に優しさに飢えてるわけじゃないけど、よく聞いてくれたね、店員さん。僕は実は作家なんだ。駆け出しだけど本は出してる。聞いたことない?夏目莇って名前。」
「自分本あんまり読まないので...というか莇ってかわいい名前ですね。」
「女性っぽい名前だけど、僕は気に入ってるよ、親がつけてくれた大事な名前だからね。あとなんか珍しい名前って格好いいから!」
莇は表情、というよりも情緒をコロコロ変えながらいちごと話します。
「それで、えーっと、編集の人からの締め切り地獄のせいで参ってる、とかですか?」
「君は適応力だけじゃなくて理解力まで優れてるんだね!そう、そうなんだよ!担当編集からの進捗確認や締め切りの圧力がしんどくて...でも、問題はそれだけじゃないんだ...。」
「書きたいと思うお話そのものが考えられないのではないですか?」
薔薇紳士が莇の前に紅茶をコトリと置きながら話に入ります。
「そう...そうなんですよ!もう僕の頭の中の夢物語は終焉を迎えた!新しい世界を一から作ることは砂漠の中でオアシスを探すがごとくロマンはあるが、同時に見つかるか分からない恐怖も伴う!」
「作家ってそういう物語を作る職業なんじゃないんですか?それが無理ならどうして作家になったんですかぁ。」
「ふはは、僕は元々小説投稿サイトで自由気ままに書きたい話だけを書いていたのだよ。ただ、たまたま才能があったらしく小説ランキングは常に上位!いいね評価をくれるファンは三桁を超えた!だから編集者の方が目をつけてくれてね。大学卒業控えてて、特に就職してやりたいこともなかったから作家の道に入ったがいいものの、駆け出しとはいえ、出版されたのはたった一冊。そしてそれから書きたい話が思いつかなくなったのだよ...。あぁ!僕の物語の序章はすでに破滅へと向かっている!」
悲しんだかと思えば高笑いをし、莇は自分の悩みを打ち明けます。それを黙って聞いていた薔薇紳士は高ぶっている莇の手を優しく取り、まっすぐに見つめて言います。
「夏目様、今のあなたの物語の序章は破滅に向かっているのかもしれません。ですが、序章というのは単なるプロローグに過ぎない。エピローグまで、まだ物語は続くのですよ。」
薔薇紳士の言葉を聞いた莇はハッとした顔をするとスクッと立ち上がりました。
「店主さん...僕書きたいことを思いついたので帰ります。それと、すみません、ボーっと家を出たので紅茶の代金持ってないです。」
「え!?お金ないのに喫茶店に入ったんですか!?」
いちごが驚きのあまり大きな声を上げます。ですが薔薇紳士はどこか笑いながら莇の言葉を聞いています。
「これから書く話、絶対本にします。そして本が出版されたら、紅茶代と一緒にここに持ってきます。だから...」
「はい、お待ちしております。」
莇の言葉を優しく遮り、薔薇紳士は返事をします。そしてその返事を聞いた莇は笑顔で走り去っていきました。
物語の序盤が悲劇でも、終盤にはハッピーエンドになることもあります。物語とは終始何があるか分からないのです。最初の辛い展開だけを見て、悲劇と決めつけてしまうのは少しもったいないと思いませんか。どこでハッピーエンドに繋がるかなんて、作者にだって分からないのですから。
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