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思い出してしまうのは
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カランカラン
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませー、こちらのお席へどうぞです。」
「あ、ありがとうございまーす。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。扉を開けた青年に、喫茶店の店主薔薇紳士と、アルバイトの野咲いちごが挨拶します。
「ふー、すごいいい雰囲気のお店ですね。」
席に座り一息つく青年は大学生でしょうか、少し大きめのリュックを持ち、身なりを綺麗に整えています。すらっと背も高く顔立ちも整っており、物腰も穏やかでいかにも人気者、といった雰囲気です。
「お兄さん格好いいですねー、陽キャって感じがする。名前はー?」
「え?はは、何ナンパ?俺、鍵山拓斗。」
いちごは屈託のない笑顔で話しかけます。ちなみにいちごにナンパのつもりは一切ありません。
「拓斗さんイケメンだしモテそうー。それで拓斗さんは...どんな悩みがあるんですか?」
「え。」
拓斗は自分が悩みを持つことを、いちごが見抜いたことに少なからず驚いているようでした。
「なんで俺が悩みがあるって分かるの。」
「え、あぁー、雰囲気、ですかね。えへへ。」
「いちご君、風で外の看板が倒れてしまったみたいなので戻してきてもらえませんか。」
「あ、はい!すぐに!」
いちごが悩みをあることに気づけたのは、この喫茶店に来店されるお客様は必ず悩みを抱えているから、というだけですが言葉を濁します。そしてそれに気づいた薔薇紳士はさりげなくいちごを別の場に移動させました。
「それで...鍵山様、お悩みがあるそうですが、私でよろしければお話聞きますよ。」
薔薇紳士は優しく拓斗に話しかけます。拓斗は元々誰かに相談したかったのでしょう、薔薇紳士の言葉に嬉しそうに微笑みます。
「あー、悩みってほどじゃないんですけどね。俺実は結構な田舎出身で。交通機関も不便だし、見渡す限り自然ばっかで、嫌になってほぼ無理やり家を出たんですよね。家を出たんですけど...なんか最近すごい思い出しちゃうんですよ、実家のこと。嫌になって飛び出たはずなのにこんなに思い出すなんてなぁ、と思って。それだけなんですけどね。」
拓斗はほんの少しだけ寂しそうに話します。拓斗の話を静かに聞いていた薔薇紳士は拓斗の前にコトリと紅茶を置きます。
「鍵山様、僭越ながら一言だけ、よろしいですか?」
「え、どうぞ。」
「鍵山様が実家のことを思い出してしまうのは、きっとあなたが忘れていないから、なんですよ。」
薔薇紳士がそう言うと拓斗は軽く目を開き、薔薇紳士を見つめました。
「拓斗さん、私も田舎出身で一人暮らしなんですけど...ふとした時に昔遊んだ森とか思い出すんです。思い出す度に懐かしいなってだけじゃなくて『あぁ私田舎のこと、忘れたくないんだ、実家が好きなんだな』って思うんです。拓斗さんも私と一緒じゃないんですか?」
外から帰ってきたいちごが拓斗に優しく話しかけます。拓斗はいちごをちらりと見るとふっと笑い、いちごの頭にポンと手を乗せました。
「そうかもしれないなぁ...店主さん、ちょっと電話してもいいですか?」
「どなたに、でしょうか。」
薔薇紳士は拓斗が誰に電話を掛けようとしているか、当然わかっていましたがあえて口に出して聞きます。拓斗は薔薇紳士の問いかけに笑って、
「実家ですよ。」
と答えました。
拓斗が一旦店の外に出て電話している間、いちごは扉の窓から見える拓斗の後ろ姿を見ています。
「拓斗さん...絶対天然タラシだよ。」
拓斗に撫でられた頭を押さえながらぶつぶつ言ういちごに薔薇紳士は笑いかけます。
「無意識なんでしょうね。そしてそれは鍵山様が幼少期から周りの人たちに受けた振る舞いなんでしょう。」
親の心子知らず。ですが本人も気づいていないうちに、受けた愛情は本人の心に宿っているものです。
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませー、こちらのお席へどうぞです。」
「あ、ありがとうございまーす。」
ここは悩みを抱えるお客様が来店される喫茶店。扉を開けた青年に、喫茶店の店主薔薇紳士と、アルバイトの野咲いちごが挨拶します。
「ふー、すごいいい雰囲気のお店ですね。」
席に座り一息つく青年は大学生でしょうか、少し大きめのリュックを持ち、身なりを綺麗に整えています。すらっと背も高く顔立ちも整っており、物腰も穏やかでいかにも人気者、といった雰囲気です。
「お兄さん格好いいですねー、陽キャって感じがする。名前はー?」
「え?はは、何ナンパ?俺、鍵山拓斗。」
いちごは屈託のない笑顔で話しかけます。ちなみにいちごにナンパのつもりは一切ありません。
「拓斗さんイケメンだしモテそうー。それで拓斗さんは...どんな悩みがあるんですか?」
「え。」
拓斗は自分が悩みを持つことを、いちごが見抜いたことに少なからず驚いているようでした。
「なんで俺が悩みがあるって分かるの。」
「え、あぁー、雰囲気、ですかね。えへへ。」
「いちご君、風で外の看板が倒れてしまったみたいなので戻してきてもらえませんか。」
「あ、はい!すぐに!」
いちごが悩みをあることに気づけたのは、この喫茶店に来店されるお客様は必ず悩みを抱えているから、というだけですが言葉を濁します。そしてそれに気づいた薔薇紳士はさりげなくいちごを別の場に移動させました。
「それで...鍵山様、お悩みがあるそうですが、私でよろしければお話聞きますよ。」
薔薇紳士は優しく拓斗に話しかけます。拓斗は元々誰かに相談したかったのでしょう、薔薇紳士の言葉に嬉しそうに微笑みます。
「あー、悩みってほどじゃないんですけどね。俺実は結構な田舎出身で。交通機関も不便だし、見渡す限り自然ばっかで、嫌になってほぼ無理やり家を出たんですよね。家を出たんですけど...なんか最近すごい思い出しちゃうんですよ、実家のこと。嫌になって飛び出たはずなのにこんなに思い出すなんてなぁ、と思って。それだけなんですけどね。」
拓斗はほんの少しだけ寂しそうに話します。拓斗の話を静かに聞いていた薔薇紳士は拓斗の前にコトリと紅茶を置きます。
「鍵山様、僭越ながら一言だけ、よろしいですか?」
「え、どうぞ。」
「鍵山様が実家のことを思い出してしまうのは、きっとあなたが忘れていないから、なんですよ。」
薔薇紳士がそう言うと拓斗は軽く目を開き、薔薇紳士を見つめました。
「拓斗さん、私も田舎出身で一人暮らしなんですけど...ふとした時に昔遊んだ森とか思い出すんです。思い出す度に懐かしいなってだけじゃなくて『あぁ私田舎のこと、忘れたくないんだ、実家が好きなんだな』って思うんです。拓斗さんも私と一緒じゃないんですか?」
外から帰ってきたいちごが拓斗に優しく話しかけます。拓斗はいちごをちらりと見るとふっと笑い、いちごの頭にポンと手を乗せました。
「そうかもしれないなぁ...店主さん、ちょっと電話してもいいですか?」
「どなたに、でしょうか。」
薔薇紳士は拓斗が誰に電話を掛けようとしているか、当然わかっていましたがあえて口に出して聞きます。拓斗は薔薇紳士の問いかけに笑って、
「実家ですよ。」
と答えました。
拓斗が一旦店の外に出て電話している間、いちごは扉の窓から見える拓斗の後ろ姿を見ています。
「拓斗さん...絶対天然タラシだよ。」
拓斗に撫でられた頭を押さえながらぶつぶつ言ういちごに薔薇紳士は笑いかけます。
「無意識なんでしょうね。そしてそれは鍵山様が幼少期から周りの人たちに受けた振る舞いなんでしょう。」
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