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季節話
龍神様と男色
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夏の暑さも和らぎ、過ごしやすい気候になってきたこの頃。龍平は久々に村に帰省しておりました。
「龍平、久々だな。」
「村のみんなも元気そうで何よりだ。」
久々に顔を合わせる村人たちは皆元気そうで龍平は安心しました。龍神様との暮らしを面白おかしく話したり、村での些細な日常について話をしていると時間も過ぎるのもあっという間というもの。すぐに日が暮れかけていました。
「おー、もうこんなに日が落ちてきてる。そろそろ帰るかな。」
「泊まっていけばいいのに。」
「いや、龍神様がまた何か面倒くさいことになりそうだからいいや。」
「お前、本当に龍神様に愛されてるな。」
「いやまあ否定はしないが...ん?あいつ誰だ?」
龍平がふと山の方に目を向けるとそこには儚げな雰囲気をまとい、線の細いものの顔立ちがいやに整った青年が立っていました。この村は小さな集落なので村に住む人はほぼみんな顔なじみですが、龍平はその青年には見覚えがありませんでした。村人たちも知らないと首を横に振ります。とはいえ、すぐ近くにいくつも村はあるので違う集落の人間だろうと龍平は青年に近づきました。
「あのー君は?」
「えっ、あ、すみませんジロジロと見てしまって。」
「いや、それはいいんだけど、見覚えのない顔だったから誰かなと。」
「俺は近くの村に住む真巴と言います。実はこの村に龍神に好かれる色男がいると聞いて見に来たのです。」
「え、あ、そうなんだ...。」
「鍛え上げられた肉体でとても男らしいと聞いていたので、貴方のことですよね。」
「あ、まあ、はい...。」
真巳は龍平の方へゆっくりと顔を近づけながら問いかけます。その表情は男と言えど妖艶で、その瞳を見つめ続けていれば欲望に溺れそうになるほどの色気です。龍平は思わず顔を背けます。しかし、真巳はそんな龍平をからかうかのように、また同時に純粋な恋心を明かすかのように龍平を見つめます。
「その、実は俺貴方に一目ぼれしてしまって...!俺と恋仲になってくれませんか!?」
「えっ!?いや、それはちょっと...!」
龍平は思わぬ出来事に身をのけぞります。咄嗟に出たのは断りの言葉でしたが、それは龍平が真巳に対する思いと言うよりは、まず龍神様の顔が浮かんでの言葉でした。正直この状況を龍神様が見たらどうなるのか悪い予感しかしない龍平です。
「やっぱり、俺じゃダメですか...?男だから...?」
「い、いや君がダメという訳ではなく...。」
「やはり龍神様からの寵愛があるから他の者に目移りは出来ない、と...?でもそれならば貴方の気持ちではないですよね!?それともあなたも龍神様を愛しているのですか!?」
「え、いやその...。」
正直なところ龍神様の反応が怖いというのが一番の想いではありますが、それはそうとしてこの状況を収めるよい案が浮かびません。龍平はこのようにまっすぐに龍神様以外の人間から好意を伝えられたことが無いという点においても龍平はただ慌てることしかできませんでした。
「その...真巳とやら。龍平をそれ以上困らせないでくれないか?出会って間もない人間に好意を伝えられても受け入れられないだろう。」
助け舟を出してくれたのは村の人間でした。この機を逃すまいと龍平は首がもげるほど頷いて同意を示します。
「そう...ですよね。突然すみませんでした。あの、最後に1つだけお願いを聞いてもらえませんか?」
「お?なんだ?俺に出来ることなら。」
この場を収めてくれそうな雰囲気に、龍平は前のめりで聞きます。
「一度だけ抱きしめてもらえませんか?」
「えっ!...とー。」
龍平は助けを求める様に隣を見ますが、村の人間はそれくらいしてやれと言う目で龍平を見るだけです。抱擁くらいなら村の人間みんなと親愛の意味を込めて挨拶代わりにしているのでそこまで難しい要求ではありません。村のみんなと同じように、他意はなくただ抱きしめればいいのです。龍平は覚悟を決めるとゆっくり真巳に両手を伸ばしました。そしてその手が背中に回ったところで後ろから強い力で抱きしめられました。
「りゅ、龍神様...!これは...!」
そう、後ろから龍平を抱きしめていたのは龍神様その人でした。龍平は顔を強張らせて浮気がバレてしまった時のように言い訳に走りますが、うまい言葉が出てきません。ただ金魚の様に口をパクパクと動かすだけです。
「龍平...浮気か?」
「ち、違います...よ...?」
「貴様に男色の趣味があったとは...。」
「いやそれを言うなら龍神様も性別は男性では?いや、龍神様ともそう言う関係であるとは思っていませんが。」
「饒舌だなぁ...?」
「すみません!でも本当に違うんです!これは真巳が...!ってあれ?」
龍神様の登場に気を取られている間に、目の前にいたはずの真巳の姿が消えていました。龍平は驚いて辺りを見回しましたが、やはり付近に誰もいません。
「龍平...真巳と言うのは先ほどまでここにいた青年だな?あれは蛇神だ。お主からかわれていたのだぁ。」
「え、はぁぁ!?」
「まあとはいえ、私以外の男に目移りするとは、お仕置きをせねばなぁ。すぐに屋敷に戻るぞ、龍平。」
「いやお仕置きは意味が分かりませんが...ってうわぁ!」
龍神様は龍平を抱きかかえるとそのまま空を飛んで行ってしまいました。その後龍平がどうなったのかは想像の限りでございますが、残された村人は「やっぱり愛されてるな」と口をそろえて言ったそうな。
「龍平、久々だな。」
「村のみんなも元気そうで何よりだ。」
久々に顔を合わせる村人たちは皆元気そうで龍平は安心しました。龍神様との暮らしを面白おかしく話したり、村での些細な日常について話をしていると時間も過ぎるのもあっという間というもの。すぐに日が暮れかけていました。
「おー、もうこんなに日が落ちてきてる。そろそろ帰るかな。」
「泊まっていけばいいのに。」
「いや、龍神様がまた何か面倒くさいことになりそうだからいいや。」
「お前、本当に龍神様に愛されてるな。」
「いやまあ否定はしないが...ん?あいつ誰だ?」
龍平がふと山の方に目を向けるとそこには儚げな雰囲気をまとい、線の細いものの顔立ちがいやに整った青年が立っていました。この村は小さな集落なので村に住む人はほぼみんな顔なじみですが、龍平はその青年には見覚えがありませんでした。村人たちも知らないと首を横に振ります。とはいえ、すぐ近くにいくつも村はあるので違う集落の人間だろうと龍平は青年に近づきました。
「あのー君は?」
「えっ、あ、すみませんジロジロと見てしまって。」
「いや、それはいいんだけど、見覚えのない顔だったから誰かなと。」
「俺は近くの村に住む真巴と言います。実はこの村に龍神に好かれる色男がいると聞いて見に来たのです。」
「え、あ、そうなんだ...。」
「鍛え上げられた肉体でとても男らしいと聞いていたので、貴方のことですよね。」
「あ、まあ、はい...。」
真巳は龍平の方へゆっくりと顔を近づけながら問いかけます。その表情は男と言えど妖艶で、その瞳を見つめ続けていれば欲望に溺れそうになるほどの色気です。龍平は思わず顔を背けます。しかし、真巳はそんな龍平をからかうかのように、また同時に純粋な恋心を明かすかのように龍平を見つめます。
「その、実は俺貴方に一目ぼれしてしまって...!俺と恋仲になってくれませんか!?」
「えっ!?いや、それはちょっと...!」
龍平は思わぬ出来事に身をのけぞります。咄嗟に出たのは断りの言葉でしたが、それは龍平が真巳に対する思いと言うよりは、まず龍神様の顔が浮かんでの言葉でした。正直この状況を龍神様が見たらどうなるのか悪い予感しかしない龍平です。
「やっぱり、俺じゃダメですか...?男だから...?」
「い、いや君がダメという訳ではなく...。」
「やはり龍神様からの寵愛があるから他の者に目移りは出来ない、と...?でもそれならば貴方の気持ちではないですよね!?それともあなたも龍神様を愛しているのですか!?」
「え、いやその...。」
正直なところ龍神様の反応が怖いというのが一番の想いではありますが、それはそうとしてこの状況を収めるよい案が浮かびません。龍平はこのようにまっすぐに龍神様以外の人間から好意を伝えられたことが無いという点においても龍平はただ慌てることしかできませんでした。
「その...真巳とやら。龍平をそれ以上困らせないでくれないか?出会って間もない人間に好意を伝えられても受け入れられないだろう。」
助け舟を出してくれたのは村の人間でした。この機を逃すまいと龍平は首がもげるほど頷いて同意を示します。
「そう...ですよね。突然すみませんでした。あの、最後に1つだけお願いを聞いてもらえませんか?」
「お?なんだ?俺に出来ることなら。」
この場を収めてくれそうな雰囲気に、龍平は前のめりで聞きます。
「一度だけ抱きしめてもらえませんか?」
「えっ!...とー。」
龍平は助けを求める様に隣を見ますが、村の人間はそれくらいしてやれと言う目で龍平を見るだけです。抱擁くらいなら村の人間みんなと親愛の意味を込めて挨拶代わりにしているのでそこまで難しい要求ではありません。村のみんなと同じように、他意はなくただ抱きしめればいいのです。龍平は覚悟を決めるとゆっくり真巳に両手を伸ばしました。そしてその手が背中に回ったところで後ろから強い力で抱きしめられました。
「りゅ、龍神様...!これは...!」
そう、後ろから龍平を抱きしめていたのは龍神様その人でした。龍平は顔を強張らせて浮気がバレてしまった時のように言い訳に走りますが、うまい言葉が出てきません。ただ金魚の様に口をパクパクと動かすだけです。
「龍平...浮気か?」
「ち、違います...よ...?」
「貴様に男色の趣味があったとは...。」
「いやそれを言うなら龍神様も性別は男性では?いや、龍神様ともそう言う関係であるとは思っていませんが。」
「饒舌だなぁ...?」
「すみません!でも本当に違うんです!これは真巳が...!ってあれ?」
龍神様の登場に気を取られている間に、目の前にいたはずの真巳の姿が消えていました。龍平は驚いて辺りを見回しましたが、やはり付近に誰もいません。
「龍平...真巳と言うのは先ほどまでここにいた青年だな?あれは蛇神だ。お主からかわれていたのだぁ。」
「え、はぁぁ!?」
「まあとはいえ、私以外の男に目移りするとは、お仕置きをせねばなぁ。すぐに屋敷に戻るぞ、龍平。」
「いやお仕置きは意味が分かりませんが...ってうわぁ!」
龍神様は龍平を抱きかかえるとそのまま空を飛んで行ってしまいました。その後龍平がどうなったのかは想像の限りでございますが、残された村人は「やっぱり愛されてるな」と口をそろえて言ったそうな。
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