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3話:ある女性の就職願いと塾開始

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 自宅から車で30分弱、景色が良く相模湖も見えて南向きで日が入る10畳のアトリエと8畳の寝室とガスコンロ、風呂、トイレ付きだった。 売値が300万円だったが買い手がいなかった。そこで、佐野公康が持ち主に電話を入れて賃貸、月3万円で貸さないかと聞くと、持ち主が最低5万円と言ったので、間を取って4万円と言うと、1日、2日考えさせてと言って電話切った。

 翌日の晩、持ち主から電話で4万円で貸すので修理が必要な時は全部、あなた持ちで私は出さないという条件で月4万円で貸すと言った。その話を両親にすると母が、お米は毎日いっぱい炊いて、おかずも作るから持って行けと言ってくれた。そして1980年1月15日から父のカローラを借りて家を出た。その後、そのアトリエに長机と椅子を入れて、中学生と高校生の塾を始めた。

 藤野駅前で進学塾のチラシを配り8人の中学してと9人の高校生が入ってきた。中学生が毎週2回の授業で月3千円、高校生が月5千円とし授業は土日祭日に1時間ずつ授業することにした。平日は図書館で本を読んで、たまに藤野駅近くの喫茶店で1人で、お茶していた。藤野は小さな町で八王子の大農家の息子が来て塾を開いたという噂が、直ぐ広まった。

 喫茶店でも佐野公康の方を見て談笑する若い女性が、たまにいた。そんなある日、喫茶店で珈琲とケーキセットを食べていると、小柄な可愛い女性が、ちょっと、お話して良いですかと来たので、どうぞと言い向かいに座った。私は玉村文代と言い八王子の商業高校を出て八王子の和装店で働いていたのですが、最近、和装の女性が減って、その店も閉店する事が決まり、困っていますと言った。

 そして、あなたの学習塾で雇ってもらえませんかと言った。それを聞いて安い給料しか出せませんがそれで良ければと言い、条件はと聞かれ現状では月に3万円で夕食付きと言う条件ですと言った。すると、もし生徒さんが増えたら給料も増えるのですかと聞くので、もちろんですよと答えると、是非、お願いしますと言うので、佐野公康が一応、履歴書も欲しいと言った。

 するとカバンから履歴書を出した。それを見ると1951年生まれ、住まいは、相模湖町と書いてあった。了解しましたと言い仕事は土日祭日で週2日勤務で、授業時間は書いてあるとおりですというと、たったこれだけですかと唖然とした。そこで現在の生徒さんは17人で1人4千円の月謝で合計6.8万円で、あなたに3万円を渡し私が3.8万円と言った。

 それを聞いて、そんなに給料を出して大丈夫なのですかと言うので、来年は君の力も借りて、もっと生徒を増やせば何とかなると思うよと笑うと驚いていた。それでは今週から来てもらえるのですねと聞くと彼女がわかりましたと言うので塾のパンフレットを渡した。自転車で通勤しますというので雨が降ったらと聞くと、カッパを着るだけですと笑いながら言った。

 1980年2月9日土曜日午後16時15分前に文代さんが佐野塾に来ると、佐野と文代さんが、長机と椅子を並べた。その後、ポットにお湯を沸かし机とホワイトボードを拭いた。やがて生徒が来て最初は中学生で塾と言うよりも質疑応答形式で授業を始めて、次々と生徒の質問に丁寧に佐野が説明した。生徒は問題集を解いて解らないところを聞く形式であり佐野も忙しいと言うほどでもなかった。

 授業が終わる17時10分前に、熱い、お茶ありますので飲んでと文代さんが言うと中学生が、ありがとうございますと言い飲んで帰って行った。入れ替わりに高校生がやってきて次々を椅子に座り17時から塾を開始、高校生も質疑応答形式で次々と質問に答えていた。ちょっと回答に自信がないと佐野が次までに詳しく調べて書面にして渡すと笑いながら言った。

 勉強の仕方が解らないと言う質問も多く英語はカセットテープレコーダーやNHKの放送を聞いて発音を良く聞くことが肝心と言い、数学は多くの問題を解くことが重要だと説明した。そして3月に入ると中学生、高校生の受験が始まり、早く合格した人から、ありがとうございますと、次々とお礼を言った。中には高校生で希望した国公立大学に入れなかったと言う生徒がいた。
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