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第12話:ジョブズのNeXT失敗と結婚

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 1986年アップルを追われたジョブズは失意の思いと今後の自分の野心について既に仲良くなった成宮賢に話した。それによると1984年後半から1985年にかけジョブズが、マッキントッシュの需要予測を大幅に誤りアップルは過剰在庫に悩まされ初めての赤字を計上した。アップルは従業員20%にあたる人数の人員削減をせざるを得なくなった。

 アップルの共同経営者のスカリーは会社経営を混乱させたのはジョブズだと考え、マッキントッシュ部門からジョブズを解任を取締役会に要求。それを察知したジョブズはスカリーの中国出張中にスカリーの追放を画策したがアップル・フランスで功績を上げていたジャン・ルイ・ガセーの密告でスカリーはジョブズが自分をアップルから追い出そうとしている事を知った。

 その後、スカリーは1985年5月の取締役会でジョブズに自分の追放を計画した事について問いただしこの結果ジョブズは会長職以外、アップルでの全ての仕事を剥奪された。ただスカリー本人は、この話を否定している。アップルでの仕事がなくなったジョブズは絶望し理想のコンピュータ像を求めて、米国の大学を広く回り、情報収集をしていた。

 そんな時、スタンフォード大学でノーベル賞受賞者の生物学者ポール・バーグと一緒に昼食を取った。その時、DNA組み替え実験の難しさの話題が上がりジョブズはバーグにコンピュータでのシミュレーションを提案し同時に高等教育のためのコンピュータという構想をぶち上げた。1985年9月、その構想を実現すべく、ジョブズは新会社NeXTを立ち上げるためアップル社に辞表をだした。

 そして決算報告を受け取るため1株だけを除いてアップルの持株、約650万株をすべて売った。その後、ジョブズは700万ドルをNeXTに投資し1987年までに、新しい製品が投入できると考えていたが、実際に、ネクストキューブ を発表できたのは1988年秋で、最終版の出荷は、1989年になった。ジョブズは、それでも「5年は先取りしている」と語った。

 しかし結果的にはMacOSXの12年の先取りした。1987年にはゼネラルモーターズで成功していたロス・ペローから2千万ドルの出資を1989年にはキヤノンから1億ドルの出資を引き出した。発表当初からのNeXT評価は高かったがジョブズの提案でフロッピードライブの代わりにキヤノンの5インチ光磁気ドライブを採用した事や加工の難しいマグネシウム合金の筐体を使う事などによって生産コストが高くついた。

 またモトローラからのマイクロプロセッサ ・MC68030の 供給が遅れるなどにより思うように販売が伸びなかった。その頃、成宮賢の親しい友人のジョブズは1990年、スタンフォード大学にて講演を行った際、聴衆の一人であったローレン・パウエルと出会い公演の後ジョブズにはミーティングがあったにもかかわらず、彼女と夕飯を食べに出かけ、急に親しくなった。

 そして翌年1991年、二人はヨセミテ国立公園で結婚式を挙げ9月には長男のリード・ポール・ジョブズが生まれた。成宮賢は結婚式に招待され長男出産の時にも祝電を送った。ジョブズの仕事の方は、ネクスト社でワークステーションとして実績がないのに高価などの理由で苦戦を強いられていた。

 その後1992年にアイビーエム互換機で動作するネクストステップのPCバージョンが発表された。しかし1993年2月10日には全社員530人のうち280人を退職させハードウェア部門をキヤノンに売却しNeXTはソフトウェア会社へと転じる事となり社名もNeXTソフトウェアへと変更。

 しかしネクストキューブ は開発と運用のし易さから世界初のウェブ・サーバとして用いられたという大きな功績も残している。世界初のウェブアプリケーションサーバ開発運用環境ウェブ・オブジェクツが開発・発売された。NEXTSTEPとその開発機能はWebサーバなどを比較的簡単に開発構築・運用できる利便さを兼ね備えたもので今日のMAC・OSにも受け継がれている。

 NeXTはソフト事業に特化した後、世界初のウェブアプリケーション開発・運用環境であるウェブ・オブジェクツを出荷、NEXTSTEPも自社内開発を行う金融機関などに受け入れられ、まずまず安定した経営をしていたが株式公開は出来なかった。1995年末、ジョブズは友人でオラクル創業者エリソンと共同で経営の傾いたアップルの買収を画策する。

エリソンはウインドウズを打倒すべく、ネットワークコンピューティングを提唱しジョブズとアップルによって実現しようと考えていたが最終的にジョブズと話が合わず買収提案が流れた。ジョブズは1996年の11月頃、アップルが自社内でのOS開発が暗礁に乗り上げ、次期OSの基本技術を外部に求めているという話を聞きアップルにNEXTSTEPを売り込もうと考えた。

 そのため当時アップルのCEOだったギル・アメリオに電話をかけ1985年の退社以来、久しぶりにアップルを訪れアメリオやマークラ達と話し合いを持ち簡単なプレゼンテーションを行った。アメリオは後に、この時のジョブズの対応を愛想の非常に良い好感の持てるものだったと言っている。

 アメリオとアップルCTOのエレン・ハンコックは次世代Mac OS・マッキントッシュを動かすための基礎的プログラムの候補として、Be社のBeOS、サン・マイクロ・ソラリス、マイクロソフト・ウインドウズNT、NEXTSTEPの4つを挙げた。元々アメリオはワークステーションやサーバで用いられ、堅実に動作するUNIXの中でも特にカーネギーメロン大学で開発されたMachに目を奪われていた。

 ところが詳しくて調べるとNEXTSTEPが最適と考え、特にウェブ・オブジェクツの出来に感動しジョブズからの売り込みがなくても交渉は行うつもりでいた。ジョブズはNEXTSTEPの良い面も悪い面もすべてさらけ出し完璧なプレゼンテーションを終えMAC・OSをNEXTSTEPに決まり1996年12月20日、アップルがNeXT社を4億ドルで買収することに合意。次期OSの基盤技術としてNEXTSTEPを採用すると発表。

 ジョブズはアップルに非常勤顧問という形で復帰し1997年2月、正式にNeXT買収が完了した。アップルに復帰する際、買収代金の一部として6か月先まで売却できないとの条件で150万株の株式を譲渡されたがアップルの復活を半ば諦めていた事もあり期日が来るなり、またしても1株を残して即座に売却。ジョブズは経営の実権を奪取すべく、アメリオを追い出すための画策を講じた。

「アメリオは今だにアップルの業績を向上させられない」として全ての役員を味方にしアメリオをCEOから引きずり下ろし7月にアメリオが退社すると経営陣はジョブズにCEO就任を要請したがジョブズは多忙を理由に断った。当時、筆頭株主だった立場を利用し役員達に辞任を迫る。結局、マイク・マークラを含む経営陣はほとんどが辞任し、その後任としてエリソンや、ジョブズと縁のある人物が就任した。
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