焼けぼっくいに火が付いた

２０話：金沢の夜と薫子が横浜で住居探し

　昨晩とは、違った料理で暖かい物と言うことで、料理長にも伝えておきますと言うと、最初に、ワインをついでもらい、乾杯し、前菜が出て、次に、回鍋肉「ホイコーロ－」が出て来た。

　これ旨いのよねと言うと、ウエイターが青椒肉絲「チンチャオロースー」も出しましょうかと聞くので、お願いしますと言った。今日は、昨晩とうって変わって、薫子は、笑顔で明るかった。

「金沢の店をたたんだら、私、横浜に帰りたいわ」と言い出した」
「清水さんの家の近くのアパートを探してくれませんかと笑った」
「良いよと返した。懐かしいな、みんな元気かな早く会いたいと言った」

　すると、清水が、僕も、実は、よく知らないのだと言い、高専を出て、オイルショックが起きて、急に不景気になったので、良い就職口がなくで、インクの会社に入って、重労働させられ、１年ちょいで退職した。

　その後、新聞の募集欄を見て、埼玉の鉄鋼関係の化学材料の会社で研究開発の仕事を約３年して、給料が上がらないので、退職した。そして、景気が良くなり初めて、製薬企業の医薬品宣伝の営業マンになった。

「そうなの、あなたも伴侶を亡くしたのと言い、寂しくなるわねと、しみじみと薫子がつぶやいた」。
それなら、「昔の青春をもう一度、気持ちだけでも謳歌しましょうよ」と、静かに告げた。
それを聞いて、清水が、その方が良いのかなと戸惑った。

「今まで、一生懸命働き、つれあいの面倒みたり、仕事を手伝った」
「だから、残り少ない人生、楽しむ権利はあるじゃないと薫子が笑顔で言った」
「確かに。そうかも知れないねと清水が、うなずいた」
「この話の同意してくれるなら私も生まれ育った横浜に帰ろうと答えた」

「だって、金沢では、仕事関係の人脈はあるけど、友人と呼べる人はいない」のよと寂しげに言った。
「横浜に行けば、昔の仲間にも会えるし、楽しみだわと、はしゃいだ」
「の決断を聞いて、できるだけ俺も協力するよと清水が言い握手をした」

　かなり酒が回り、時刻も２２時近くなり、もう、そろそろ、帰らなければと薫子が言った。
「その時、突然、横浜の高校時代、わざわざ、女友達に、無理言って、で１時間もかけて、八王子郊外の清水君の学校の高専祭に行ったのは、あなたが大好きだったから」


「あの時、なんで、自分の心に素直に行動して清水君の胸に飛び込まなかったのか後悔する日も多かったのよと言い、涙ぐんだ」
　もう、遅いから、タクシーを呼んで上げると言い、店を出て、フロントからタクシーを呼んでもらった。

「薫子を見送る時、彼女が、後で読んでと、封筒を渡した」
「清水は、また、横浜で、会おうと言い薫子を抱きしめて別れた」
「すると、薫子の目から涙がこぼれ落ちていた」

　それを振り切るようにタクシーが出ると清水は後ろを振り返らず、ホテルに入っていった。その晩も、なかなか寝付けずウイスキーを飲んだ。帰り際、薫子が言った事が気になって、しかたなかった。

「２０歳すぎた頃は、高専を卒業する事と不景気で良い就職口がなくて困っていた」
「薫子の事など、全く眼中になかったのも事実だった」
「人生って、意外に残酷なものだと、思い返した」

　でも、よく考えてみると、中学卒業する時、清水は、２人の娘に興味を持っていた。１人は、地元の農家の娘、照子、もう１人が薫子だった。
「照子は、美人と言うよりも、小柄で、可愛い感じの娘で多くの男にもてた」
「清水は、ライバルの男が多く、気後れして遠くから照子を眺めるだけでデートや食事に誘ったこともなかった」

「その点、北欧系の外人っぽく、痩せて、背が高く、赤毛の薫子は、個性的な美人であった」
「まるで、モデルさんを見る様に周りの男は、眺めるだけだった」
「そんな薫子を気にかけて声をかけたのは、清水だけだった」
「だから、周りの友人達も、清水と薫子はできてると中学３年の時、よくからかわれた」のを思い出した。

「それを感じていた薫子は、清水と話している時が、多かった」
「そのためか、だれも薫子にアプローチするものはいなかった」
「女の子達も男友達からも将来、薫子と、清水君、結婚するわよと言われた」
「しかし、彼女が横浜を離れると、忘れられていった」