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第3節 バラモンの王都アルゴン
17、大きな加護紋様の入墨
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アルゴンでバーライトの元で医療全般を学びつつ、要望に応じてマッサージの仕事を引き受けて一年が経っていた。
リリーは16歳。
美しさが際立ち、どこでも目をひく美人になっていた。
彼女は第二王子バーライトの秘蔵っ子という噂がある。
マッサージだけではなく、夜のマッサージも上手で王子は大層気に入っている、と。
その噂は、彼女に常に護衛がつき、男性の仕事は受けないという徹底したところから、さらに信憑性が増しているのだった。
ある昼下がり、護衛はほんの一時間、予期せぬ睡魔に襲われ眠ったことがあった。
ちょうどその時、お茶をするリリーに声をかけたのは、旅の甘い顔立ちの男だった。
「わたしは吟遊詩人なのです」
彼は、リリーの黒曜石の瞳を探るようにみていた。
いつも、男性からの声かけをことごとく遮るリリーの護衛は、別のテーブルでつっぷして豪快にイビキをかいて寝ていた。
彼は、親衛隊の次長、ガーネットだ。
よっぽど疲れていたのだろうか?
最近、王都を守る警察兵団内部が騒がしいようだった。ガーネットは、しばしば調整に入っていた。
「吟遊詩人!素敵ですね。わたし生の演奏とか好きです」
それをきいて、吟遊詩人は複雑な表情をした。
その顔が何を意味しているか、リリーには読みとけない。
「明日、王宮に呼ばれているのですが、長旅のせいか、声が出にくくなっていて、リリーさんはマッサージ師でいらっしゃると聞いたので、すこし喉や胸を緩めてくださったらありがたいのですが、依頼をして良いでしょうか」
控えめな依頼だった。
通常、どんな依頼でも男性相手は全て断っているが、してあげたくなった。
昼寝をむさぼる護衛は、当分目を覚ましそうにない。
「この近くに宿をとっているのです。護衛の方には、メモを残しておきましょう」
リリーは初めてバーライト以外の男性客をとった。
彼はノアールと名乗った。
近くの宿の部屋へ案内される。
部屋はきれいに整頓されていた。
小振りなたて琴が椅子におかれている。
複雑な薬草の匂いもした。
彼は医者でもあるかもしれない、となんとなく思う。
リリーはノアールを寝かせ、まずは体を全体の滞りを流す、手のひらと指の圧のマッサージを行う。
細い脚は見た目や雰囲気より、かなり筋肉質だ。
よく巡っている感じがした。
続いて、腕にいく。
楽器を扱う手だと思う。
指のいっぽんいっぽんの隅々まで、体のエネルギーがいきわたっている。
素晴らしい演奏をするのだろうなと、感じる。
声が出にくいとは、上半身が緊張しているからかもしれなかった。
丁寧に腕や指を終えると、その流れで大胸筋をほぐし、呼吸に関係する筋肉の緊張をほぐしていく。
上着の上まで止められているボタンを外して、鎖骨の下、さらに肋骨の間の筋肉をゆるめようとした。
ふたつ、みっつはずしたところで、リリーは固まった。
見事な入墨があらわれたからだ。
かなり大きく鮮やかなそれに、リリーは見覚えがあるような気がした。
あがらうことも忘れて、指が勝手にボタンをはずしていく、、。
全てはずし終わって、リリーはその彫られた大きな精霊の加護紋様に釘付けになった。
最近では記憶喪失になる以前のことは、思い出そうとすることもなくなっていたリリーだったが、見覚えがあるという感覚は、失った記憶の中の記憶だと思った。
吟遊詩人はリリーの手をつかんだ。
「マッサージは素肌にするのですか?」
強い光を持つその眼は、リリーを見ていた。
「いえ、今日は、服のうえからで大丈夫なのですが、その素晴らしい加護の紋様を見たくなったのです。勝手にごめんなさい」
ふっと吟遊詩人は笑う。
「わたしの加護紋様を見たければ、わたしと褥を共にすれば、すべてみせて差し上げますが」
リリーは真っ赤になって、手をほどき、ひらいたノアールのシャツを乱暴に閉じ合わせた。
恥ずかしくて顔から火が吹きそうだった。
「ほんとうにごめんなさい。
お代金はいりませんから!!明日の王宮での演奏会頑張ってくださいっっ」
リリーは吟遊詩人を置いて駆け出した。
自分のしたことを恥ずかしくて、なかったことに、黒く塗りつぶしたいような気持ちだった。
残されたノアールは、胸をはだけたまま、喜びを噛み締めていた。
(ああ、ムハンマド王子!リリアスはここにいました!!)
ムハンマド一行とリリアスとが生き別れてから既に一年以上経過していた。
リリーは16歳。
美しさが際立ち、どこでも目をひく美人になっていた。
彼女は第二王子バーライトの秘蔵っ子という噂がある。
マッサージだけではなく、夜のマッサージも上手で王子は大層気に入っている、と。
その噂は、彼女に常に護衛がつき、男性の仕事は受けないという徹底したところから、さらに信憑性が増しているのだった。
ある昼下がり、護衛はほんの一時間、予期せぬ睡魔に襲われ眠ったことがあった。
ちょうどその時、お茶をするリリーに声をかけたのは、旅の甘い顔立ちの男だった。
「わたしは吟遊詩人なのです」
彼は、リリーの黒曜石の瞳を探るようにみていた。
いつも、男性からの声かけをことごとく遮るリリーの護衛は、別のテーブルでつっぷして豪快にイビキをかいて寝ていた。
彼は、親衛隊の次長、ガーネットだ。
よっぽど疲れていたのだろうか?
最近、王都を守る警察兵団内部が騒がしいようだった。ガーネットは、しばしば調整に入っていた。
「吟遊詩人!素敵ですね。わたし生の演奏とか好きです」
それをきいて、吟遊詩人は複雑な表情をした。
その顔が何を意味しているか、リリーには読みとけない。
「明日、王宮に呼ばれているのですが、長旅のせいか、声が出にくくなっていて、リリーさんはマッサージ師でいらっしゃると聞いたので、すこし喉や胸を緩めてくださったらありがたいのですが、依頼をして良いでしょうか」
控えめな依頼だった。
通常、どんな依頼でも男性相手は全て断っているが、してあげたくなった。
昼寝をむさぼる護衛は、当分目を覚ましそうにない。
「この近くに宿をとっているのです。護衛の方には、メモを残しておきましょう」
リリーは初めてバーライト以外の男性客をとった。
彼はノアールと名乗った。
近くの宿の部屋へ案内される。
部屋はきれいに整頓されていた。
小振りなたて琴が椅子におかれている。
複雑な薬草の匂いもした。
彼は医者でもあるかもしれない、となんとなく思う。
リリーはノアールを寝かせ、まずは体を全体の滞りを流す、手のひらと指の圧のマッサージを行う。
細い脚は見た目や雰囲気より、かなり筋肉質だ。
よく巡っている感じがした。
続いて、腕にいく。
楽器を扱う手だと思う。
指のいっぽんいっぽんの隅々まで、体のエネルギーがいきわたっている。
素晴らしい演奏をするのだろうなと、感じる。
声が出にくいとは、上半身が緊張しているからかもしれなかった。
丁寧に腕や指を終えると、その流れで大胸筋をほぐし、呼吸に関係する筋肉の緊張をほぐしていく。
上着の上まで止められているボタンを外して、鎖骨の下、さらに肋骨の間の筋肉をゆるめようとした。
ふたつ、みっつはずしたところで、リリーは固まった。
見事な入墨があらわれたからだ。
かなり大きく鮮やかなそれに、リリーは見覚えがあるような気がした。
あがらうことも忘れて、指が勝手にボタンをはずしていく、、。
全てはずし終わって、リリーはその彫られた大きな精霊の加護紋様に釘付けになった。
最近では記憶喪失になる以前のことは、思い出そうとすることもなくなっていたリリーだったが、見覚えがあるという感覚は、失った記憶の中の記憶だと思った。
吟遊詩人はリリーの手をつかんだ。
「マッサージは素肌にするのですか?」
強い光を持つその眼は、リリーを見ていた。
「いえ、今日は、服のうえからで大丈夫なのですが、その素晴らしい加護の紋様を見たくなったのです。勝手にごめんなさい」
ふっと吟遊詩人は笑う。
「わたしの加護紋様を見たければ、わたしと褥を共にすれば、すべてみせて差し上げますが」
リリーは真っ赤になって、手をほどき、ひらいたノアールのシャツを乱暴に閉じ合わせた。
恥ずかしくて顔から火が吹きそうだった。
「ほんとうにごめんなさい。
お代金はいりませんから!!明日の王宮での演奏会頑張ってくださいっっ」
リリーは吟遊詩人を置いて駆け出した。
自分のしたことを恥ずかしくて、なかったことに、黒く塗りつぶしたいような気持ちだった。
残されたノアールは、胸をはだけたまま、喜びを噛み締めていた。
(ああ、ムハンマド王子!リリアスはここにいました!!)
ムハンマド一行とリリアスとが生き別れてから既に一年以上経過していた。
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