舞姫の君

第11話 それぞれの道

113-4、それぞれの道（第11話完「舞姫の君」完結）

　ブルースは最後にユーディアを目に焼き付けようと、半ば群衆に埋もれながらも振り返る。
　ユーディアが体を乗り出しあたりをうかがっていた。
　すぐにブルースをみつけた。

　ユーディアとブルースは見えないもので結ばれている。
　どんなに人込みに紛れていても互いに見つけられないはずはないのだ。

　ユーディアの手が差し出され、口と、しなやかな指がブルースへ言葉を紡ぐ。
　いつもなら軽々と読み取れる距離であったが、別れを前にしてブルースの目はこらえても盛り上がってくる涙でにじみ、読み切れなかった。


　わたしは元気にしている！みんなによろしく伝えて頂戴！


　だったのか。
　それとも、


　ブルース、わたしの影、わたしの半身。心より愛している。
　だから、わたしを追いて行かないで！


　だったのか。
　
　別れの言葉を読めなかったのは、痛恨の極み。
　だが、それは自分の思いたいように解釈していいということではないか。

　自分はモルガン族の長になる。
　ベルゼラの王子妃、いずれは王妃になるユーディアと様々な局面で対面することになるだろう。
　モルガン族は身体能力と機動力に優れている。
　優れた騎馬軍団を養成し、ユーディアを力づくで取り戻すことも、また対話を重ねて諸外国と共存と宥和の道を行くこともできる。
　すべては今から始まるのだ。
　ここでのユーディアとの別れは、決して今生の別れではない。
　しばしの別れ。
　ブルースは涙を飲み込んだ。
　

　王子一行は大歓声を背に、王城に迎え入れられる。
　ブルースは群衆の中に消えた。





　第11話　それぞれの道　完、
　　　　　「舞姫の君」完

　長い物語になってしまいました。
　最後までお付き合いくださいまして、心より感謝申し上げます！！

2022/9/14　藤雪花