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パリスの第一王子

23、手持ち無沙汰な午後

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学園祭は年に一度の一大イベントだった。

男子は体術、剣術で今年の一番を決め、国王バーライトから褒美と王都国立の栄誉を与えられる。
女子は、手づくり作品、絵画、踊り、楽器、歌など、なんでもありで、我こそは!と思うものが参加し、今年の女神の座を競う。

リリアスは途中入学なので、どちらにも参加をしないため、皆が準備や体術、剣術に忙しいなか一人で、なんとなく、寂しい思いをしていた。

リリアスはカフェの木陰で一人休みながら、お茶をしていた。
今日は図書館にいかずサボりの日だった。三人の騎士もズインも、試合の練習でこれないし、勉強の気分ではない。

(なんだか疲れた、男の振り、女の振り、僕は振りをしないといけないのがしんどくなってきた)

学べば学ぶほど、どちらの性別も少し無理をしなければならないような気持ちになっていた。

「どうされたのですか?」

声がかかり、はっとリリアスは顔を上げた。
見慣れない男がリリアスがひとりで座るテーブルの椅子を引いていた。
質の良い服を着ていて、金に近い茶色の髪と、青い眼が誰かを連想させたが、繋がらない。

「いえ、別になんでも...お席どうぞ」

男は席に座る。手にはリリアスと同じミントティーがあった。

「あなたは、学園祭の準備をしないのですか?」

普段なら、リリアスは三騎士に守られて、男子から話しかけられることはない。その三騎士は今日はおらず、リリアスはなんとなく手持ちぶさただった。

「途中入学なので、どちらにも出番がなくて。あなたは、学校の関係者ですか?」

男は、年は25ぐらい。
ムハンマドより少し若いぐらいと思う。
非常に育ちの良さそうな、やわらかい表情をしている。

「バラモンの一番の学校を視察に来ているのです。色んな国や人種を受け入れて、他国でも有名なんですよ、この学校は。
今日は着いたところで、暇なんです」

男は柔らかくわらう。

「すこしお時間があるなら、お茶の後、案内してくれたら嬉しいのですけど」

「いいよ」

リリアスの口が、考えないうちに言っていた。つい、優しい雰囲気に流された。
胸のどこかでちりちりと何かが訴えかけていたが、リリアスにはわからない。

「あなたはどこから来られたのですか?」
男はいいたくなさそうな感じだった。

「東の国。カルだ。きみは?」
リリアスは自分を知らない人だとほっとする。
男の振り、女の振りは不要だった。

「バラモンのリリアス」

よろしく!
とカルは握手の手を伸ばした。
リリアスも手を伸ばした。
きゅっと軽く握手をすると、何かが流れ込んでくるようだった。
すこし驚いてカルを見ると、同じように不思議な顔をして、カルはリリアスを見ていた。

(彼も何か精霊の加護を持っているのかもしれない)

リリアスは思った。
そして、思ったことも忘れてしまう。



ミントティーをのみ終えると、リリアスは赤レンガ造りの学舎のいくつかを案内する。
授業を終えているので、学生もまばらだ。
体術の練習場にいくと、いつも以上に練習するものが多くて活気があった。

「バラモン式体術は、試合形式としてもルールが決まっていて面白いですね!」   
 
カルはあちこちで、一本!の掛声がかかるのをしばらく見ていう。

「本来の実戦では、けり、つき、パンチ、投げ。なんでもありの体術です。
相手を倒すことを目的にしています。
試合になると、危険な突きはできません。
勝敗を競うようでいて、いかに正々堂々と勝負するかも含まれています。
その延長の最たるものが、競技体術です。
相手に勝つのではなくて完璧な形だけを競うものです」

リリアスはカルが興味がありそうなのを見てとった。
彼も何か格闘技をするのだろうか?と興味がわく。
優しげな顔立からは、人と殴り合う姿が想像できない。

「ほら、いまからあそこで、競技体術をしますよ」

リリアスはカルを近くまで案内する。
「見学者だよ!見ていい?」

朝練に良く参加している二人だった。
声をかけると、他の練習者も皆振り返りリリアスと来訪者を見たが、特に気にかけた様子はない。
アルマンたちも気がついて、手を振る。
入学希望の親などが訪れて見学することは良くあることだった。

きちんと上着とベルトで整えた二人は
向かい合い、15度の礼からはじまる。
攻撃するのも受け止めたり、かわしたりするのも決まった完璧な形だ。
攻撃は同じものは使わず、攻守が目まぐるしく変わる。
最後は始めに決められていた側が、時間通りに決めの一手を完璧に決める。
負ける側も教科書のように受け身を取るが、一本をとられて終わる。

「すごい迫力だな」

男は感心していう。
眼が輝いていた。

「私もしてみたいのだが、できるかな?競技体術ではなくて、普通の勝負の体術を。本場でするのは始めてだ!」


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