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スティル王弟

21、ハーブ丸薬

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ハーブ丸薬は白檀と大麻とその他のいろいろな力のあるハーブのエキスを凝縮させたものだった。
情熱をかきたて、浮遊感もあり、自分がひろがっていく感じがする。
同時に、意識を大地に潜らせ、大地の声を拾い地に満ちていく感じがする。
精霊の大地に呼応し、躍動する力を強く刺激する。

(この薬、もしかしてやばいかも!)

リリアスは制御できなくなるのを感じた。
いつもはこの胸に存在を感じ、取り巻く世界と調和させていたものが、管理者を失い、好き勝手に動き出すような感じだった。


ニコラスは、奥の部屋にパリスの若者を案内する。そこにはリリアスがベットに倒れ込むように、横倒しになっていた。
半眼で呼吸は荒く、頬が上気し、汗で黒髪が額や頬に張り付いている。
リリアスの意識はぶっとんでいた。
その様子をみて、青年が息を飲む。
その娘が誰だかすぐに気がついた。
彼は、リリアスに図書館で声を掛けたパリスの貴族だった。

「この方は王都国立の、、、」

「お知り合いでしたか。には少し前に、ハーブ丸薬を召し上がっていただきました」
ニコラスはパリスの男をじっと見る。

リリアスと彼が知りあいとは想定していない。どんな関係か見極めなくてはならない。

「このまま、彼と試してもらってもいいですし、最初の予定通り、わたしとあなたで試しても良いですよ。
それから今後のことはお考えください」

ふらっと男はベッドにより、おずおずとリリアスの額に張り付いた髪をかき上げた。

はこういう仕事をしているのか?まさか、こんなところで再会するとは思わなかった。
図書館であった時はまったくそんなに風には見えなかった、、」

ニコラスは不機嫌に眉を寄せた。
「リリアスはわたしと同じ、愛人だからあの学校に通っているのですよ!毎週後見人が通って、彼に奉仕し、今の立場を得ている!僕となんの変わりもない!」
握りこんだ拳を緩める。

「ただ今日はゲストです。ほら熱くて、苦しんでますよ、服を緩めてあげてはいかがですか?」

「愛人、、」
男には、図書館で静かに集中していた娘が、年老いた好色な金持ちに毎週凌辱されている姿が浮かぶ。

「なんてかわいそうに、、私が助けてやろうか。パリスに連れ帰ってなに不自由ない暮らしを送ろうか、、」
といいながらも、リリアスの上着を緩めたが、そこでとまる。
「ハーブ丸薬はどうも苦しそうだ。この取引はやめた方が良い気がしてきたのだが、、」

ニコラスは焦る。
このままではご主人様に失敗を報告しなくてはならなくなる。

「そういわないで、わたしと試しましょう。彼には少し効きすぎたかもしれません。体質が関係あるのでしょう」

ニコラスは微笑みながら、パリスの男に近づく。すでに口のなかには丸薬を含んでいる。
ベットに膝をつき、パリスの男の肩に手を掛けて、顔を寄せても、男に嫌がる様子はない。
ニコラスには夜に咲く花のような艶めいた美しさがあった。彼が本気で迫ると断られることはほとんどない。
ニコラスは男に丸薬を口移しで飲ませる。
恍惚としたリリアスの横で、二人は互いの服を脱がせ始めた。

(熱い、、、)

隣で行われ始めた気配に、ムハンマドとの激しい情事が思い出される。
情熱の炎が暴走し始めていた。
同時に、意識が一気に跳躍した。
空から王宮、学校、ムハンマドの邸宅を見る。
ムハンマドを見つけた。
真剣な顔で一人で仕事をしていた。いつもの親衛隊は別室で話をしている。

(落ちる!!)

リリアスはムハンマドのところへ落ちた。
ムハンマドのグラスの水が、不意にしぶきをあげる。
ムハンマドの驚いた顔。

「、、、リリアスか?」

水が泡立ったかと思うと、しゅんと音をたてて蒸発した。

(風が、、)
巻き上がる。

路地裏のニコラスのカフェのそばから発生する。一部の屋根が巻き上げられ、細く長く天に跳ぶ。
アルゴンの町の人達は、にわかに発生した小さな竜巻を指差した。

スティルはリリアスの部屋の隣にいた。
非常にやばい状態だった。
自分も、師匠もだ。

(俺はいいけど、師匠がやばい。無駄に綺麗でやたらもてるやつだから)

手首を丈夫な麻紐で縛られている。
力では肌が擦りきれるだけだ。

(燃やせれば!)
と思う。
師匠のいう、胸の中の熱に働きかけて、力を貸してもらうのだ。
その時、建物がガタガタと軋んだ。
足もとから巻き上がる感覚。

(室内に風!?これって師匠!?)

目を閉じると、風の精霊の力の暴走を感じた。

(ほんとうに、やばいことになってる。早くしないと、ここは俺ごとバラバラに巻き上げられるかも!!)

風が耳を掠める。
スティル助けて。
聞こえたような気がした。
さらに、スティルの視界に映像が流れ込む。

ニコラスと男が怪しく絡んでいた。
そのすぐ横でリリアスは黒髪を乱れさせて動けない。
ニコラスは、男との情事にリリアスを加えようと、手を伸ばした。
はだけさせていた服を、はがすようにして脱がした。
リリアスはなされるがまま。
抵抗できないほど、体の自由が利かなかった。
それ以上に、抵抗することを忘れるほど、恍惚としていた。
すると、晒しを巻く上半身が現れた。

「なんだよ、これ!怪我でもしてるのか?」
いまいましく、ニコラスはいう。
リリアスの晒しをほどきにかかる。

「わたしに集中してくれないか?」
男はニコラスの頭を押し下げて咥えさせた。

リリアスを動かしているのは荒い息のみ。
ほどけかけた晒しから、ふわっと胸がこぼれ落ちる。


(そりゃ、ないだろ!!)
ようやくスティルの中で何かがつながった。
(炎よ、俺を自由にしてくれ!)

麻紐がよじれながら燃えて灰になる。
自由になった手首には火傷の後ひとつなかった。

「リリアス!どこだ!」

スティルにはリリアスの暴走している炎がわかる。他にもいろいろリリアスの中で暴れている感じだった。

(これって、違う意味でリリアスやばいのではっっ)

スティルは扉を蹴破った。
あられもない姿のニコラスと男が視界に飛び込んでくるが、重要なのはリリアスだった。
リリアスに飛び付き、ベッドから引摺り下ろす。
緩んだ晒しの上から自分の上着を被せる。
そのまま腕に抱く。

「リリアス、正気に戻れ!!このままでは、ここが燃える!!」
リリアスに反応がない。

くそっ。
12歳の王弟スティルは焦った。

彼にはわかる。
リリアスは何時、何かに火を放ってもおかしくない状態だった。

(こんなとき、師匠ならどうする?!)

スティルはワイングラスの発火事件を思いだした。
暴走する精霊の加護を鎮めたのは、

「リリアス!?ごめん!!」

スティルは唇を深く重ねた。
肌を触れあわせると、リリアスの内側の暴れ狂うものがわかる。
そのうちのひとつに焦点を合わせる。

(リリアス鎮まるんだ!)

「あ、、」

リリアスが何回か瞬きをした。
視点が定まっていく。
もう一度スティルはキスをした。
乱れていたリリアスの内側が鎮まっていく。

「スティル、、」

「戻ってきたか、師匠」
スティルはぎゅっと抱き締めた。

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