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パリスの闇
33、運命の人
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カフェの奥には、二階に続く細い階段がある。
古い木造の家屋で、かつては遊郭として使われていたものを、最近は趣があると好まれていて、カフェや雑貨屋などおしゃれなお店に改装しているという。
水が豊富で、樹海に限らず、森も豊かなパリスならではの木造を活かした建物だった。
「こういう歴史ある建物がなくなるのが忍びなくて、援助している。ここはわたしが建て直したので、わたしのものなのだ」
一国の王子が自分のものだというのも滑稽だと、ルージュも理解している。
「音楽に、歌に、絵画。たまに踊る者もいていつもにぎやかだよ。
今日は祭りだからこんなんだけどね。わたしの息抜き」
あの娘も息抜き?
喉まででかかった問いを飲み込む。
それはリリアスにはまったく関係のないことだ。
「ここでいい?」
そこは、こじんまりした個室で、奥には綺麗に整えられたベッド。
手前にはカフェテーブル。窓は通路側に面していて、いつまでもやまない、悲鳴と笑い声の陽気な喧騒が入ってきていた。
リリアスに椅子をすすめ、ルージュは窓に半分腰かける。
「それで、あなたの話を聞かせてほしい」
リリアスは二人きりの個室に緊張する。
「ルージュ、本当にごめん。エディンバラであなたのもとに戻れなかったことを許して。
あの時は、このまま未来が決まってしまいそうで、あなたが王子だということにも怖気づいていて。
沢山の人にかしずかれていて、急にあなたが遠い人になったように感じたんだ。あのまま、小姓?の宙ぶらりんな感じで外の世界で生きることを決断するには、僕は15で何にも知らない子供だったんだと思う。
もっと色々な世界を見てみたかった、、」
ルージュは目を閉じて聞いている。
「そのために、わたしから逃げたのか?あの男に拘束されていたのではなくて?
わたしの運命の人よ。
わたしがあなたを運命と思ったように、あなたはわたしを運命の人だとは思わなかったのか?
世界ならわたしがいくらでも見せてやったのに!」
リリアスは運命という響きにぶるっと震えた。
樹海でルージュに会い、彼が自分を古き約定の取引としたのは、そうなる運命だったのだと思う。
三百年前に、パリスの建国の王ルシルがリヒターから大事な彼の宝石、リシュアを奪い去ったように、リリアスを樹海から奪ったのはルージュだった。
運命はもう一度、同じ魂を持つもの同士に、同じことを繰り返せというのか?
それが、赤い髪の砂漠の王子の出現により、二人の運命が狂ったのだ。
それをルージュは再びあるべき姿に戻そうとしている。
「あなたのために、パリスの王になることを決意した。
この三年間地盤を固めて、支援者を増やし、神殿のやつらに協力し、プリュッシェル領主の娘と結婚し、」
(結婚、、)
結婚という響きは、リリアスに冷たくのし掛かる。
ルージュは窓から離れていた。
深い夜の闇のような青い目でリリアスを見つめる。
「わたしの元に戻って来てほしい」
部屋の温度が下がり、樹海の香りがしたような気がした。
リリアスは悟った。
約定の条件は森の民とパリスの次期王との間の取り決めだった。
あの時、ルージュは王位を兄に譲るつもりであったのに、リリアスを得るためだけに、その意志を変え、約定の定める次期王になる決心をしたのだ。
パリス国を建国したルシルとまるで同じだった。
リシュアだった感覚が甦る。
(駄目だ!)
リリアスは胸の中のリシュアを必死に封じ込めようとした。
リシュアは夫であるリヒターを愛しながらも、どこかでルシルを愛していた。
リリアスのムハンマドはどうだ?
ムハンマドはリリアスを愛しこそすれ、妻にする気配もないではないか?
その事実は、ムハンマドと喧嘩した頃から知らない内にリリアスの心を芯から冷やしていた。
「あなたを再び手に入れられるのならば、名目ばかりの妻と別れてもいい」
ルージュは手を伸ばした。
無意識の内にリリアスの手はその手をとる。
ルージュはその手の甲にキスをする。
「思い出したんだ、その腕の紋様。
ルシル王とリシュア王妃の肖像画で、王妃の腕に描かれている紋様だ。
あなたはまるでリシュアのようだ」
ルシルの目でリリアスを見る。
(駄目だ!僕に残るリシュアに引きずられる!!)
ルージュは唇を重ねた。
リリアスは抵抗をしようとあがいたが、リリアスの記憶のリシュアは逆に求めていた。
一度、ルージュは唇を離す。
ふわっと浮く感覚に意識もふわっと広がる。
次のキスは舌を絡め、お互い求め合うキスだった。
気がつくとベッドに横たえられていた。
「リリアス」
リシュアと聞こえる。
服が捲り上げられて胸を愛撫される。
そのまま乳首をかじられ、吸い上げられた。
「ああ、、」
喘ぎが洩れる。
これは自分か、リシュアか?
自分を求めるこの美しい男は、ルージュかルシルか?
リリアスの理性はもう崩れ去ったも同然だった。
「あなたは本当に女になったのか?あれだけ男になりたかったのに」
と責めるようにいう。
ルージュはスカートのなかを探ろうとする。
「僕は完全体のプロトタイプ」
「完全体?」
ルージュはその秘密を探ろうと顔を下げていく。
リリアスの肌に金糸が流れる。ルージュの髪さえ愛撫だった。
脚が開かれ、見つめられ、触れられた。
そして、ルージュは完全体の意味を知る。
リリアスはもう性別が決定してもよい頃だったが、どちらも完全な形で存在していた。
「もう、夢に出てくるのはやめて、、」
「夢に?」
「僕を解放して、、」
解放の意味を取り違え、ルージュはリリアスのを口に含んだ。
リリアスの目の奥で沢山の星が瞬いた!
「リリアス!」
激しくドアをたたく音。
どなり声はバラーだ。
リリアスは正気に引き戻された。
ルージュを突き放す。
服をかきあわせた。
(僕は何をしようとしたんだ!)
リリアスはベットから転がるように降りて、ルージュから離れた。
「リリアス!」
リリアスは風でルージュを押し返す。
「ごめん!!僕をもう忘れてほしい」
リリアスはドアにぶつかるようにして開ける。
バラーが今にも蹴破ろうとしているところだった。
「リリアス!無事か!!」
バラーの横を顔を下げたまますり抜ける。
リリアスは通りを走った。
面白がった町の狙撃手が、バシャバシャと水をかける。
服に、顔に、髪にかかる。
一刻も早く、ルージュのそばから離れたかった。
息が切れた。
リリアスは涙のにじむ目で前方がよく見えなかった。激しく誰かにぶつかった。
そのまま、男に抱き止められる。
口許になにかを押し付けられた。
意識が遠退いていく。
「こいつか?」
「そうよ!わたしのルーの前でチョロチョロしている女よ!巫女と替わったと言っていたわ!力ある者を探していたでしょう?巫女だったものならぴったりなんじゃない?
黒髪だし。さっさと引き取って頂戴」
リリアスは完全に意識を失った。
ルージュは部屋に残された。
リリアスが自分の意思でムハンマドのところに留まったことは衝撃だった。
ずっとあの赤毛の男に拉致されたと思っていたのだ。
『僕を解放してほしい』
リリアスの願いは、約定からの完全な解放。
ルージュはリリアスを心より愛している。
彼の願いがそれならば、願い通り解放してあげたい、と思う。
一方で、バラモンと戦争になっても、リリアスを奪い去り自分のものにせよ!
という声も自分の中から湧き上がる。
その声は続ける。
そして、巨大なパリス帝国を築くのだ!
それが自分の声なのか、ルージュにはわからない。
古い木造の家屋で、かつては遊郭として使われていたものを、最近は趣があると好まれていて、カフェや雑貨屋などおしゃれなお店に改装しているという。
水が豊富で、樹海に限らず、森も豊かなパリスならではの木造を活かした建物だった。
「こういう歴史ある建物がなくなるのが忍びなくて、援助している。ここはわたしが建て直したので、わたしのものなのだ」
一国の王子が自分のものだというのも滑稽だと、ルージュも理解している。
「音楽に、歌に、絵画。たまに踊る者もいていつもにぎやかだよ。
今日は祭りだからこんなんだけどね。わたしの息抜き」
あの娘も息抜き?
喉まででかかった問いを飲み込む。
それはリリアスにはまったく関係のないことだ。
「ここでいい?」
そこは、こじんまりした個室で、奥には綺麗に整えられたベッド。
手前にはカフェテーブル。窓は通路側に面していて、いつまでもやまない、悲鳴と笑い声の陽気な喧騒が入ってきていた。
リリアスに椅子をすすめ、ルージュは窓に半分腰かける。
「それで、あなたの話を聞かせてほしい」
リリアスは二人きりの個室に緊張する。
「ルージュ、本当にごめん。エディンバラであなたのもとに戻れなかったことを許して。
あの時は、このまま未来が決まってしまいそうで、あなたが王子だということにも怖気づいていて。
沢山の人にかしずかれていて、急にあなたが遠い人になったように感じたんだ。あのまま、小姓?の宙ぶらりんな感じで外の世界で生きることを決断するには、僕は15で何にも知らない子供だったんだと思う。
もっと色々な世界を見てみたかった、、」
ルージュは目を閉じて聞いている。
「そのために、わたしから逃げたのか?あの男に拘束されていたのではなくて?
わたしの運命の人よ。
わたしがあなたを運命と思ったように、あなたはわたしを運命の人だとは思わなかったのか?
世界ならわたしがいくらでも見せてやったのに!」
リリアスは運命という響きにぶるっと震えた。
樹海でルージュに会い、彼が自分を古き約定の取引としたのは、そうなる運命だったのだと思う。
三百年前に、パリスの建国の王ルシルがリヒターから大事な彼の宝石、リシュアを奪い去ったように、リリアスを樹海から奪ったのはルージュだった。
運命はもう一度、同じ魂を持つもの同士に、同じことを繰り返せというのか?
それが、赤い髪の砂漠の王子の出現により、二人の運命が狂ったのだ。
それをルージュは再びあるべき姿に戻そうとしている。
「あなたのために、パリスの王になることを決意した。
この三年間地盤を固めて、支援者を増やし、神殿のやつらに協力し、プリュッシェル領主の娘と結婚し、」
(結婚、、)
結婚という響きは、リリアスに冷たくのし掛かる。
ルージュは窓から離れていた。
深い夜の闇のような青い目でリリアスを見つめる。
「わたしの元に戻って来てほしい」
部屋の温度が下がり、樹海の香りがしたような気がした。
リリアスは悟った。
約定の条件は森の民とパリスの次期王との間の取り決めだった。
あの時、ルージュは王位を兄に譲るつもりであったのに、リリアスを得るためだけに、その意志を変え、約定の定める次期王になる決心をしたのだ。
パリス国を建国したルシルとまるで同じだった。
リシュアだった感覚が甦る。
(駄目だ!)
リリアスは胸の中のリシュアを必死に封じ込めようとした。
リシュアは夫であるリヒターを愛しながらも、どこかでルシルを愛していた。
リリアスのムハンマドはどうだ?
ムハンマドはリリアスを愛しこそすれ、妻にする気配もないではないか?
その事実は、ムハンマドと喧嘩した頃から知らない内にリリアスの心を芯から冷やしていた。
「あなたを再び手に入れられるのならば、名目ばかりの妻と別れてもいい」
ルージュは手を伸ばした。
無意識の内にリリアスの手はその手をとる。
ルージュはその手の甲にキスをする。
「思い出したんだ、その腕の紋様。
ルシル王とリシュア王妃の肖像画で、王妃の腕に描かれている紋様だ。
あなたはまるでリシュアのようだ」
ルシルの目でリリアスを見る。
(駄目だ!僕に残るリシュアに引きずられる!!)
ルージュは唇を重ねた。
リリアスは抵抗をしようとあがいたが、リリアスの記憶のリシュアは逆に求めていた。
一度、ルージュは唇を離す。
ふわっと浮く感覚に意識もふわっと広がる。
次のキスは舌を絡め、お互い求め合うキスだった。
気がつくとベッドに横たえられていた。
「リリアス」
リシュアと聞こえる。
服が捲り上げられて胸を愛撫される。
そのまま乳首をかじられ、吸い上げられた。
「ああ、、」
喘ぎが洩れる。
これは自分か、リシュアか?
自分を求めるこの美しい男は、ルージュかルシルか?
リリアスの理性はもう崩れ去ったも同然だった。
「あなたは本当に女になったのか?あれだけ男になりたかったのに」
と責めるようにいう。
ルージュはスカートのなかを探ろうとする。
「僕は完全体のプロトタイプ」
「完全体?」
ルージュはその秘密を探ろうと顔を下げていく。
リリアスの肌に金糸が流れる。ルージュの髪さえ愛撫だった。
脚が開かれ、見つめられ、触れられた。
そして、ルージュは完全体の意味を知る。
リリアスはもう性別が決定してもよい頃だったが、どちらも完全な形で存在していた。
「もう、夢に出てくるのはやめて、、」
「夢に?」
「僕を解放して、、」
解放の意味を取り違え、ルージュはリリアスのを口に含んだ。
リリアスの目の奥で沢山の星が瞬いた!
「リリアス!」
激しくドアをたたく音。
どなり声はバラーだ。
リリアスは正気に引き戻された。
ルージュを突き放す。
服をかきあわせた。
(僕は何をしようとしたんだ!)
リリアスはベットから転がるように降りて、ルージュから離れた。
「リリアス!」
リリアスは風でルージュを押し返す。
「ごめん!!僕をもう忘れてほしい」
リリアスはドアにぶつかるようにして開ける。
バラーが今にも蹴破ろうとしているところだった。
「リリアス!無事か!!」
バラーの横を顔を下げたまますり抜ける。
リリアスは通りを走った。
面白がった町の狙撃手が、バシャバシャと水をかける。
服に、顔に、髪にかかる。
一刻も早く、ルージュのそばから離れたかった。
息が切れた。
リリアスは涙のにじむ目で前方がよく見えなかった。激しく誰かにぶつかった。
そのまま、男に抱き止められる。
口許になにかを押し付けられた。
意識が遠退いていく。
「こいつか?」
「そうよ!わたしのルーの前でチョロチョロしている女よ!巫女と替わったと言っていたわ!力ある者を探していたでしょう?巫女だったものならぴったりなんじゃない?
黒髪だし。さっさと引き取って頂戴」
リリアスは完全に意識を失った。
ルージュは部屋に残された。
リリアスが自分の意思でムハンマドのところに留まったことは衝撃だった。
ずっとあの赤毛の男に拉致されたと思っていたのだ。
『僕を解放してほしい』
リリアスの願いは、約定からの完全な解放。
ルージュはリリアスを心より愛している。
彼の願いがそれならば、願い通り解放してあげたい、と思う。
一方で、バラモンと戦争になっても、リリアスを奪い去り自分のものにせよ!
という声も自分の中から湧き上がる。
その声は続ける。
そして、巨大なパリス帝国を築くのだ!
それが自分の声なのか、ルージュにはわからない。
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